【S2-第2話】俺は死神の騎士タキプレウスだ!!

S2-FILE012(FILE213):鉄の甲転闘獣!


 辺りもすっかり暗くなったある夜遅くのことだ。人々が広場をまばらに歩いて行き来している中で、異彩を放つ集団がいる。

 車を停め、大音量で音楽を流している若者たちだ。

 服装からしてこの街でブイブイいわせている不良であり、その騒音から彼ら以外の通行人たちは一様に迷惑がっている。

 見た目もいかついので抗議しようにも近寄りがたく――、そんな不良たちに急接近する命知らずが1人だけいた。

 フードを目深まぶかに被り、マスクもつけて服の襟も口元まで隠しており、素顔はうかがえない。背丈は高いが、男か女かは判断しがたい。


「ギャーギャー騒ぎやがって、今何時だと思ってる」


「あァン? なんだぁオッサン。こっちはみんながクタクタなって、寝静まったのを見計らってワイワイしてんの! 昼間は我慢してんだから、ありがたく思えよな!?」


 キャップを被ったり、耳にピアスを付けたりしていた不良グループが正体不明の誰かに抗議を始める。

 ほぼ全員茶髪や金髪に染めていて、当然人相も性格も悪い者ばかり。

 そんな彼らにも家族はいるのだろうが、なじられた何者かには関係のない事だった。


「気持ちわりーから帰れ! 帰れ!」


「やれやれ、うるさいガキどもめ」


 ついには暴力を振るわれるが、何者かは舌打ちし、ため息をついてから茶褐色のカプセルのようなものを取り出す。

 その表面にはアルマジロと思われる動物の紋章が記されており、彼はそれを見せつけてからねじった。


 ≪アルマジロッ!≫


「ゴロンゴロぉぉぉおおおお!」


「うわああああ」


 不良グループの愚か者たちが困惑しながら見ている前で、フードを被った誰かはその姿を全身を茶褐色の鎧で覆った機械仕掛けのケダモノのような異形の姿へと変貌する。

 体格は2メートルをゆうに越えていてフォルムもいかつく、とてつもない威圧感があり、不良たちは一目散に逃げだし、腰を抜かして動けなくなった者もいた。

 荒々しく唸り声を上げたアルマジロの怪人は、まずは素手で暴力を振るうことをやり返して相手を殺害する。

 返り血を浴びたその怪人は、まだ生き残っていたリーダー格らしき男にじりじりと詰め寄って行き――。


「け、警察、病院、救急車……?」


 黒いワゴン車のカーオーディオから流れる激しいロック調の曲を止めていられる余裕などあるはずもなく、激しく混乱しながらスマートフォンで緊急連絡を入れようとしたリーダーだが、アルマジロ怪人はタイヤストーンリムーバー型の大剣とホイール型の盾で武装してスマートフォンごとリーダーの腕をぶった切ってしまう。

