村へ買い物に行く
苦しい。
私の顔をなにか柔らかいものが覆っている、口にはなにか突起物が当たっている。息がしづらい。私は苦しみから解放されるためにもがくが、拘束されていて動けない。
「よしよし、エマ。アタシの母乳が欲しいのかい? 悪いけどアタシは出ないよ。なんせまだ男も知らないからねえ」
ヴァレリーさんは朝からロリコンを発揮しているらしい。半裸で私を抱きしめている。今回のはちょっときつい。
未経験なのは意外だった、私もだけど。
ヴァレリーさんは私が苦しんでいるのを見て、私を解放した。そのまま朝食を用意してくれるそうだ。その間に私は用意してもらった服に着替える。袖ありの黒いワンピースだ、フリルが多い気がするが、猫耳パーカーと比べたら大分良い。
朝食のライ麦パンを二人で食べる。朝食の時間も私はヴァレリーさんの膝の上だ。食事の度にこうするのだろうか。
「昨日も言ったが今日は食材を買いうために近くの村に行くよ。二時間後には出かけるからそのつもりでね。昼も向こうで食べるよ」
「分かりました。その村はどんな村なんですか?」
「この辺りは自然環境がいいから、それを活かした農業が盛んな村だよ」
「じゃあ、美味しい食べ物がいっぱいありそうですね」
「そうだね、楽しみにしているといいよ」
食事が終わり、ヴァレリーさんは食器を片付ける。手伝おうとしたが、今の身長ではまともに作業ができないため、断られてしまった。
二時間後、村へ出かける準備をした私たちは家を出る。ヴァレリーさんが目線を私に合わせ、問いかけてきた。
「エマ、ちょっと歩くことになるよ、昨日みたいに抱っこするかい? というかさせてもらえないかい?」
「今日もちゃんとロリコンですね。遠慮します」
「抱っこしたいのもそうだけど、村に行く道は足元が危ないところがいくつかあるからね。怪我しないため、っていうのもあるのさ」
「分かりました、お願いします。噓だったらビンタしますからね」
「エマ、それはただのご褒美だよ。何なら今すぐしてくれてもいいよ」
私は無言でヴァレリーさんをビンタした。単純に気持ち悪かった。どうせご褒美と思われるなら別にいいだろう、にやにやしてるし。
「ほら、ロリコンさん。早く行きますよ」
「これがジト目ロリっ娘か、いいねえ」
ワタシを抱き上げ、そんなことを言いながら歩きだす。道中は本当に私が歩いたら転びそうな道がいくつかあった。正直抱っこしてくれて助かった。頬ずりされることを除いては。
そうして進むこと十数分、私たちは村に到着した。農村という言葉がぴったりなほど畑が一面に広がっていて、一か所に二十軒程の民家が密集していた。
ヴァレリーさんは私を連れて、農具を倉庫から出している三十代くらいの男性の元に行き声をかけた。
「クロヴィス、久しぶりだね。今日は食材をもらいに来たよ」
「魔女さんか、久しぶりだな。食材か、ちょっと待っていてくれ」
そう言ってクロヴィスと呼ばれた人は家の中に入っていった。一つ気になったことがあるので聞いてみる。
「魔女さんって呼ばれてるんですね?」
「ああ、父がいる王都がここから一時間のところにあるからね。一応名前は伏せているんだよ」
「そういうことは先に言っておいてくださいよ。大事なことじゃないですか」
「そうだな。悪かったよ、すまない」
危なかった、場合によっては何も知らず名前を呼んでいたかもしれない。大分ヒヤッとした。少ししてクロヴィスさんが戻ってきた。
「おまたせ、野菜はこの袋にあるもので全部だ。肉は帰り際に渡す」
「ありがとう。肉は出来るだけ多めにしておくれ。この子も食べるからね」
「ん? この子は? もしかして魔女さんの娘かい?」
「え?」
私は耳を疑った。今聞こえたことは聞き間違いではないだろうか。私がこのロリコンの……、
「おかあさん?」
「そうだ、この子はアタシの娘だ」
「ちょっ!?」
さらっと嘘をつかれた。驚いて口から出てしまったとはいえ、おかあさんと言ってしまったのは完全に失敗だった。
「あのっ、ちが-」
「こりゃたまげた、魔女さんに娘がいたとは。見た感じうちの娘と同い年じゃないか? おーい! アレクシアー!」
訂正しようとしたが、遮られてしまった。クロヴィスさんはそのまま家に向かって誰かを呼ぶ。
「お父さん、どうしたの?」
家の中から私と同じくらいの身長の女の子が顔を出してきた。楚楚とした黒い瞳に水色のセミロングが特徴の子だ、少し大人っぽい雰囲気を出している。
「紹介しよう。俺の娘のアレクシアだ、魔女さんの娘とは年が近いだろうから仲良くしてやってくれ。アレクシア、お客さんだ、挨拶しろ」
「は~い! 魔女さん、こんにちは! そっちの子は、はじめまして、ボクはアレクシアだよ!」
雰囲気は大人っぽいけど、中身は元気いっぱいの子だ。
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