第四話 お荷物異界人、無事追放

 歩き始めて数十分が経った。1度休憩を挟んでからは歩きっぱなしだ。それもずっと、緩やかではあるが上り坂で太腿が涙目を浮かべている。


 洞窟の中だというのに相変わらず壁がぼんやりと光っていて明るい。お陰様で壁にぶつかったりなんてことはないが、これはこれで時間の感覚が奪われて体内時計がずれていきそうだ。聞けばダンジョンと呼ばれる場所ではこういう光景は当たり前だそうだ。ダンジョン自体も種類があって、洞窟型はこうなのだと言う。


 そんなダンジョンの壁だが、僕がふと顔を上げると視界の端が妙に明るかった。其方に視線を向けてみると、他の壁よりも一際明るい場所があった。眩しいくらいだが、皆は見ようともしない。代わりに目を凝らして様子を見ると、光の中に亀裂があるのが見える。どうやら細いながらに道が続いてるみたいだ。


「フィンギーさん、あっちに道があるみたいですよ?」

「ぁん? なんだ、何もねーじゃねーか」

「えっ? でもほら、めっちゃ明るいから見難いかもしれないですけど、切れ目があって」

「全然明るくねーし。つーか寄り道してる余裕あると思ってんの?」


 振り返り、詰め寄ってきたフィンギーさんが僕を上から下へ、下から上へと睨め付ける。ヤンキーかな?


「ほら行くぞ。今日中に出てぇんだから」

「あ、ちょ……まぁいいや……」


 確かに余裕なんてないのは確かだ。あの先に何かしらお宝があったとしてもそれを抱える余裕もない。何故ならば僕というお荷物がすでにあるからだ。シンプルに泣きそう。


 結局僕は光の先を確かめることもなく坂道を進む。隣を歩くミルルさんが首を傾げていたので、すみませんと会釈をして周りに歩調を合わせて先を進んだ。



  □   □   □   □



 道中、出現するモンスターの全てを勇者であるフィンギーさんが袈裟懸けに斬り捨てる。出会い頭に斬り捨てるものだから『え? 今モンスター居たの?』なんて感じの情けない部外者状態で洞窟探検を終えた僕は地上と呼ばれた大広間に居た。


 周囲にはフィンギーさんのような剣を持つ人や、エレーナさんのような魔法使い(ただし露出はそれ程激しくない)。それにミルルさんみたいな法衣を着た人も沢山居た。中には全身鎧に大きな盾を持った人や、でかい剣を持った如何にもな人も居て多種多様だ。


「此奴等は探索者って呼ばれる奴等だ。このダンジョンを探索する者ってことだ。俺等はこれでも最上位のパーティーなんだぜ」

「勇者ですもんねぇ」

「まぁな!」


 さて、こうしてお話している時間は此処までだ。これから先、僕と彼等は別々の道を行く。短いい間だったけれど、こうして出会えたのは本当に運命以外の何物でもなかった。


「短い間でしたけれど、お世話になりました。助けてもらった恩はずっと忘れません」

「気にすんなよ。じゃ、お前は俺等のパーティーからは追放な!」

「追放って……」

「そう言っといた方が気が楽だろ。お前が」


 フィンギーさんがジッと僕を見つめる。その後ろには少し寂しそうな二人が居た。


「勝手に期待して悪かったな。俺はそういう人間なんだ。だからあんまり考えなくていいからな」

「そうそう! 此奴はいっつも無茶ばっかり言うんだから!」

「でも、悪い人ではないです」

「あはは……それは、理解してるつもりです」


 信頼されているのが伝わってくる。やっぱり僕が思った通り、口が悪いだけで良い人なのだ。


「お世話になりっぱなしで、ご迷惑をお掛けしました。でも、ありがとうございました!」


 3人に向かって頭を下げる。一時的でも勇者パーティーと一緒に居られて良かった。初めて出会えたのがこの人達で本当に良かったと、心からそう思えた。


「えっと……その、さっき教えてもらった通りに行けば着くんですよね?」

「あぁ。あっちに死体用の馬車があるから乗せてもらえよ」

「分かりました。じゃあ、またいつか」

「おぅ。元気でな!」


 3人に手を振り、僕は踵を返して馬車乗り場へ向かった。数ある馬車の中でもダンジョンで亡くなった人が乗る黒い馬車。それに同乗させてもらい、僕は墓の街へ行く。


 其処から始まる僕の物語。どうなるか分からない未来。


 いつまで経ってもふわふわと脳が浮ついて仕方なかった。

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