S2-FILE007(FILE208):ベイサイドの怪事件

 その頃のクラリティアナ邸地下の秘密基地。

 その一角に設けられたSF映画めいた機材が並ぶ研究室にてアデリーンら姉妹と、その助手にして基地を管理するAI・ナンシーが共同してロザリアが使用する弓・【ソーラーアルバレスト】の改修作業を行なっているところだ。

 ハンマーを「トン・テン・カン!」と叩いて補強し、溶接バーナーやレーザーで加工して、ドリルで補強をして――。

 一見すれば雑にも思えるが、このやり方でどうにでもなるのだ。


「よ~~~~~~~~し。これでソーラーアルバレストの強化改造はおしまい」


 いい汗をかけたアデリーンはそれにふさわしい笑顔をもってそう告げた。

 天使の翼と炎を模した形状を持つ同武器は、払い下げ品のアーチェリーの弓と組み合わされたことによって元のデザインはそのまま、更に洗練された姿へと生まれ変わったのである。


「おもちゃっぽくなくなってる! いい感じです」


「えへへ……。ちょっとでも、ロザリアの役に立てたなら嬉しいなーって思ったの」


 なんということはないが微笑ましいロザリアとエリスのやり取りを、腕を組んで見守るアデリーンと、アンドロイドの身ながらやりきった笑顔で頷くナンシー。

 その時だった、アデリーンの懐にしまわれたスマートフォンが着信音を鳴らしたのは。

 妹たちとアシスタントがいっせいに注目した中、彼女は電話相手からの緊急連絡に衝撃を受ける。


「クラリティアナです。……何ですって!? ご遺体!?」



 まさかヘリックス――!?

 毎度のことではあるが彼女がそう確信した、決定的瞬間だ。



 ◇



 「あたしも行くあたしも行く!!」と駄々をこねたロザリアをお供に連れ出したアデリーンは、急ぎで電話を入れて来た蜜月と最寄り駅前の広場で合流。

 手掛かりがあるかもしれないというベイエリアの漁港へと向かった。

 そこはコンテナが積まれたターミナルと隣接しており、積み荷の運搬や高所で作業するためのクレーンに倉庫や工場などもあったため、ディスガイスト怪人による犯行が行われて事故が起きていても不思議ではなかった。


「今朝からあっちこっちで転落死とか路上で運転手が亡くなられたとかあって、その関係で道路が封鎖とかあったでしょー? うちらもね、船から船乗りが落っこちて、間に合わずに溺れ死ぬとか、そんな事態になっちまってさぁ。うちら漁協組合と警察とで揉めちゃったんですよ」


「は、はぁ……それは」


 組合に勤めている漁師や事務員に早速聞き込みを行なっている蜜月――と、彼女に同行しているアデリーンとロザリア。冷たい海風が吹いてくるためか、薄手のコートを羽織るなど少し暖かい格好をしていた。

 相手はいずれも人が良さそうだが、しかし、勘の鋭いアデリーンは「なにか裏があるのでは……」と、彼らを信用できないでいる。

 今、彼女がが出入りをしているはずなのに、


「多分、連日ニュースで報道されとるディスなんたら怪人ってのに変身した誰かの仕業だと思いますけどね。お嬢ちゃん方も気をつけなよ。誰が何してくっか、ワカンねぇ世の中になっちゃったからね……」


「ありがとうございます。お互い気をつけないとですね」


 疑いを抱いているゆえに気が気ではないアデリーンだが、ここは笑顔で取り繕って余計な心配はかけさせまいとする。

 やがて、このベイサイド全体に異様な雰囲気が漂っていることを、彼女だけでなく蜜月もロザリアも徐々に気付き出した。


「ウンウン。しかし体がモノをすり抜けるってこと本当に起こるんだねえ……」


 彼らから情報を聞き出せた一行は漁港内の別の場所、というより工場の搬入口の付近に移動して先ほどまでとは違う相手に訊いてみることに決めた。

 今度の取材対象は平凡な見た目の作業員の男だ。


「お仕事中失礼いたします」


「ン……」


「ワタシ、フリージャーナリストなのですが、こちらでもディスガイスト怪人による事故が起きたとお聞きしました。その件について、詳しくお聞かせいただけませんでしょうか……」


