第3話 プラネタリア

ダイラは、美大の彫刻学科の課題には興味がもてなかった。


旧態依然きゅうたいいぜんとして、裸婦のデッサンや塑像の写実性を競い合う雰囲気が苦手だった。


芸術論を語り、遊び歩いていた仲間たちも、課題になると予備校時代に培ったデッサン力を発揮していた。


ダイラは、目の前の課題に対する同期生の取り組み方は芸術の本質からずれていると直観的に感じていた。


でも、何が違うのかは明確に言葉にできなかった。


偏差値教育に嫌気がさして美大に来たはずなのに、美大でもデッサン偏差値を競い合うなんて、馬鹿げている。


では、芸術の本質とは何か。


「人間の本能や感性、感覚を呼び覚ますことなんじゃないか。」

「誰かの真似や模倣じゃなくて、自分の中にある細胞を震わすことなんじゃないか!」


思いついたことには忠実でありたい、何をしたらいいかなんて分からないが、とにかくやってみることにした。


ダイラは2tトラックをレンタルし、近所の採石場から土を運び始めた。


大学の中央には学生たちが集う広場があった。


そこに20tの土を運び入れ、粘土でつくった複数の人体像を埋め、廃材と共に燃やした。


人体の塑像の講評会では、ダイラだけ異質な空間が生まれていた。


教授陣は、奇想天外な行為をしたダイラの行動に困惑していた。


素直に言葉が見つからない状況だったのだろう。


燃え盛る炎に多くの学生たちが集まった。


おかしな学生がいると、大学中に知れ渡ることになった。


好評会が終わり、炎も燃え尽き、ダイラは一人、積み上げた土の上で夜空を見上げた。


果たして、自分の表現したかったことはこれなのか。


他の連中とは違うことをしたけど、だか何なんだ。


「ダイラさん!」


以前、三角チーズクッキーをくれた後輩が話しかけてきた。


「ダイラさんは、いつも空を見上げていますね。星座とか詳しいの?」


「星座には興味ないよ。ここは星がきれいに見えないからね。オレ、宇宙が好きなんだ。」


その時、ふっとイメージが頭の中で繋がった。


三角形の複数の穴があるチーズクッキーが縦横無尽じゅうおうむじんにつながり始めた。


20tの土の上にチーズクッキーが這い、小さな複数の穴から青い光がぼんやりともれてきた。


「これだ!」


自分と宇宙、社会をつなぐであろう特別な装置を思いついた。


ビッグバンのように膨張していた鼓動が弾けた瞬間だった。


そして、プラネタリアが誕生した。





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