第6話 一年生男子の集まり

翌朝、ヤマケンこと朱雀院蒼人は朝早くから精力的に動いていた。




妻の優菜に歓迎会の準備を頼み、自分は男子生徒の宿泊先を調べて、教員に許可を取っていたのだ。




「フゥーハハ!よくきたな!」


「いらっしゃい~、初めてのお客さんだよ~」




ハイテンションで同級生男子をヤマケンが出迎え、ほわほわした口調で優菜が二人の男子を部屋に案内した。




「邪魔するぜ」


「おおー、広い家だなあ……学園の意図が透けて見えるなあ」




柏木と須田が二人してソワソワしながら、ヤマケンの家に入る。




男子が希少な時代、男友達の家に遊びに行くなんて体験をできるのは大抵、共学に入って初めてのことになる。




よって、ヤマケン含め三人とも初めての体験をしているのだ。




「こうして巡り会えた事を心から喜ぶぞ」


「へいへい」


「まあ、悪い気はしないかな」


「コップどうぞ~、好きなの選んでね」




優菜がみんなにコップを渡していく。第一印象、ひねくれものの柏木も初めての男友達と遊ぶシチュエーションにソワソワして落ち着かない様子だった。




須田はマイペースながらも。眼鏡を光らせてコーラを手に取っていた。




「ドクペとか飲む人いるんだ……」


「ははは!選ばれしものが飲む、知的飲料だからな!」


「それどっかできいたな……」




柏木が初めて見る飲み物に、若干引き気味でいるとヤマケンが勢いよくそう返した。それを聞いた須田が何か聞き覚えのあるフレーズに、何かを思い出しそうになっていた。




「あ、それ古典の……」


「ほう、貴様もあれをしっている口か……」


「なんだよ、内緒話か?漫画なら俺にもデータよこせよ」




須田が思い出し、ヤマケンが反応する。それを見て、自分も輪に加わりたい柏木がデータをねだる。




「おう、帰りにもっていくがいい!それにしても、話がわかるとは……ここで我がフェイバリットライトアームが見つかるかもしれぬな」


「懐かしいなあ……どおりで、クラス編成も化学や技術といった面々を希望してたわけか」


「男が勉強しても、この先できるとしたら教師か政治家ぐらいしかねえのにな……」




柏木が暗い口調でそういうと、須田顎に手を当てて考える。




「まあ、パイロットとかレーサーとか危険の伴うとされる仕事は無理だけど……前例がないだけで、意外と科学者や研究関連についてはイケナイという法律は何気にないんだよね」


「ほう」




須田の解説に反応したのは、ヤマケンだ。




「勿論、妻の企業やバックアップを当てにして……こっそり参加するという裏道も無くはない」


「ふむ」


「結局女頼みか……」




須田の説明にヤマケンが興味深そうに聞き入り、柏木は相変わらずひねた考えを持つ。




「そういえばヤマケンはフェミナチ地区生まれだったよな?」


「ヤマケンは仮の名、朱雀院蒼人だ!」


「世を忍ぶには仮の名の方がいいよね」


「……なるほど」




須田の意見に、少しだけ考える様子を見せて、ヤマケンがヤマケン呼びを受け入れた。




「よくそのメンタルとキャラを維持できたな」


「あー、確かにフェミナチ地区ならバンバン浮きまくりだろそれ」


「……朱雀院にならなければ、俺はどうなっていたかわからん」




須田と柏木の疑問に、ヤマケンが真面目なトーンで答えた。




「なるほど……」




須田が納得してそれ以上は何もいわなかった。優菜が申し訳なさそうにして、黙り続けているのがなんとも言い難く彼らにはうつる。




「そういえば貴様ら二人は、嫁を連れてこなかったのだな?」




ヤマケンが話を変える。二人とも独身のまま進学してきているのが、地味にきになっていたのだ。




「ハン、俺らの価値が分かったとたんに手のひらを反す奴らをそばになんて置きたくねえよ」


「うちも酷かった……それまではれ物扱いだったくせに、結婚の時期になったとたん媚びてきてね」


「あー……うちもあったわ」




柏木と須田の話をきいて、ヤマケンが思い出す。そういえば自分も『私を嫁にして共学に推薦しろ!』と命令されたことを。




「まあ。小さいときからずっと変わらあないでいてくれた、優菜がいたことは恵まれていたんだな……」


「照れるよ~」




ヤマケンと優菜の様子をみて、柏木と須田が若干考える。もし、自分の信頼できる人と一緒になれるならそれは幸せなのかもしれないと。




「新学期までもう少しだが、多分男子が集まれる機会はそうそうない」


「だな、俺も共学の情報をみているから知っている」


「ふむ、そうであったな」




須田が真面目なトーンで二人を見た。




「いいか、何かあれば絶対に打ち明けろ。決して抜け駆けするんじゃないぞ?」




須田の言う抜け駆けは、自殺の事だ。




共学は男子生徒の病気や自殺がやはり多いところだ。入学した生徒が全員在学中に亡くなり、卒業生男子が0の年もあるほどなのだ。




「うむ、三人、これから学園を盛り上げてやろうじゃないか」


「君だけは不変でいてくれよ」




目を輝かせ、自信満々にそう言い放つヤマケンに須田が期待と願望をこめてそういった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る