「ええ、まぁね。不可能殺人っていうの? 本当にやるようなイカレたヤツもいるんだねぇ……、おっかねえったらありゃしないよ。ともかく、事故なら数件ほどあったんですがね。……まずこちらです」


 突然の訪問でも気前よく答えてくれたその作業員は、現場へと一同を案内する。

 すぐそばが海面となっている位置に建てられた立派な倉庫だ。

 カモメもよく飛んでいる――が、欠けている要素があり、アデリーンたちはどこか怪しさを感じずにはいられない。


「倉庫とかの外観が古くなってきたんで、補強とか塗装のし直しとか業者さんに頼んだんですけどね。そしたら屋根や壁が壊れたわけでもないのに、業者さんの体がすり抜けちまって……そのまま亡くなってしまったんです」


「となると、犯人は離れた距離から特殊な力を使って……」


 まだ実行犯の能力が特定できたわけではないが、その点だけはロザリアもほかの2人も判っていた。

 ここまでにあった様々な違和感に加え、いるはずの野次馬がいないことにもきな臭さを感じた一同のもとに、これまた別の組合の男が訪ねてくる。


「おーい、警察の方かい?」


「違います。彼女がフリージャーナリストで、私とこの子、妹がその友達で……」


「あんらそうでしたか。悪いんだけどぉ、あんた方のうちのどちらか、こっちのほうまでついてきていただけますか」


 願ってもない誘いだが、すぐに乗るようなそんな迂闊なことはしないのが彼女たちだ。

 まずは一歩立ち止まって、3人で身を寄せると話し合いを始める。


「なんか怪しくない? 皆さんああは言ってるけど、みたいよ」


「そこなんだよね~~、ワタシも引っかかってんの」


「みなさん、絶対なにか隠してるんじゃないか? って思うんですよね……」


「ここは二手に別れよう。もし、敵の罠だったら……」


「わかってます」


 相談の末、蜜月は倉庫を調べ、アデリーンとロザリアは声をかけてきた組合の男性について行ってその先を調査することとなった。

 万が一に備えることを約束してから別れ、姉と妹は組合の男とその同僚たちについて行く。


「ちょうどこの先の灯台のあたりなんですよ。クレーンの足場で点検中に、1人すり抜けて地面に落ちて……」


「ずいぶん遠いですね。……ねえ、どこまで歩かせるおつもり?」


 組合員らと話をしながら進んでいくアデリーンとロザリア、しかし、この辺で彼女らは抱いていた疑念や推測を確信へ変えようとしている。

 表面上は穏やかな彼らから、機械のような冷たさや血生臭さを感じ取ったからだ。


「その問題のクレーンがあったところまで……」


「クレーンならありましたよね? 灯台の近くなんだけど?」


 そう、彼女が言った通りの景色が広がっていて、クレーンが点在しているのはその背後、そこに至るまでの道だ。

 あとは空と海とテトラポッドだけだ。

 そしてアデリーンは表情を険しくすると、戸惑っている男の顔をグーで殴ってロザリアを驚愕させた。


「姉様!?」


 周りも動揺せずにはいられない中、殴られた男性の姿がカメラが不具合を起こしたように乱れ、ベールが剥がれて簡素な顔をした不気味な正体を現す。

 体がケイ素で作られたヘリックスの戦闘員、【シリコニアン】だ!


「グルッ! お見通しか……」


 同時に周りにいたシリコニアンたちも変装を解いて正体を露わにする。

 彼らの中には、虫のごとく4本足で動く個体もいた。

 アデリーンたちを囲んだまま袋叩きにしようというのだ。


「あたしたちをダマしたなッ」


「だと思った。片付けるわよ!」


 変身はせず素顔のまま、2人は青い柄のビームソードや赤い弓を構えて応戦。

 それから敵側は圧倒され翻弄され続け、壊滅するまでに3~5分もかからなかった。

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