第4話


 受付嬢に連れられて、奥にある応接間へと案内された。

 入口のドアを控えめにノックして、受付嬢が部屋の中に呼びかける。


「ギルドマスター、リオンさんをお連れしました」


「ええ、入って頂戴」


「失礼します」


 扉を開いて中に通される。

 品の良い家具や調度品が並べられた応接間には2人の人間がいて、テーブルを挟んでソファに座って向かい合っている。

 1人はスーツを着た20代後半ほどの年齢の女性。女性でありながらギルドの責任者を務めているギルドマスターだ。

 もう1人は……見慣れない男。年齢は60歳ほどで、白い髪とヒゲを丁寧にそろえた身なりの良い男性。どこかの国の貴族だろう。


「なっ……!?」


 俺が部屋に入るや、貴族風の男性が驚いたようにソファから立ち上がる


「ん……どこかで会ったか?」


「そんなはずは……いや、しかし、その顔は……」


 怪訝に問いかけるも、男性はブツブツとつぶやくばかりで答えない。

 ギルドマスターに目を向けると、整った顔立ちの美女が頷きを返してくる。


「よく来てくれたわね。座りなさい……貴女は戻っていいわよ」


「ああ」


「失礼しました」


 受付嬢が部屋から出て行き、俺は促されるままにギルドマスターの隣に座る。


「ちょうど良いタイミングで帰ってきてくれて助かったわ。仕事の後で疲れているでしょうに、ごめんなさいね?」


「いえ……構いませんよ。それよりも、こちらはどなたかな?」


「こちらの方は隣国――レンガルト王国からの使者でマーティス公爵殿よ」


「マーティス公爵……」


 聞き覚えのあり過ぎる名前に、俺は思わず顔を歪めた。母親の旧姓。追放される前に名乗っていた名前である。

 つまり、目の前にいる老人は母親の父親。俺から見れば祖父に当たる人物ということなってしまう。


「それで……公爵殿が何の御用かな?」


「……私は王家の命を受けて、お前と話をしにきた」


 マーティス公爵は暗い表情のまま、俺に向き直った。


「Sランク冒険者――『雷獅子』のリオン! どうして、我が国からの依頼を受けてくれないのだ!?」


 マーティス公爵が怒りを堪えるような顔で訊ねてきた。

『話をしにきた』というよりも文句を言いにきたという雰囲気で、詰問するような口調である。


「何故と言われてもな……冒険者は自由なもの。依頼を受けるも蹴るも勝手。文句を言われる筋合いなどないはずだが?」


「お前が依頼を受けてくれないせいで、我が国は滅亡の危機を迎えているのだぞ!? どうしてくれるのだ!?」


「滅亡って……大袈裟ですね。冒険者が依頼を受けないくらいで滅びるほど、貴国の騎士や兵士は脆弱なのかな?」


「ッ……!」


 素直な疑問をぶつけると、マーティス公爵が忌々しそうに拳を握りしめる。

 冒険者は魔物退治の専門家だが、冒険者だけでは対処できない事態が生じた場合、国や貴族が騎士団などを派遣するのはよくあること。

 俺が依頼を受けないくらいで滅亡するほどの事態になるとは思えない。


「誰のせいだと思っている……それもこれも、全て貴様のせいではないか!」


「はあ?」


「貴様が周辺諸国で魔物を狩っているせいで、我が国に魔物の残党が流れ込んできているのだ! どう責任を取ってくれる!?」


「残党って……ああ、そういうことか」


 俺はマーティス公爵の言わんとしていることに気がついた。


 雷魔法を得意とする俺であったが……その雷はただの雷ではない。『神雷魔法』――魔物を打ち破る力を持った浄化の電撃なのだ。

 その力はあらゆる魔物を打ち破る効果を持ち、さらに魔物を遠ざける副次的な効果もある。

 レンガルト王国以外の国からの依頼を積極的に受けて、神雷を使ってあちこちで魔物を狩っている。

 結果、神雷に怯えた魔物が俺が決して足を踏み入れることのない母の故国に逃げ込んでいるのだろう。


「ハハッ! 俺の神雷が届かない場所を悟って逃げ込むなんて、魔物の知恵も侮れないな。感心するぜ!」


「神雷……! そうか、やはりお前はエヴァリアの……陛下と娘の間に生まれた子供なのだな!?」


『神雷』という単語を聞いて、マーティス公爵は俺が追放された娘の子供であることに気がついたらしい。

『神雷魔法』はレンガルト王家に代々継承されている魔法であり、王家の血を引く人間以外には使えないのだ。

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