第11話 夏希達は妖魔の騎士と戦う

 夏希達の前に現れた3体の妖魔兵達は、

それぞれ違う姿をしていた。

 正面には西洋の鎧を纏ったような姿の3メートルを超える大きさの妖魔兵が現れる。

その妖魔から離れた場所に体長2メートルほどの下半身が馬のようになったケンタウロスのような妖魔と、普通の人型の妖魔が現れる。


「夏希、走る者を……ケンタウロスみたいなヤツを任せるわ。そいつは速いから気をつけて。ひかりは妖術士をお願い。私は装甲妖魔兵をやるわ。」


「了解です。」「わかりました。」


 夏希は様子見で通常攻撃を放った。

走る者が反応し避けようとする。時速100Kmは出ていると思われるが、雷の速度はさすがにかわしきれなかった。

そのためか走る者は移動した先で体勢を崩した。

今がチャンスだと考えた夏希は必殺魔法を放つ。


「敵を滅ぼすため鳴り響け。くだきのいかずち。」


 妖魔兵の走者は膝をつき、崩れていく。


 装甲妖魔兵と相対する沙雪は振り上げられる金棒のような武器を見て、まずは防御の技を使った。


「降り積もる雪の前に跡を残す事能あたわず。

雪隠守ゆきがくれのまもり。」


 魔法で防御を固めた沙雪に装甲兵の金棒が直撃したように見えるが、沙雪が防御力に優れた山の系統の魔法少女であることもあって無傷で凌ぐ。


「そんなの効かないわね、こちらの番よ!

雪の前に埋もれて消えよ。雪棺ゆきのひつぎ。」


 沙雪の攻撃で装甲妖魔兵が雪に埋もれる。

雪は程なく溶けるように消えていくが、そこに装甲妖魔兵の姿はもう無かった。


 ひかりと相対する妖術士は炎や氷や突風など、多彩な妖術で攻撃してきた。しかしひかりの防御の魔法、消去朝霧きえさることあさぎりのごとしに阻まれて消え去っていく。

妖魔兵レベルの妖術では、朝露の魔法で魔力を吸い上げられて効果が発揮できなかった。


「こぼれ落ちた雫よ、弾け散れ。滴散雫したたりちりししずく。」


 ひかりは妖術士の妖術と本体からも魔力を吸い上げ、その魔力を妖術士への攻撃に使う。

術を使う事に特化していた妖術士には耐久力も避ける力もなく、ひかりの攻撃の前に滅び去る。


「騎士が来る前に倒せて良かったわ。夏希も光も怪我はないわね?梅子さん、新人の最初の実戦にするには今回は危ないんじゃない?

いざという時は助っ人よろしくね。」


「ええ、任せて。もちろん全員無事に帰すわ。」


 梅子が助っ人を確約してくれたので、沙雪はホッとした。魔法少女が3人いるとはいえ、騎士クラスの妖魔相手には油断はできない。

 その時梅子が鋭い声を発する。


「みんか戦闘準備!来るわ‼︎」


 夏希にはその妖魔が突然現れたように感じられた。妖魔兵までの敵は空間から滲み出るように徐々に現れていた。そのため少し余裕を持って魔法を準備することができていた。

だが今ここに出現した妖魔は一瞬で現れたように見えた。梅子が声をかけてくれなければ不意打ちを受けたかもしれない。

 そいつが騎士ランクの妖魔だとしたら、その妖魔の姿はまさしく騎士のように見えた。

2本の角が生えている馬のような動物に騎乗し、槍と盾を手にして甲冑を纏っている。

 

