S2-FILE014(FILE215):タイヤが飛ぶな!


「グギィィヤアアアアアアアア」


 ハチ型ガジェット・ワーカービーはお尻から鋭く強力な針を出して、タキプレウスガイストの額の眼をひと刺しして、そのまま一撃離脱。

 ――とは、正確にはそうは言われないかもしれないが、あまりにも鮮やかすぎる手際の良さだった。


「今よッ」


 神経が集中している弱点を刺され、両手で覆ってまでひるんだ隙を狙って、アデリーンはジャンプして上方からビームソードを突き立てんとする!

 そこに鋭利な黒い羽根が舞い散った。


「クロウガイスト様だ! カアアァーアァーアァーッ!!」


「カラス型のディスガイストは、【ジャックドー】ッ」


「もう邪魔をするなよ。こっちだって、ぶっちゃけ正気とは思えないギルモア総裁からのご命令に――体を張って従っているのだ」


 その名の通り黒いボディのカラスのようなサイボーグ怪人は、変身者の名を呼ばれても目をつぶって警告する。

 もっとも、そうされたところで何がなんでも彼らの悪事を阻止しに行くのがアデリーンたちだ。

 内情を吐露するような彼の発言に思うところがあったか、クロウガイストのほうを不覚にも二度見したタキプレウスだが、すぐ眼前で身構えているアデリーンとロザリアをにらむ。


「と、東京クリーン作戦は必ず成功させる。言いたいことがあるならっ! 今のうちに言っておけ……」


 あきらめの悪いタキプレウスこと兜円次は、そう宣言するとアルマジロとクロウを巻き込み、テレポートで撤退した。

 残されたのは、瓦礫の山の中に佇むクラリティアナ姉妹の姿のみ。


「これ以上被害が広がる前に食い止めましょう。犠牲を無駄にしないためにも」


 何か言いたそうで言えないロザリアは、姉からの励ましの言葉に頷く。

 そして姉妹はその場から立ち去った。



 ◆



 クロウガイストによって事なきを得たタキプレウスこと兜円次が、アルマジロガイストを連れて本拠地たるヘリックスシティへと帰還。

 応急処置を施された後、ギルモアが待つ玉座の間へと直行するのだった。

 段差のあるその部屋の最も高い段にある玉座にふんぞり返っている長身で大柄な老人こそ、総裁のギルモアだ。

 頬杖を突きつつ兜たちからの報告内容に呆れて、ため息を吐く。


「No.0めぇ……。わしが一任した東京クリーン作戦が、行き詰まっているようだな。上級幹部・兜円次……」


「はっ! ですが、ヤツらめにはもう邪魔はさせません。必ずや成功へ導いてみせます。ご照覧あれい」


 頭に包帯を巻いた、ファッションへのこだわりが違う赤髪の伊達男……兜円次は自信を喪失することなく拳を握り、総裁ギルモアの御前であろうと仰々しい語り口で誓いを立てた。

 そんな彼の前向きな姿を見て肩掛けアウターの久慈川は感銘を受け、豊満なキュイジーネは腰砕けな目をして彼に信頼を寄せ、ジェルヴェゼルは腕を組んで妖しく微笑み、禍津は皮肉な笑みを浮かべる。


「この東京クリーン作戦で整地された土地は、いずれ完成する【ビッグガイスター】が歩いて踏み潰すための通り道ぞ。手ぬるいものは見せるな」


「肝に銘じておきます。……あのの量産化に成功した暁には、諸外国だろうと国連だろうとあっという間に叩き潰してみせるわッ!」


 素顔を隠したアルマジロのスフィアの持ち主や、髪型が紫のダックテールの男・ジャックドーがまだ膝をついているのにもお構いなしに、兜円次は自信過剰に立ち上がって同志たちの前で宣言する。

 ギルモアが言及した、土偶のごとき異様な風体の巨大兵器は未だにこの本拠地の地下に点在する専用のハンガーにて眠り続けている――。


「出しゃばりのインテリが偉そうに。できるもんかね」


 仲が険悪というわけではないが、禍津蠍典かつのりが嫌味を吐く。

 言われた当人としては、それくらいは口に出されないと面白くない――とのことではあるが。

 空気がピリピリとしている中で彼の隣にいた、青い髪の貴婦人めいたドレス姿の彼女・ジェルヴェゼルは微笑む。


「そうなんでも否定から入るものではないですよ。


「蠍に典と書いてなんだが!」


 緊張を和らげる意図があったことは、その場にいる全員に伝わった。

 ジェルヴェゼルや禍津とは反対方向にいた、サングラスと肩掛けの男・久慈川と、彼の隣に立つ茶髪のウェーブヘアーのグラマラスな女・キュイジーネは、どちらも余裕綽々に笑う。


「禍津くんはクリーン作戦の実行という大役を君にとられ、ヘソを曲げてるだけだ。気にしないでおくれ」


「だいたい禍津は働きすぎなんだ。今回は俺に任せて、休んで。くくっ」


 これは兜としては口に出したのではなかったようだが――、寒気がしている中、全員大人の対応を取った。


「……しかし、ジェルヴェゼルがもう馴染んでいて、あたくしも嬉しい」


 キュイジーネと交友も深い彼女は、そう言われて心が躍った。

 ほかの幹部メンバーたちも1名を除き、腕を組んで自分のことのように「うんうん」と頷き、喜んでいる。


「ウムム……。これじゃあまるで、僕だけが仲間外れにされているようじゃあないか……」


 ――そう、兜たちから距離を置いて指をくわえるどころか噛みそうな位置に持っていき、隅から苦々しく見ていた彼・雲脚くもあしを除いてだ。

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