第04話「偉大なるプラウダー(Part,1)」


 肌身を晒す純白のドレス。黒い羽衣に灰色のマフラー。

 両手で燃え盛る漆黒の炎。片手で振るわれる巨大な鎌。

 それは死神というべきか。或いは妖精というべきなのか。


 変身。そう、少女は変身した。

 制服姿の堅苦しい少女はもういない。


「あぁ~……成績上位から選出してんだろうなとは思ったけど、やっぱ美少女の方はアレかぁ……わかってはいたけどよぉお……!」

「美しい! 美しいですわ!!」

 女子生徒達は華麗なる変身を見せた鴇上叉奈に賞賛と崇拝の拍手。

「一人はいるだろうなとは思ったけど、やっぱりいたかぁ……!!」

「酷だッ! あまりにも酷だぜッ! 見たくもないものを見せられるのか俺たちは!」

 一方男子生徒は見るも無様な葬式モード。

「もしかしなくても【プラウダー】だよな……しかもアレは相当な上位種だ!!」

「間違いなく【神人レベル】と交約してやがるぜ……! ダメだっ! 終わりなんだっ! アイツは絶対に勝てねぇッ! ここで俺たちの上下関係を作ろうって魂胆なのかよっ! どれだけ捻くれてやがるんだチクショウがっ……!!!」

 プラウダー。そう、彼女は偉大なるプラウダー。


 ----今、置いていかれているであろう傍観者たちには説明する義務がある!

 ----説明しよう! プラウダーとは何なのか!? 人知を超えた究極の姿の正体とやらを!!


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 数千年前、人類の歴史が誕生した後に神々は滅んだ。神話時代は終わりをつげた。

 アルカは塵となって大地へ溶け込み星と一つになった。アルカは滅んだとされていた。


 ……しかし!

 アルカは滅んでなどいなかった!!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 しかし、それは生命として存在しているわけではない。

 その存在は“魂”とでも言うべきだろうか。

 数千年以上も続いた人類の歴史の中、世界を想う神と果てなき野望を抱く神。

地縛霊という存在に落ちぶれようが神々は待っていた……復活のその瞬間を!


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 神々が再びこの世界に具現化したのは実に三百年前の事。

 一人の侍武士が着物を脱ぎ棄て褌一枚で刀を手に戦場を駆け抜け、常人ではあり得ぬ戦果を成し遂げたという歴史が存在する。


 そう、その武士こそが人類最古にして最初の【プラウダー】!!

 人類の歴史に身を潜めていた神の魂と契約をし、再びこの世に姿を現した英雄なのであるッ!!


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 人類の間では交約と呼ばれている。

 契約内容はこうだ。『私が再びこの世界に顕現するため、貴公の体を依り代とさせてほしい。その代わり私の力の全てを共に使わせることを約束しよう。共に戦うことをここに誓おう』。そういうものだ。


 言うなれば等価交換。 しかし、神に選ばれるのは相当な栄誉である。

 神と共に戦い戦場を駆け抜ける。人々は契約者を【プラウダー】と呼んだ!


 初めてプラウダーが誕生した歴史から数百年の間。実に少数ではあるがその存在が他でも確認されている! 神にも匹敵する力を身に着け、一騎当千の英雄となった人間達の姿を!


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「もうだめだ。神人レベルと交約したプラウダーが相手となれば……男というカテゴリーでしかないアイツに勝ち目ねぇよ。そうだ、終わりだ。終わりなんだ」

 プラウダーは一騎当千の英雄となり得る存在だと言った。そんな人物が相手となれば同じ条件のプラウダーでない限り、力の差は釣り合わない。

 だが同時にこう思う者もいるはずだ。海東蓮汰郎もまた、その神人レベルと交約したプラウダーの可能性がある。教師ジャネッツが選んだ二人だ。彼女と同等の実力者であることを見込んだうえで選定したはずだと。

「俺達男は絶対に女を超えられねぇ……デカすぎるんだ」

 しかしこの戦い。そう甘くはない。 拳銃ナイフ代わりに突きつけられる残酷な真実がそこにある。

「【神人】と【神獣】の差ってのはな……ッ!」

 そうこのデュエル……最早”八百長も同然の出来レース”のようなもの

 男性陣女性陣。今この場にいる生徒達全員から見れば……この戦い、最初から“鴇上叉奈に軍配があがっているも必然”であった。


          ・

          ・

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 女がプラウダーになれるのなら、当然男もプラウダーになれる。

