『天体観測』

その人は、月のような人だった。

自己主張しない感じが。

それでいて、

地球になくてはならないものであることも。

付かず離れず、近過ぎず遠過ぎず。

それでいて離れない。

これもそうだ、月のようだ。


​──僕らの関係は、既に完成していたんだ。

僕が教室の席から君を覗いていた頃から、なにも変化せずそのままに。

「ん……なんだい?」

「いや、堪らなく愛しくなったので」

「だからって抱きしめるというのは」

「いやでしたか?」

「……いやじゃないよ。

愛してますよ、だんなさま」

僕らは少女のような、少年のような。

あの頃から10年経っても変わらない。

20年経っても、30年経っても。

死がふたりを分かつまで。

僕ら2人は、もう変わらない。



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