「フム。シモベドモハ、ホロボサレタカ。」


「妖魔がしゃべった……。」


 夏希が驚いていると騎士の妖魔が歩を進めながら話し続ける。


「ダガ……ワレラガミナゴロシニスレバ、オナジコト。」


 妖魔が手に持った槍を夏希達に向けた時、梅子が叫んだ。


「そんな……もう一体来るわ!」


 少し離れた位置にもう一体、角の生えた妖馬に騎乗した騎士の妖魔が現れる。


「新手の騎士とは私が戦います。みんな、気をつけて。」


 手にした棒状の武器を構えながら梅子が新手の騎士に向かって走る。


「私たちもやるわよ。ひかり、出し惜しみはしないでおきましょ。私から結晶を使うわ。……雪山の力の結晶よ、敵を阻め。」


 沙雪の手に輝く宝石のようなものが現れ、その宝石から出た白い光が騎士に絡みついていく。

 続いてひかりも手に持った輝く宝石のようなものを騎士に向ける。


朝露あさつゆの力の結晶よ、敵の力を汲み上げよ。」


 ひかりの持つ輝く宝石から緑色の光が放たれ、騎士に絡みついていく。


「夏希、魔力結晶でアイツの速度と防御力を弱めたわ。盾に防がれないよう気をつけながら、攻撃よろしく。」


「ム、コシャクナマネヲ。」


 妖魔の騎士も黙って攻撃をされたままではいない。夏希に向かって槍を次々と繰り出してくる。

魔法少女になって身体能力が上がった夏希でも避けるだけで精一杯で、とても速度が落ちているとは思えなかった。

そこへ沙雪とひかりから妖魔の騎士へ攻撃の魔法が飛ぶ。


「滴散滴。」「雪棺。」


 ひかりに攻撃されて更に沙雪の魔法の雪に埋もれた妖魔の騎士だが、雪の中から盾を構えて飛び出して来てそのまま沙雪に攻撃をする。

 咄嗟に防御魔法を使った沙雪だったが、妖魔の騎士の攻撃は防ぎきれず血が流れる。

だが妖魔の騎士のほうも無事ではなさそうで、沙雪への攻撃後に騎乗した妖馬が膝をつく。その隙に沙雪は後ろに飛び退き距離を取る

 夏希はここで攻めるべきだと思った。残りの魔力をありったけ、盾で防がれないよう騎士の四方に分けて展開させる。


連砕雷つらなりくだくいかずち。」


 沙雪とひかりの攻撃で消耗していた妖魔の騎士は四方からの雷を防げなかった。


「トウトキカタガタヲ、オスクイデキヌトハ……ムネンナリ。」


 夏希達が戦っていた妖魔の騎士が消えていく。

魔法少女達が残りの騎士と戦っている梅子の方を確認する。丁度終わったようで、梅子の相手をしていた騎士も滅び去るところだった。


「夏希、やるわね。戦闘中に威力を高めた新しい魔法を作って、制御に成功するなんてすごいわ。」


「沙雪が血を流したのが見えたから、なんとかしようと思って必死だったよ。沙雪、怪我は大丈夫?」


「ええ、私は大丈夫。もう魔法で治しているわ。」


「そんな事もできるんだね。沙雪はすごいなぁ。」


「そ、そうかしら?雪山の魔法少女の能力が強いから、私がすごいわけじゃないと思うわ。」


 沙雪が謙遜している中、梅子が側に来た。


「みんな、お疲れ様。騎士が2体も出てくるとは思わず、危険な目に合わせてごめんなさい。」


 梅子の謝罪にひかりが口を開く。


「いえ、仕方ないですよ。それに高ランクの妖魔を相手にできる人員が足りないのに、元Aランクの梅子さんが居てくれるだけで安心できました。

夏希ちゃんには厳しい初陣だったと思うけど、騎士の危険度を見てもらえたのには意味があると思いますし。」


「そうね、夏希ちゃんには強くなってもらいたい。そのために乗り越えるべき相手の強さをわかっているのは重要ね。ともあれ夏希ちゃんには妖魔兵までなら問題なく処理できる能力かまあります。

専用アプリのオラクルで確認して、予約が埋まらない妖魔に関してはある程度お願いできたらと思っています。」


「わかりました、がんばります。」


 夏希の力強い返事に頷くと、梅子は魔法少女達に車に乗るよう促した。


「妖魔が言っていた、とうとき方々をお救いするというのはどういう意味でしょうか?」


夏希が疑問に思ったことを口にする。


「領主や王クラスの妖魔の一部が、昔から日本各地に封印されているのよ。」


「妖魔は主を救いに来ているということですか?」


「詳しいことはまだわかってないのだけど、そうとも限らないみたいね。主だけではなく、力ある上級の妖魔なら手あたり次第解放しようとするわ。

あとは解放が目的ではなく、地脈から力を吸い上げられて逃げられた例もあるわ。」


この話のあとも夏希は退魔師について先輩達からいろいろと話を聞いた。

その最中に辰江駅の近くで車が止まる。

沙雪とひかりとは今日はここでさよならだ。


「ひかりちゃん、沙雪、お疲れ様です。今日は本当にありがとうございました。」


手を振る夏希に光と沙雪も手を振り返す。


「夏希ちゃん、お疲れ様。

みんなで遊びに行くための打ち合わせで連絡するね。」


と言うひかりに苦笑しつつ、うん、と返す夏希。


「夏希、お疲れ様。……私も連絡していい?」


「うん、もちろん大歓迎だよ沙雪。友達だからね。」


ぱあぁっと笑顔になる沙雪。

少女達の交流を微笑ましく見つめていた梅子も、

手を振る沙雪と光に軽く手を振り返して車を出発させる。


「なんとか無事に終わってホッとしたわ。最終日に詰め込み過ぎてごめんなさいね。

もっとみんなに負担の掛からないようにできたらよかったんだけど。」


「大丈夫ですよ。梅子さんと沙雪と光ちゃんがいてくれたおかげで安心して戦えました。」


「私に出来る事はなんでもさせて貰うわ。困ったことがあったら言ってみてね。」


 少女達を妖魔という危険な相手と戦わせる、そんな自分にも笑顔で接してくれる夏希に感謝しかない梅子だった。


 そして車は夏希の家に到着した。

梅子と笑顔で手を振りあい、家に入る夏希。

ニョロナに生卵をあげ、夕食の用意をする。

疲れていたが、いつも美味しそうに夕食を食べてくれる達也を思い出すとやる気が湧いてきた。


 薄切りの牛肉を味噌ダレに漬け込んでいたものを冷蔵庫から取り出して焼いて行く。

味噌汁だと味が被るので汁物は卵スープにした。

お姉ちゃんから油分を減らそうと提案があったので、野菜は炒めずにレンジで簡単に蒸し野菜にした。ごまドレッシングを合わせる。

夕食が完成したところで達也がやって来た。


「おじゃまします。」


 温かい夕食を前に目をキラキラさせている達也にご飯をよそってあげる。

相変わらずおいしそうに食べてくれる達也をニコニコと見守っていた夏希だが、達也に言っておかなければいけない事があったのを思い出した。


「達也くん、退魔師の友達と今度遊びに行くことになったんだけど、達也くんも一緒に遊びませんかって話になってさ。よかったらどうかな?」


 達也は食べているものを飲み込んでから返事をした。


「僕も行っていいんですか?

是非ご一緒したいです。」


「よかった、来てくれるんだね。ありがとう。」


こうして夏希は今日最後の課題だった達也を遊びに誘うことに、成功したのだった。

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