3 大食い注意!

 その同じころ。

 水色の髪のルルウラ=レイは、いつものキャップをかぶって町内を巡回していた。


(大帝国レムウル。これまでとは違う方向を狙い始めたって)


 ほかの地球にいる者たちからの通信で、極秘情報が入った。

 これまで、プラニスファーの適合者を探すために子供をさらう、という作戦に失敗しつづけていた大帝国レムウルだが、次の怪人は少々違うらしい。


(〈ミラー夫人〉か)


 身近な人間となり替わり、もとの人間は鏡の世界へ引きずり込み、閉じ込める。


(結局人さらいなんだけど、)


 身近な人間の顔で近づいてくる点が要注意なのだ。


「よお、ルルウラ=レイ!」


 カレー店・ゴンゴンの前を通りがかったところでヘイタに呼び止められた。ランチタイムの幟を片づけているところだったらしい。


「さっき通信もらった件、なんかあったか?」

「特には。どう出てくるかわからないから、とりあえずパトロールしてた。今のところおかしなものは見かけてないし、誰かからの報告もないな」

「とりあえず夕飯食っていけよ」


 本日の夜メニューは唐揚げカレーだという。

 店に入ると、人だかりがあった。


「唐揚げカレー大盛り30分チャレンジの挑戦者が、もうすぐ完食するんだよ。まだ10分しか経ってないんだ」

「へえ」


 そんなメニューもゴンゴンにはあったのか。


「……おっ、久しぶりだな!」

「えっ、ザムザム=ギル?」


 完食し、拍手につつまれたその顔は、まさしく元・大帝国レムウル幹部、ザムザム=ギルだった。


「ヘイタさん、どうして?」

「いやあ、常連なんだよ。

 だって、もう大帝国レムウル関係ないだろ?」

「そうだけど」


 やすやすと気を許していい相手でもない。


「まあ、堅いこと言うな、ルルウラ=レイ」


 水を飲みながらザムザム=ギルが。


「ここの地球人向けの盛りだと俺、足りないんだよな。

 その点、ここの大盛りは完食すればタダだしな、都合がいいわけよ」

「店つぶさないでくださいよ? 毎日じゃないからいいものの」

「あっはっはっ!」


 元・大幹部は大笑いするのである。


「それより、それも気になるな」

「え?」

「〈親しい誰かに成り代わる〉ってとこさ。

 マモルが行ってるから、気をつけてくれてるとは思うけどさ」

「ちゃんとやってるのか、ルルウラ=レイ?」


 ザムザム=ギルが割り込んできた。


「あの総攻撃中止から、再開まで妙に間が空いて、人さらいばかりなのは妙だと思わないか?」

「はあ」


 それはそうなのだ。各地球の仲間も分析中なのだが。


「どうせ、総攻撃失敗の責任をなすりつけあって、グダグダしているんだろうよ。そんなとこだぜ。あっはっはっはっ!」


 クビになった職場の悪口はよくないだろう、と、ヘイタは思ったが、そういう客は少なくない。


   * *


「パエリアってなに?」

「ムール貝とサフランが入った黄色いごはんだよ!」


 広い食堂。

 白いテーブルクロス。

 夕食の献立を並べられたクラブ員がざわざわした。

 ていうか、ムール貝って食べたことない。


「まあまあ、落ち着き給え」


 ほかにはハーブポテトにオニオンスープ、クレソンサラダ、デザートに洋ナシのシャーベット、と続く。


 どれもとてもおいしかったのだが、僕らはなんだか緊張して言葉が出ない。


「は? ワイン??」


 遅れて到着したマモル先生がへんな声を上げた。


「先生。どうぞ遠慮なさらないで」

「いや、ここは一応クラブ活動だから、遠慮しますよ」


 そこでつまらなそうな顔をするスター☆トンゴロン先輩、ここは引こうよ。


「目的は観測だ。

 天候もいいし、よかったな、お前たち」

「ごちそうさまでした」


 こんなとき、合宿なら食器を下げるのだが、ささっといろんな人がたち現れて、あっという間にテーブルはきれいになる。

 僕はそっと、スター☆トンゴロン先輩を見た。

 毎日こんな生活してるのに先輩、配膳と片付けの指導をする、給食委員会のマスターなんだ……底の知れない人だ……

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