第1章ー⑧

 それからしばらくの間、朝はギルド内にある資料室で勉強し、それが終わったら配達系の依頼を受ける日々を過ごした。

 依頼は受ける人があまりいないからなのか、毎日受けても減る気配がないから依頼がなくなることはないと思う。

 最初の頃は道を尋ねながらだったから一日にこなせる量が少なかったが、今では道もある程度覚えた。効率的に配達が出来れば、もしかしたら一日の生活費を稼ぐことは可能かもしれない。最悪宿のランクを落とせばさらに余裕のある生活が出来るかもしれないが、格安の宿だと個室でなかったりと色々環境が悪いらしいから出来れば避けたい。

 寝るだけの小さな部屋でもいいから、個室であることは最低条件だ。

 まれにボーナスで高額な依頼が出るようだが、それは注意が必要だと言われた。急ぎの依頼で急を要するものならいいが、わざと高額の報酬を出して意地悪な依頼を出す輩もいるとのことだ。本来ならギルドも断りたいのだが、それが出来ない事情があるらしい。



「おう、今日も配達の依頼を受けてたようだな」


 重量物の荷物を届けた後にお昼を食べようと屋台のところに戻ってくると、グレイが何も言わずに串焼くしやきを差し出してきた。

 訳も分からず受け取ると、他の屋台の人たちも次々と料理を渡してきた。


「な、なんだよ。いくら何でもこんなに食えないよ」

「お、おお。そうだよな。なんというか、ソラの配達する姿を見て思うところがあったというかなんというか……」


 周囲を見ると皆うなずいている。大袈裟おおげさだな。


「しかし毎日配達の依頼を受けているみたいだけどよ。体の方は大丈夫か? 無理してないか?」

「大丈夫だよ。特に今も疲れてないし」


 その言葉に皆信じられないものを見る目を向けてきた。ほんと大袈裟だよ。

 俺はいくつかの料理を受け取り食べた。食べ過ぎた。

 ここの屋台の人たちの料理はどれも美味しく、素材の品質が良いから安心して食べられる。配達で回った区域によっては、品質が劣悪な料理が普通に売られていて、タレの匂いで誤魔化していたから知らずに寄っていたら食べていたかもしれない。鑑定のお陰で事なきを得たが、気を付けないといけない。



 翌日ギルドに顔を出すと、いつもと違う掲示板の前で依頼を眺める。

 素材採取の依頼。これは魔物の素材ではなくて、薬草や森などに自生する食材などのアイテム類。

 屋台街の人たちや顔馴染かおなじみの冒険者たちと話しているうちに、街の外に興味を持ったのが始まり。けどさすがに魔物の討伐なんて無理だから、ソロで活動する初心者冒険者にもおススメな採取依頼をやってみようかと思った。

 薬草採取は薬草と別の植物の見分けが大変なようだが、それほど心配していない。鑑定すれば、それが何か一目で分かるからだ。これはお店で売っている薬草で確認済みだ。

 だから必要なのは入手出来る場所を調べること。

 素材によっては森の中に入ることもあるので、魔物に襲われる危険もある。

 さすがに装備を整える必要があるな……装備をそろえるのにいくらぐらい必要なんだ?


 そんなことを考えていたら、ミカルに呼ばれた。なんか焦っているのか、余裕がない。


「あ、あの。実はソラさんに指名依頼が入っていまして!」

「……え、俺に?」


 その言葉に周囲にいる冒険者も驚きの表情を浮かべる。ランクEで、しかも配達の依頼しか受けていないのに、指名依頼とか。


「その、実はソラさんの噂を何処からか聞きつけたのか、配達の指名依頼がたくさん来てしまいまして……」


 その言葉に大半の冒険者が納得の表情を浮かべると同時に、困惑もしている。それはミカルも同じようで、何とも言えない表情で見てくる。

 街中の配達の指名依頼なんて、長い冒険者ギルドの歴史でも一度も聞いたことがないと言う。


「期日は?」

「そ、それが全部今日中にとのことで……」


 ミカルの差し出す依頼票に目を通す。街の東西南北に依頼人の場所と配達先が散らばっている。

 依頼数は八。これを全て回ると、それこそ王都を一周出来てしまうような感じだ。


「あの、無理でしたら断っても大丈夫ですので」


 ミカルはそう言うが、この依頼、報酬がいい。前に注意されたが、それでも破格だ。全て終わらせると金貨一枚になる。

 それにミカルは断っても良いと言っているが、なんか困った表情を浮かべている。断りづらい依頼人からの依頼もあるということかもしれない。


「ギルドは夜も開いてるんだよね?」

「は、はい」

「なら受けるよ。手続きをお願い」

「わ、分かりました。ですが無理なら途中で報告に来てください。わ、私がなんとかしますから」


 余程心配なのか、最後まで大丈夫ですかと確認してきた。

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