5日目 月曜日

第17話 点心


 今日は朝から点心ディムサムだ。

 昨夜投宿したのは郊外のホテル。ペナンでは名門ホテルの朝食ビュッフェに想い焦がれたポーリィさんも、此処の朝食に未練はないらしい。


 幾度か触れた通り、マレーシアは外食する家が多い。朝から何処どこ彼処かしこも家族連れで大繁盛だ。学齢の子供たちの姿もちらほら見えるが、学校をサボっている訳ではない。

 マレーシアに限らず、アジアは子だくさんの家庭が多い。増え続ける子供たちの数に追いつかない学校設備と教員たち。政府の出した答えは、午前・午後の二部制だった。

 二部制を採用するのはマレーシアだけではなく、他の国でも同様の制度が見られる。それだけ合理的で合経済的であることの証左なのかも知れない。多くの先進国が辿った道をんで、いずれはこれらの国々でも子供たちの数が減るだろう。しも今の子供の数に合わせて校舎を増やせば、将来無駄に余らせてしまう。二部制はエコで立派にサステナブルだ。



 幾つも連なる中華レストランを通り過ぎて、一軒の店の前に立つとポーリィさんは迷わず中に入った。

「食べるなら客家ハッカよ」

 客家、広東、潮州ティオチウ福建ホッケン。一口に華僑と呼ばれるが、彼らの出自はそれぞれ微妙に異なる。標準華語マンダリンとは異なる方言を用い、それぞれ独自の習俗を保持する少数民族だ。中でも客家は本家中国では土楼と呼ばれる環状の集合住宅が一村を成す、特徴的な生活文化を有している。その客家が一番とのたまうポーリィさんは勿論客家の出だ。


 ずは茶を頼んで、例の如く食器をあらった。

 無論、茶と云えば烏龍茶。食事だけでなく茶をたのしむものでもある故、点心とは即ち飲茶ヤムチャである。

 御猪口おちょこほどの小さな茶杯なので、一口飲むと直ぐまた注ぐことになる。注いだ瞬間茶杯から立つ薫りがかぐわしい。ポーリィさんはちょっと上質な茶葉を頼んだらしい。


 彼女自慢の客家の点心だが、他との微妙な違いを感じる繊細な舌を、私はたない。だ幸いにも、旨いことだけは判る。それだけ判ればい。

 ワゴンに乗って運ばれてくる皿を次々卓子テーブルに移しては口に運んだ。

 蒸籠せいろの蓋を開ければ肉の餡の詰まった饅頭、ちまき、色とりどりの焼売シューマイ。粽は竹皮を剥くと蒸した糯米もちごめにごつごつ鶏肉と茸が入っている。

 白い皮に包まれた、エビの蒸餃子。やはり白くもっちり、甘辛な腸粉チョンファン

 朝から箸が止まらない。至福の悩みだ。



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