 しかし、その戦力と扱いには相当な差がある。


 神と呼ばれた前世代の民は大きく二つに分けられる。


 神人と神獣。即ち、人と獣。

 神獣は人類の歴史で言う犬や猫などの動物だと思えばよい。知能は持たず本能のみで狩りと生存を続けた神聖なる生物。中には人類と関わりを持つことで賢しくなれる種族もいた。


 となれば神人とは……知能ある者。神の世界で言う人類。

 魔法を駆使する存在として“完成された存在”なのである。


 ではここで一度、話を戻す事にしよう。

 何故、男のプラウダーが女のプラウダーに対し大きな差があるのかを。








 男性は、

 


 神人と交約出来るのはこの世界でだ。


 数百年前。褌一枚で数万人以上の鎧武者を一人で屠った最強の剣士。そのプラウダーまた……


 元は“城下で団子を売っていただけの平凡な町娘”であったのだ……!!


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「そうよッ! これは決闘でも何でもない! 彼は悲鳴を上げるか、泣いて許しを乞うかの選択肢しかないのよ! 希望なんて何もないってことよっ! おわかり!?」

 そうだ無理だ、不可能だ! 実に馬鹿げている!

「悪趣味なスプラッターショーだッ! 身の程を知れってことかよぉお!」

 デモンストレーションはデモンストレーションでもこれは……『女性のプラウダーこそが絶対の存在で、男性は戦場においては捨て駒にもなり得ぬ役立たず』という事実をつきつける不愉快なショーなのだ!


「あの野郎も可愛そうだぜ! 幾ら成績が良く立ってこんな扱いじゃな……!」

 海東蓮汰郎。実に不幸な少年であろうか……彼は選ばれてしまったのだ。

「生贄だっ……俺達が如何に小さいかを示す証明にされちまったんだ……!」

 栄誉は栄誉でも、それは『礎』!!

 これから始まる聖戦の歴史において、女性の戦士達の踏み台になる生贄の栄誉!

 簡単に言えば噛ませ犬だ! 主役を引き立てるための殺られ役! なすすべもなく己の無力を訴え無様に散ることを許可された哀しき生き物! 負け犬! 敗北者ッ!!

「……っ」

「見ろよ。アイツ呆然としてやがるぜ……ありゃ絶望してるな。表情一つ変えやしねぇ。終わりだ終わり」

 海東蓮汰郎はただ立ち尽くしているのみであった。

 神にも等しい存在へと変貌を遂げた鴇上叉奈を前にして、ただ呆然とするのみ!


「……ごめんね」

 鴇上叉奈は小声の謝罪。

「でも、勝負は勝負だから……!!」

 戦場に立った以上は平等な戦士である! 中途半端な戦いなど、数多くの戦場を駆け抜けた鬼軍曹ジャネッツが許すはずもない!

 そして叉奈本人にもプライドがある! 神に選ばれた存在として……最強のプラウダーとして戦う絶対の覚悟が! 故に、手加減なんて出来るはずもない!!

「さようなら」

 鴇上叉奈の手の平から放たれるのは漆黒の黒い炎! 漆黒のファイアボール!

 ただ茫然と立ちつくのみの海東蓮汰郎を容易く飲み込む漆黒の闇! 海東蓮汰郎をものの一瞬で飲み込み爆散させた!


 ----それは一瞬の勝負だった。

 なすすべもないあっという間の戦い。これこそがプラウダー。これこそが正義。

 ただ見せつけられただけのデモンストレーションに歓喜と失望の声が上がるだけ、















『おい、蓮汰郎』


 誰もがそう思っていたであろう。


『なにをボーっとしやがって、お前ってやつは』


 しかし、生徒達の期待は裏切られる。

 黒い焦煙の中、姿を現してゆく……!


『ははぁ? 分かったぜ。お前、さては……そういうことかよ』


 尻もちをついた間抜けな姿勢を晒す海東蓮汰郎。

 それと……もう一人。


な?』


 西洋の王族を思わせる衣装。

 その場にはいなかったはずの“子供”。


 男には破壊不可能回避不能の一撃。子供はその一撃を受け止めた。


 さぁ、讃えるのだ。今ここに、

 もう一人の“アルカ”の登場である……ッ!!



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<<解説>>

●學園艇・オデュセウス号

 世界中に存在する凶悪魔法使いやテロ集団と戦う戦士達を育成するために作り上げられた超巨大教育機関・學園艇の中の一つである。

 在学3年。留年はあり。魔法使いだけではなく、魔法を使えない魔兵器使いや技術顧問候補生、戦術予報士志願者なども入学できる。

 

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