第27話 新時代の力②

1941年8月19日


「米太平洋艦隊はフィリピンの救援に赴くために出撃してきます。間違いありません」


 連合艦隊旗艦「紀伊」の艦橋で、連合艦隊情報参謀森友一大佐は開口一番言い放った。森は7月のマレー沖海戦時には第4戦隊情報参謀の地位にあったが、同海戦での活躍が軍令部に評価され、連合艦隊司令部へと栄転してきたのである。


 森の発言に対して、司令部の面々は一斉に頷き、連合艦隊司令長官山本五十六大将が重々しい口調で喋り始めた。


「この雰囲気から察するに、森大佐の意見に大半の者が賛成のようだが、問題は米太平洋艦隊の主力の最終目的地がフィリピンだと仮定した時に、それを迎え撃つGFの主力を何処に配置するかだ」


「GF主力は全てパラオに配置すべきです」


 森がしたためていた自分の考えを述べた。


「馬鹿な!」


 森が自分の意見を述べるやいなや、GF首席参謀源田実大佐が吠えた。


「GFの主力をパラオに配置した場合、それよりも以東にあるトラック環礁などの我が軍の策源地は必然的に見殺しになってしまうではないか!」


「米軍が我が軍の主力と一戦交える前に寄り道をする可能性は限りなく0に近いですし、万が一、米太平洋艦隊の主力がラバウルやトラックに来寇してきたとしても、その前に輸送船の集中運用によって人員を引き上げておけばいいと考えます」


 森と源田は階級が同じであったが、GF長官の手前、森は非常に丁寧な言葉遣いを心がけていた。


「何故そのように考える事が出来る!」


「我が軍は海戦劈頭のマレー沖海戦でダニエルズ・プラン艦に所属するレキシントン級巡洋戦艦4隻の撃沈、同2隻の撃破に成功しています。この時、米軍と相対した我が軍の戦艦部隊の大半が長門型以前の旧式戦艦であったという事実は、米軍にとって屈辱以外の何者でもないからです」


「つまり、その雪辱を晴らすために、米軍は中部太平洋に点在している我が軍の基地など全て無視して、短兵急にGF主力に勝負を挑んでくると情報参謀はいいたいのだな?」


 GF参謀長宇垣纏中将が森の考えを捕捉し、賛意を示した。


「どうでしょうか、長官? 私は森大佐の考えが非常に理に叶っていると考えますが」


「良いだろう。GFの主力はパラオに配置しよう」


「こうして見ると、我が軍は戦艦の隻数で圧倒的に優位に立っていますな」


 甲参謀菊池朝三中佐がここで始めて発言し、森は艦橋の壁に貼られているGF主力の編成表(戦艦)に目をやった。


第1戦隊 「紀伊」「尾張」「駿河」「近江」

第2戦隊 「加賀」「土佐」「陸奥」「長門」(この4隻はドックで修理中)

第3戦隊 「富田」「上田」「春日山」「松山」

第4戦隊 「天城」「赤城」「愛宕」「高雄」


 GF旗艦を務めている戦艦「紀伊」を始めとする紀伊型戦艦は第2戦隊に所属している加賀型戦艦の正統後継に当たるクラスであり、長砲身主砲である50口径41センチ連装砲5基10門を装備している。


 防御力に関しても、舷側の装甲が大幅に強化されており、40センチ砲弾10発程度の命中では、小揺るぎもしないと考えられていた。


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日本海軍 紀伊型戦艦「紀伊」


全長 252.10メートル

全幅 35.19メートル

基準排水量 42600トン

兵装 50口径40センチ連装砲 5基10門

   50口径14センチ単装砲 16門

   45口径12センチ連装高角砲 8基16門

   25ミリ連装機銃 20基40門

同型艦 「尾張」「駿河」「近江」

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「遂に八八艦隊計画艦が揃い踏みですか・・・」


 16隻の戦艦が勢揃いした編成表を見つめながら宇垣は感慨深そうに呟いた。


「この前、呉に足を運んだとき、『松山』の慣熟訓練があと2ヶ月半で完了するとの報告があった。2戦隊の4隻がドックから出てくるのもほぼ同時だ」


 山本は、「松山」艦上で、「松山」初代艦長有馬正文大佐が言っていたことを思い出したように言った。


「米軍がマレー沖海戦の損害から戦力を立て直し、再び大規模行動を再開するのも約2ヶ月~2ヶ月半後だと予想されます」


 森は情報部でまとめた大量の情報を元にはじき出された予想を報告した。


 森の言葉に山本、宇垣を始めとするGF司令部全員が一斉に頷いた。


 会議が煮詰まったと思った山本は全員の顔を見渡して言った。


「中部太平洋に展開している部隊に索敵を厳にするように厳命せよ。米太平洋艦隊が動き出すのと同時に、我が軍も行動を開始する」


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作品読んで頂きありがとうございます。


八八艦隊16隻総力出撃――!!!


ちなみにですが、富田型戦艦の艦名の由来は、戦国時代に「難攻不落」と評された城の名前です。


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(追記)

急用により、1週間程更新を中断させていただきます。


2022年4月27日 霊凰より







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