 むごたらしく汚らしい血を噴き出しながら、リーダー格の男は狂乱の叫びを上げた。


「こんな使い方されちゃあ……車がかわいそうだよなぁ。そうは思わねェーか? 若いの」


 真意は不明だが、裏を返せばアルマジロ怪人にとって人命はどうでもいいということでもあろう。

 アルマジロの怪人は車体を哀れむような視線を向けつつも、次の瞬間、不良グループのリーダーに対し殺意と憎悪に満ちた目で振り向きにらみつける。


「どどど、どう使おうが車乗りの自由だろー!? こ、こええから、こっちこんといて……ヒイイイイ」


 おびえる不良のリーダーの顔面を盾で殴り、目を潰してやったアルマジロ怪人は盾のグリップに腕を通したまま相手の首根っこを掴む。

 締め上げて車体に押し付け、ストーンリムーバー型の大剣を突きつけた。


「そうだよなぁ、持ち主の自由だよな。愛車と一緒に死になガキがぁぁ!!」


 何度もズタズタに斬り付け、叩きつけた末に車ごと爆破。彼にいたぶられた不良のリーダー格はそのまま惨死したのだ。

 残骸が飛び散り、人々が恐怖から既に逃げ去りいなくなった中でさびしく残ったアルマジロの怪人は、1人で雄叫びを上げる。


「気は済んだか【アルマジロガイスト】? 例の作戦を進めるぞ」


 その時、暗闇で緑色に光る眼が浮かび上がったかと思えば、ダンディな声の主はだんだんとその正体を現していく。

 ワインレッドと銀色のメカニカルな装甲で守られたボディを有し、3つ眼のついた端正だが無機質な顔を持つカブトガニのような怪人である。

 まるで血で染まった邪悪な【騎士】のようだ。

 アルマジロガイストの名を呼ぶと、彼を帰還させようとするが……。

 その時冷たいビームによる威嚇射撃が行われ、怪人は2体とも足を止めた。

 とくにカブトガニ怪人のほうは、ビームが飛んできた方角を忌々しそうに見つめる――。


「【タキプレウス】ッ! そこで何してる!?」


 女性の声がする、その方向に振り向けば、青色のビーム銃を構えた金髪女性の姿があった。人々の自由と平和を守るべく彼らのような怪人と日々戦い続ける、アデリーン・クラリティアナである。

 凛とした表情のまま、彼女は物怖じせず驚いている敵に接近。


「チィ! 貴様と遊んでやるつもりはない。じゃあなっ!!」


 額の第3の眼から光線を放ち、目くらましのために爆撃!

 彼女は目を閉じてかわすも、これから倒さんとしていた敵はどちらも退却してしまった。


「くッ。逃げられた……」


 悔しさをこらえ、気持ちを切り替えたアデリーンは手掛かりを見つけるために付近を捜索する。

 血痕、車の残骸と思しきもの、衝撃で飛び散ったコンクリート片、人々が逃げ延びた痕跡――。

 だが、敵が何をしようとしていたのか、これでわかりそうでわからない。


「サイコメトリーでも使えたら、彼らが何をやろうとしてるのか少しはつかめたのだけど」


 ただ暴れて街を破壊し、罪なき市民を殺戮するのが目的だったのか。

 それともまた違うことか――。

 アデリーンは真顔になってから目を伏せる。



 ◆



 翌日の午前9時――テイラーグループ日本支社が誇るハイテクビル。

 その中の最上階にあるVIPルームで、社長の虎姫と秘書の磯村たまき、そして支社長も含めたメンバーで面談を行っていた。

 その支社長は見た目や第一印象こそ平凡な中年男性だが、社員たちからは「彼はやり手だ」と評判も良い。


「わたしはね、ゴールドハネムーンのスーツにネクサスフレームに関する拡張機能や互換性を持たせたつもりは……。いやいや、不思議なことが起きて奇跡をもたらしたことにしておこう。ところでこれを見てほしい」


 ポートフォリオを見せると同時に、環もタブレットを起動してある映像を見せた。両方とも、ミツバチやスズメバチのような高貴な衣装をまとう、妖精らしき美しい女性の姿が映ってはいたが、アデリーンと蜜月は先にこう思った。

 「こんなVtuber見たことあるような?」、「メディアミックス作品の宣伝用の3Dモデルかもしれない」、――そんな感じだ。

 だが、2人の勝手な推測はすぐに覆されたのだ。

 そもそもこの女性に関する、丁寧な説明文が載っていたのである。


「【女王バチ】のジーンスフィアに意志が宿っていた……だと……?」


「「動けぬわらわに代わって、日夜張り切ってくれているそなたたちに我が力を分け与えたい」――と、その女王バチのスフィアの意志を名乗る妖精みたいなものが言っていたのです。何を言っているのかわからないかと思われますが、我々も、何が起きていたのかわかりませんでした。最初は……」


 環から説明してもらい頷くも、まだ少し理解が追いつかないアデリーンと蜜月。


「オカルトやな~~~~……」


 腕を組み、なんとも言えない奇妙な顔をして蜜月は首を傾げた。

 彼女らの様子を見かねた虎姫が、状況を打開し空気を変えようと咳払いをする。

 「皆さんちゅうもーく!!」とも告げた。


「……そして、【ブレイキングタイガー】計画もようやくスーツが完成し、ロールアウトを控えてるんだ。いずれ2人の力になれる時が来ると思う」


「何がそして?」


「蜂須賀さんは気にしすぎです!」


 大事な話の途中で茶々を入れられて、今度は虎姫が机を叩いて怒り出した。

 彼女たちに振り回され、支社長は先ほどからずっと困惑気味である。

 場慣れしていた環はこんなときでも流されない。


「すみません!」


「でも、今すぐじゃない。私たちこそ申し訳ない」


「……ま、まあ、ワタシもごめんなさい。いいってことですよ。ロザリアも戦ってくれることだし、ワタシらに任せて――」


 相棒が機嫌を直して謝罪後、ほがらかに何度目かの約束をした横で、アデリーンは敵の気配を察知してしまい剣呑な顔をした。

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