期待外れと追放された神眼使いが《墓守》に就職したら墓地にダンジョンが出来てました

紙風船

第一話 伊佐埼七緒は転移する

フッと、蝋燭の火消すように呆気なく意識が消える。


「っ、……う、わ!」


 しかし消し切れなかった火のように揺らぎ、記憶にない光景が掻き消え、意識が戻る。徹夜続きだった所為か、睡魔に意識を持っていかれたらしい。咄嗟に転ぶまいと伸ばした手は空を掴んでいた。


「……?」


 その手の向こう側に広がるのは薄っすらと光る岩壁。おかしいな……さっきまで僕は深夜のビル内を警備するアルバイトをしてたはずだけど……。


 キョロキョロと辺りを見回してもやっぱりビル内じゃない。洞窟、かな。ナチュラルな感じがする。


 もしかしたらだけど僕は転ぶまいと意識を取り戻していたつもりで、実は見事にすっ転んで頭を打って気絶。変な夢でも見ているのかもしれない。さっき見た光景もその一部だろう。


「いててて……」


 こういう時、本当にどうしたらいいのか分からなくて咄嗟に頬をつねってみた。馬鹿馬鹿しいが、痛かったので現実……かもしれない。


 どうしよう。右も左も分からない。前後に続く洞窟は縦も横も広い。何だろう、手彫りのトンネルと言えば伝わるだろうか。その壁が薄っすらと光っているのだ。触っても苔のような物が光っているのではなく、ちゃんと壁が、岩が光っていた。


「見た事ないな、こんなの……まるでファンタジーだな」


 ポツリと呟いた言葉にハッとする。


「ファンタジーか、これ!」


 今まで居た場所とは全く違う世界。理由付け出来ない発光する壁。これが夢じゃなければ何だと言うのか。


 知らぬ間に異世界に来ていたなんて信じられないが、現実が目の前に広がっている。これを受け入れられないようじゃこの先生きていけないだろう。


 やるしかない。生き残らなければ、僕は何処にも行けないのだ。

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