第15話 京都にあなたと5

「ん? あら、アンタ、京都行くの?」

 お母さんがわたしのスマホを覗き込む。さっきまで見ていたオススメスポットを紹介しているブログが表示されている。

「うん。どこ行くか考えてるとこ。おもしろかった小説に出てくる場所に行きたいなって」

「聖地巡礼ってやつね」

「そんなところかな」

「お母さんも昔京都行ったわ~」

「お母さんはどのあたり行ったの?」

「数回、メジャーなところ……八坂さんとか清水寺とかは学校の遠足で行ったでしょー。高校生の時に友達と受験する予定もないのに京都大学を見に行ったりもしたわね」

「へぇ~」

 お母さんもこの辺りの生まれだから、やっぱり頻繁には行ってなかったんだなぁ。

「今のところ、どこ行こうと考えてんの?」

河原町かわらまち付近かな。せっかくだし、神社どこか行きたいなって」

「神社いっぱいあるからねぇ……あ、思い出した」

「なにが?」

「お母さんの友達が、大学時代、しょうもないクソ男につかまったのよ。友達を良いように騙しては、お金むしり取ってパチンコ行ったり、キャバクラ行ったりするヤツでね。何度も『早く別れな』ってみんなでアドバイスしてたんだけど、『本当は良い人なの。だから見捨てられない』って。でも、どんどん身も心もボロボロになっていってさ。最終的には『別れたいのに、別れてもらえない』、友達の気持ちが離れ始めたら、向こうの束縛がきつくなっていく最悪の状況になって、さすがに私たちもどうしようもなくてね」

「かわいそう……」

「気分転換も兼ねて、神頼みに行ったのが安井さんだったのよ」

「安井さん?」

安井金毘羅宮やすいこんぴらぐう。ちょっと調べてみなさい」

「う、うん」

 検索欄に「安井金毘羅宮」と入力する。

「出た?」

「出たけど、なんかすごいね」

 公式サイトの下には、「最強の縁切り神社!」「怖いくらい効果絶大!」とか人の目を惹きつけるパワーワードの書かれたブログがずらりと並ぶ。

「安井さんはね、縁切りがすごい強力なの」

「ひぇ……」

「ここ、行けばわかるけど、ここだけとんでもなく人の強い気が感じられてね。訪れる人みんな本気だから、絵馬も生々しくって。『恋人と別れたい』とか恋愛がらみもあれば、『ブラックな会社からうまく辞めれますように』とかもあったわね」

「お母さん、人の絵馬見るなんて……」

「つける時に見えちゃったんだもん。仕方ないでしょ」


 行った人の感想も書かれていて、「人間関係のもつれに疲れ、藁をもすがる思いで参拝。苦手な人とお別れ出来、肩の荷が下りて楽になりました」とか、「ここにお参りしたおかげで、嫌いな人たちと縁が切れました!」という感想ばかりだ。

 反対に、「何も知らず彼女と一緒に参拝したら、帰り道に些細なことでケンカになり、そのまま別れました」というのも多く、「別れたくない男女は行くな」とも書かれている。


「お母さんのお友達はどうなったの?」

「絵馬に思いそのまま『彼氏と別れたい』って書いてたわね。お参りした一週間後に向こうから別れを切り出してきたのよ。好きな人が出来たんですって。あんなに友達に執着してたのに」

「すぐに効果が出てたんだ……」

「いやぁ、あそこのパワーは偉大よ。アンタもポヤポヤしてるんだから、何か変なのに付きまとわれたらここに行ったらいいわよ」

「覚えとくけど、わたしは今幸せだもん」

「君彦くんだっけ? 今度家に連れてきなさいね。アンタの初めての彼氏、お母さん楽しみにしてんだから」

「はーい」

 お母さんには彼氏が出来たことを話した。話したらすごく喜んでくれたと同時に、どんな人なのかとても気になっているみたい。お父さんと悠ちゃんには話してないからまだ知らない……はず。お父さんとそんなに話さないし、悠ちゃんはあんな感じだから……。でも、胸を張って紹介できる素敵な男性だから、家族に早く紹介できる日が来たらいいな。

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