LAA 赤ずきん  6


 病人の家にしてはやけにさっぱり片付いているリビングルームに、オオカミは首をかしげます。



「おばあさん、病気で寝ていたのではなかったの?」

 オオカミはクッキーをひとつ口に入れながら(それはとても美味しいクッキーでした!)、キッチンのおばあさんに声をかけました。

 

「それはね、おまえが来るのがうれしくて、病気なんてすっかり良くなったからだよ」

 キッチンから優しげなおばあさんの声が返ってきます。

 おばあさんはお茶のしたくをしているようです。キッチンは壁で隔てられていて、赤いテンテッドストライプの壁には赤ずきんちゃんとおばあさんの写真がいくつも飾られています。



「おばあさん、いろんな音がするけど、何の音?」

 キッチンから、何やらいろいろな音がしているのが気になったのです。


「これはね、お茶のしたくの音だよ。お湯を沸かして、ポットやカップを用意しているんだよ」

 はあなるほど、とオオカミは思います。

 オオカミはまともにお茶なんか飲んだことがありません。お茶会に招待されたこともありません。

「お茶の準備ってのは、こんなにいろんな音がするものなんだな」

 これが幸せティータイムの音なのか、などとオオカミは勝手に解釈しました。



 もうひとつクッキーをつまもうと手をのばしたとき、オオカミは向かいの椅子――おばあさんが座るはずの――から、人の声がしたのでぎょっとしました。



「おばあさん! どどどどうして誰かがなんかしゃべってるの?!」

 椅子からは、何やらジーっ、ジーっ、という音と、『……Over?』という不吉な男の声がします。



「それはね……おまえを捕まえるためだよ!」



 叫ぶと同時に、キッチンからおばあさんが飛び出してきました。

 手にはティーセット……ではなく、頑丈そうなロープを握っています。


「ほほほ! そんなヘタな変装で騙されるか痴れ者が! 耳も長い鼻も丸出しじゃないの!」

 おばあさんは人が変わったように高笑いしました。


 オオカミは呆然自失なにがなにやらさっぱりわかりませんが、一刻も早く逃げなければ、ということだけはわかりました。


「くそっ、仕切り直しだ――って、うわわ?!」


 立ち上がろうとしたオオカミ、椅子ごとすってーん、と転がりました。


「ほほほ! 椅子に超強力アロンアルフアをたっぷり塗ってあったのよ!」


 椅子はべったりとオオカミのお尻にくっついて離れません。


「く、くそう! 騙しやがったな!!」

「なにが騙しやがったな、ですか。あんたは私と赤ずきんを騙して食べる気だったのでしょう?」


 図星なのでオオカミは言い返せません。


「ついでに〇ER ERAのLAAキャップをメルカリに出そうとか考えてたでしょう?」


 これも図星です。

 その代金ゲットを見越して、ゲームセンターで全財産を赤ずきんちゃんに渡したのですから。


「観念しなさい!あんたも年貢の納めどきよ!」

 おばあさんは時代劇の岡っ引きのようなことを言い、ロープでオオカミを椅子ごとぐるぐる巻きにしてしまいました。


 そして、自分の椅子からなにやら黒い物体を取り上げました。


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