第2章

第2章ー①

 翌日も変わらずギルドに顔を出したら。割と、いや、本気で心配された。


「おいおい、休まなくていいのかよ」


 ギルドに登録してから一週間、思い返せば一日も休まず活動している。働き過ぎか?

 確かに毎日勤勉に依頼を受けている冒険者はいなかった。

 毎日勤勉にナンパしている冒険者はいたが。今、目の前にいるのもその一人だ。


「えっと、今日は配達の依頼じゃなくて、採取依頼にどんなのがあるか見にきたんだよ」

「そうなのか? って、ついにソラも配達を卒業か? けどお前、いつもその服装だけど装備とかあるのか? 採取依頼ってことは街の外に出るんだよな」

「装備は何もないよ。昨日の依頼でお金が入ったから、それでそろえようと思ってる」

「なるほどな……って、おいサイフォン。いいところに来た。ちょっとこっち来いよ」

「何だアルゴか。今日もナンパか?」

「うっせえ。それよりもお前暇だよな?」

「お前と違って忙しい」


 このナンパ男、アルゴって言うのか。初めて名前知ったな。


「で、真面目な話、何の用だ」


 サイフォンが疲れた顔をして尋ねている。


「ああ、こいつソラって言うんだけどな。装備を揃えたいって言うんだ。なんかアドバイスしてやれよ」

「へえ、こいつが。というか、それだったらお前が教えてやればいいだろ?」

「馬鹿言うな。俺は忙しいんだよ」


 チラチラと視線が受付嬢の方を向いているんだが?

 サイフォンもそれに気付いているのか、あきれた表情を浮かべている。


「嫁のいるお前に、お前に! 独り身の気持ちが分かってたまるか! だからお前が教えてやれ!」


 捨てゼリフを叫んで突撃していった。玉砕する姿しか思い浮かばないのは気のせいだろうか?


「あ〜、まあ何だ。俺はサイフォン。一応あるパーティーでリーダーをしている」

「ソラって言います」


 どうすんだこれ。相手も困っているぞ。


「……それで装備がどうのこうの言っていたが、初めてか?」


 うなずくと、ならと言って一軒の武器屋を教えてくれた。


「ここの店主に相談してみな。元冒険者で、見た目に反して親切だからよ。予定がなければ俺もついていってやりてえが、これから仲間たちと外に出るんでな」


 頑張んな、と手を振ってギルドから出ていった。途中で玉砕したアルゴに一撃を入れるのを忘れずに。



 教えられた武器屋の位置はすぐに分かった。何度も依頼で店の前を通ったことがあった。

 お店の評判は良く、配達の依頼を受けている時にも、おススメだと教えてもらった記憶がある。

 ただ中に入るのは初めてだ。ドアを押して入っていけば、多種多様な武器が壁に飾られている。簡単に手に取ることが出来るが危なくないか? 予想以上の数に圧倒されるな。

 防具は棚に綺麗きれいに並べられている。よろいを着せたマネキンのようなものもある。

 あれ? カウンターの後ろにも飾られたものがあるけど、どう違うんだ。

 それよりも武器だよな。やっぱ剣かな? おのとか強そうだけど扱いが難しそうだし、ギルドで会う冒険者の多くも剣を持っている人が多かったから、扱いやすいのかもしれない。

 それに見た目的にも剣が一番格好良さそうなんだよな。


「いらっしゃい。何かお探しで?」


 武器を見ていたら声を掛けられた。

 ごつい外見からは想像出来ないほど低姿勢だ。


「駆け出し冒険者だ、です。町の外に出て素材集めをしにいこうと思って、装備を探しに来ました」

「ほう……」


 観察するような視線を向けられた。

 ステータスは順調に上がっているから、異世界に来たばかりの頃の俺じゃない! 見た目は変わってないから頼りないと言われると否定は出来ないが。

 実際厳つい冒険者に比べると、胸板も薄く背も低い。

 地球でだって中肉中背です、って特徴のない説明するしかない体格だ。

 筋肉もお世辞にもあるとは言えない。


「希望する武器や防具はあるか? それとも魔法使いか? あと、言葉遣いは気にしなくていい」

「一応武器は剣を考えてい……る。防具は動きやすい軽めのものが良いかな。ただ痛いのは嫌だから痛みが伝わらないやつが欲しい」

「難しい注文だな。なら剣は片手剣が良いか……防具は魔物の素材を使用した服か胸当てになるがどっちがいい? 値段的には動きやすさもあって服の方が高い」


 なら服の方が良いか? 一応他にも解体用のナイフに素材を入れるためのバッグ。動きを阻害しない手甲てつこうに森の中を歩くのに困らないブーツ一式という希望を言い、予算は金貨一枚と伝えた。

 初心者がかける値段じゃないと驚かれたが、命を守るものなので良いものを揃えたいと伝えた。あと臨時収入が入ったとも。

 店主は悩んだ末、まずいくつかの剣を持ってきて、持ってみろと言った。

 長さはほとんど同じだが、持った時の重さが微妙に違う。

 今度は軽く振ってみろと言われて戸惑っていると、上段から振り下ろす方法と横にはらう方法を実演して見せてくれた。

 スペースがあるとはいえ、周りに商品があるところでやると緊張する。間違ってぶつけると大惨事だ。集中しろ、集中。

 意を決して剣を振る。重過ぎると振ったあとに体が流れる感じ。逆に軽過ぎると手応えがなくてしっくりこない。


「この剣が良さそうだな」


 自分でも振っていて良いと思っていた一本を店主が選んだ。


「次は防具だな。服とブーツ、他にグローブとローブあたりか……」


 グローブは厚過ぎず、他の細々こまごまとした作業をしても違和感がないことを一つ一つ確認していく。ただ剣を扱う時は最初は素手の方が良いと助言をもらった。

 ブーツに関しては悪路を歩いても大丈夫な靴底の丈夫なものを。

 服に関しては腕回りを確認しながら、動きを阻害しないように調整してくれた。

 装備を選ぶごとに、装着の仕方や扱い方を丁寧に説明してくれたし、武器の手入れの仕方や、そのための道具を選ぶのも忘れていない。

 他にお客がいないにしても、ここまで親身に相談に乗ってくれるものなのか? いや、だからこそおススメだと皆口を揃えて言ってきたのか。


 結果。なかなか良い装備を揃えることが出来た、はず。サイズもしっかり合わせてくれたし。姿見がないから分からないが、きっと見違えているに違いない。

 特に魔物の素材を使った服は防刃やダメージ軽減が効果として付いている。

 もっともそんな効果があってもわざわざダメージを受けたいと思わない。保険だ、保険。

 しかも少し予算オーバーしたため、おまけで値引きをしてくれたようだし。


「いいのか?」


 と聞いたら、「頑張れ坊主」と、応援の言葉をもらった。

 王城の人間はクズだったが、この街の普通の人たちは、優しく親切な人が多いなと、感謝の言葉を述べて武器屋をあとにした。

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