2つ目の試練
今日は二個目の試練の日だ。自分たちのためにも頑張りたいところだが、私達の中には暗い空気が漂っていた。昨日のお母様のことがまだ私達の中に残っているのだ。
昨日とはまた違った理由でアレクシアとキスができなかった。そのこと自体は仕方がないのだが、やはり寂しいと思ってしまう。
「二人とも、暗いままでいるのは止めて欲しいですの。そんな顔をさせるためにお母様に合わせたわけではありませんの」
お姫様は強い人だ。一番辛いのはお姫様のはずなのに私達のことを思ってくれている。
「うん、そうだね。今日の試練頑張らないと。ありがとう」
「ボクも頑張らないと」
今は試練に集中しなければならない。私達にもやらなければならないことが有るのだ。薬草が必要なら試練に合格してから私が取りに行けばいいのでは無いか。学園に行くまでは時間がある。そう考えたが、ヴァレリーさんに相談しないといけないし確定していない話で二人を喜ばせてもいけないから今は私の中に留めておく。
そう決意しているうちにおじいちゃんが来た。今回の試練はお姫様は一緒に居られないのでお姫様はお母様の元へ向かった。
「二人ともそろって居るな。今日は魔法の試練を行うぞ。それぞれに違う課題を与えるからそれをクリアするのが二つ目の試練じゃ」
今回の試練は魔法だ。それぞれ闇属性と光属性に適した課題を与えられそれをクリアすることになる。魔力の暴走を抑える為に来たのだ、魔法に関する試練があるのは当然だろう。
だが、ここで問題が一つある。もし魔力が暴走した場合に抑える方法が無かったので今まで闇の魔力を使ったことが無いのだ。つまり、お手本もなしにいきなり魔法を使うことになる。しかも試練の間はヴァレリーさんに会うことが出来ない。私達でどうにかしなければならないのだ。
「まずアレクシア、汝はこの花の種を光の魔法で育てるのじゃ。花が咲いたら合格じゃぞ」
そういっておじいちゃんはアレクシアに種を渡した。私は花には詳しくないから何の種かは分からなかった。
「次にエマ。汝には傀儡を作ってもらう、操り人形じゃ。もとになる素材は何でもよいが、動物の死体なら近くの倉庫にあるぞ」
「えっ?」
私の試練アレクシアに比べてキツ過ぎる。やっと死体を捌けるようになったら今度は操り人形にしなければならない。少しは慣れたといっても流石に死体を弄ぶことは私の感性ではできない。
「エマ、頑張ろうね」
「うん」
アレクシアは庭に出て試練を始めた。種を土に植えている。私もおじいちゃんに連れられて倉庫に向かった。
「ここじゃ、里を襲った動物の死体がこの中にある。好きなように使うとよい」
私はとりあえず倉庫の中を覗く。
「あ、やっぱ無理」
私はそっと倉庫のドアを閉じた。倉庫の中には色んな動物が横たわっていた。この中から何を選ぶにしろ操り人形にするのは無理だ。
「なんじゃ、諦めるのか?」
「それは、嫌だけど」
それでもこの試練に合格するにはこの動物を操らなければならない。どうにかして覚悟を決めなければならないのだ。アレクシアはもう試練を始めている。私だけ立ち止まっているわけにはいかない。
私はまた倉庫を開け中に入る。まずはこの空間になれることから始めようと思った。入ってすぐに熊が横たわっている。動かないのは分かるけど迫力があって近づきづらい。
熊は怖かったので奥に進み鹿を見つける。鹿はヴァレリーさんが狩っているところを一回見たのでまだましなはずだ。
あっ、鹿と目が合ってしまった。つぶらな瞳が私をとらえている。そう私が思っているだけなのは分かっているけどこうなるとやはり操るのはためらってしまう。
どうしても私には動物を操り人形にはできない。ここでもう私の試練は終わりなのだろうか。わざわざヴァレリーさんにここまで連れてきてもらったのに何もできないまま帰ることになるのは嫌だ。
「動物を操るのには抵抗があるようじゃのう。素材は何でもいいのじゃぞ。そこにいるネズミでもだめかのう」
素材は何でもいいと言われてもネズミも動物だやはり私にはどうしようもない。いや、今の話には一つだけ気になることがあった。
「素材は何でもいいの?」
「そうじゃ」
「動物じゃなくても?」
「そうじゃな」
私は倉庫から出た。倉庫の話はただの引っ掛けだった。多分ヴァレリーさんから私の話を聞いたからそれで試されたのだろう。それにしても
「やることちょっと酷くないかなあ」
「しょうがないじゃろ、あの魔女からの頼みじゃ。克服するならそれでよし。克服しないとしても他の方法があることに気付けるならそれもよしということ話じゃ。どうしても無理なことは別の方法で解決できることを知ってほしいと言っておった」
やはりヴァレリーさんは優しい人だ。出会って数日の私をこんなにも気にかけてくれている。試練が終わったら何かお礼をしよう。
私はお寺に戻った。庭にアレクシアの姿が見える。
「おじいちゃん! ボクできたよ!」
アレクシアの足元には水色の花が咲いていた。アレクシアの髪と同じ色だ。アレクシアはもう試練を終えたようだ。
「ふむ、合格じゃな」
「やったー! エマはどう? できた?」
「今からやるよ」
私は闇の魔力の感触を確かめた後錬金術で人形を作りだした。操り人形の人形は自分で作ればいいのだ。その人形を闇の魔法で操る。
「出来た、ミニお母さん」
「かわいい!」
私は小さいヴァレリーさんの人形を作って動かした。ミニヴァレリーさんは歩いて私の周りをまわっている。
「これで二人とも合格じゃな」
「やったね!」
「うん、ありがとう。お母さん」
私はミニヴァレリーさんの赤い髪を撫でた。なんとなくミニヴァレリーさんの顔がにやついている気がした。私は少し笑ってミニヴァレリーさんにデコピンをした。
「二人とも無事終わったようで良かったですの」
「お姫様! そうだ、これあげるよ!」
アレクシアが試練で育てた花をお姫様に渡す。お姫様は笑顔で受け取っていた。綺麗なお姫様には花が似合う。アレクシアも可愛いから写真に撮ったら良い一枚になりそうだ。写真館で働いていたからこの二人の写真を撮りたいと思ってしまう。写真のコレクションは好きだからこの二人との思い出を撮っておきたい。試練が終わったらカメラを作ってみよう。
「そうだ、お姫様。明日もお母様に会いに行っていい?」
「いいですの。何をするんですの?」
「ちょっと試したいことがあって。アレクシアにも手伝って欲しいんだけど」
「? いいよ?」
二人とも何のことか分かっていないようだけど、私にも自信が無いことをしようとしているから話すのはお母様がいる時にしたい。
その後、お姫様が簡単なものでもいいから料理をまた教えて欲しいと言われ野菜炒めを教えた。今度は前みたいに失敗することなく完成させた。お姫様はいつかお母様に自分の料理を食べてもらいたいと言っていた。
「里にいる間は私達が力になるよ」
「ありがとうございますの」
風呂も一緒にはい入りゆっくりして今日は寝た。明日はまたお母様に会いに行く。私の考えがうまくいけばいいな。
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