第15話 蔵書楼の侵入者

 第七皇子である鴻洞こうどう殿下が亡くなった……。


 天籟てんらいたちは急いで執務室に戻る。月鈴ユーリンも普段着に着替えてから、追っていった。


「まずいことになったな」

 天籟と捧日が顔を見合わせた。

「……何がまずいのですか」

 執務室にあとから入った月鈴は息を切らしながら聞く。


「これから捜査するだろうが、第七皇子の鴻洞兄上は……。一番、オレを虐げていた……。だから、病気ではなく殺人と認定されたら、オレには動機があるから真っ先に怪しまれる。理由はなんだっていいんだ、現状不在証明アリバイがあってもなくても」

「そんな……だって虐げていたことも証拠がないじゃないですか」

「いいや、それが鴻洞兄上は皆の前でやっていた。どちらかというと来儀兄上が煽っていたがね」

「……」

 捧日は悔しそうに天籟を見つめた。


「天籟さまを陥れたい誰かが、犯人だと、動機があるって思わせたいのね? ならもう鴻洞殿下を殺した犯人をみつければ文句ないんでしょ! 調べるわよ」

「そうだが、できるのか」

「もちろん秘術を活用するわよ。今使わないならいつ使うのよ? やるしかないでしょう」

 息をまく月鈴に宦官の捧日が落ち着かせた。そして天籟が少し考えていう。


「そうだな……。では、どうやって犯人を特定しようか。どのような状況で亡くなったかわかればこちらで調べることはできる」

「誰が知っているの?」

「うむ。離れにある蔵書楼ぞうしょろうは申請すれば誰でも出入りできるが、死因、状況など事件関連の書物となると、奥の保管場所に厳重に管理されていて、オレでも立ち入ることができない――。死因が突き止められれば手掛かりになるやも」


「では、今回はネズミの意識を乗っ取って、忍び込み調べてみましょうか?」

「ネズミか……。ネズミ⁉」

 月鈴を二度見する。ネズミは苦手だったのか天籟は固まってしまった。

「天籟さま。今さらなんですが……。小動物ならなんでも意識を乗っ取れますよ」

「そうか……。ではお願いする。他に方法がなくて――」


 ずっとやりとりを見守っていた浩宇ハオユーが手を挙げた。

「はーい! そういうことなら命を懸けて月鈴を補佐するよ。まず僕はネズミ捕獲してくる!」

 捧日と天籟は拱手きょうしゅしてこうべをを垂れる。



 ***



 数日後――。


 議事堂近くに蔵書楼ぞうしょろうがある。蔵書楼にはありとあらゆる書物が納めている。基本、持ち出しは禁止だが、出世したい官吏など、受け付けで申請すれば書物を借りることができる。訪れる者の多くは主に調べものや学びたい者など、つくえもたくさん並べてあるので勉強ができるのだ。


「今、事件や事故を捜査する組織、六扇門りくせんもん(宮廷内警察)が動いている。捜査の進捗状況を記録した、その書物が奥の保管庫にある。官吏がネズミ一匹も通させないと自慢げに言っていた」

「ふんふん、たしかに保管庫の前の重厚な扉があるからどうやって侵入すればいいの?」

「小さな通風口がある。そこから入れないかな? 見取り図はこんな感じだ」

 天籟が紙に書いて説明する。


「かしこまりました」

 蔵書桜ぞうしょろう近くの裏庭に天幕をたて、浩宇ハオユーが捕獲して、きれいに洗ったネズミを月鈴の横に置いた。しばらく経つと……。


 ぴょん

 天幕から出てきた灰色のネズミは天籟の肩に乗った。ネズミは小さな布を斜め掛けにして背負っていた。

「月鈴か……。しかし背負った中身はなんだ?」

 変な感じで天籟がネズミに話しかけた。

「ちゅう」

 ネズミは返事をして飛び降り、通風口に入っていった。天籟は心配そうに見守り心の中でつぶやいた。


(月鈴、気を付けるんだぞ……)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る