八八艦隊奮戦記 ~大艦巨砲の彼方~

霊凰

第1章 南方の死闘

第1話 脅威の接近①

1941年7月19日



 強大な戦力が西太平洋上を航行していた。


 艦隊の中心を形成しているのは、6隻の巨艦であり、それらの艦には合衆国戦艦のアイデンティティとも言える長大な篭マストが2基そびえ立っていた。


 4本の煙突からは噴煙が立ちのぼっており、それが一層、艦の存在を際立たせている。


「いきなり、西太平洋で急襲作戦を挑むことになるとはな。太平洋艦隊司令部も思い切った決定を下したものだ」


 アメリカ合衆国海軍TF2(第2任務部隊)司令長官ジョン・サイド中将は、TF2旗艦「ユナイテッド・ステーツ」艦橋の司令長官席に座りながら、静かに呟いた。


 「ユナイテッド・ステーツ」はレキシントン級巡洋戦艦の6番艦だ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

合衆国海軍 レキシントン級巡洋戦艦「ユナイテッド・ステーツ」


全長 266.5メートル

全幅 32.2メートル

基準排水量 43500トン

速力 33.3ノット

兵装 50口径40.6センチ連装主砲 4基8門

   15.2センチ単装副砲 16門

   7.6センチ単装高角砲 6門

同型艦 「レキシントン」「コンステレーション」「サラトガ」「レンジャー」

    「コンスティチューション」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 レキシントン級巡洋戦艦は合衆国海軍が第1次世界大戦中に策定された建艦計画(ダニエルズ・プラン)によって誕生した艦であり、1924年から1928年の4年間の間に相次いで6隻が竣工した。


 太平洋艦隊司令部には他にも4隻のコロラド級戦艦が配備されていたが、それらは全てハワイ・オアフ島に停泊しており、TF2とは別行動となっていた。


「アジア艦隊所属の潜水艦艦隊の報告によると、マレー沖に戦艦多数に守られた数万人規模の強力な陸軍兵力が輸送船数十隻に分乗して輸送されているとの事です。太平洋艦隊司令部は開戦と同時にこの部隊を叩いてしまおうと考えたのでしょう」


 TF2参謀長マイケル・ウィリアムス少将がハワイで何十回と作戦参謀に力説された、今回の作戦の作戦目的を言った。


「しかし、この作戦を実施するに当たって、太平洋と大西洋の戦力バランスが著しく損なわれた。欧州戦線の事を考えるとこの状況は好ましくない」


「英国・・・、いや、ドイツの事が気になりますか?」


「ああ」


 サイドは頷いた。


 1939年9月1日、ドイツ陸軍のポーランド侵攻と、それを受けて行われたイギリスおよびフランスの宣戦布告により端を発した第2次世界大戦は、現在の所、ドイツ軍優位で戦局が推移していた。


 1940年5月までに大国フランスを含めたヨーロッパの大半を支配下に置いたナチス・ドイツは次の目標を英国に定めており、英国に対するドイツ空軍の大規模空襲が計画されているとの情報も入ってきており、欧州戦線は予断を許さない状態なのだ。


 そして、このような状況にも関わらず、大西洋艦隊に配属されているダニエルズ・プラン艦はサウスダコタ級戦艦3隻のみであり(サウスダコタ級は全6隻だが、その内3隻は近代化改装中のため、前線に出すことが出来ない)、サイドはそのことを不安視していたのだ。


「確かに大西洋艦隊に配属されている戦艦戦力は太平洋艦隊のそれと比較すると少ないように感じられるかもしれませんが、ドイツ海軍の戦力を考えると多すぎるくらいでしょう」


 ウィリアムスが大西洋艦隊と弱小のドイツ海軍との戦力差に関して言及した。


 ドイツ海軍の主力戦艦は38センチクラスの主砲を搭載している戦艦が2隻、28センチクラスの主砲を搭載している巡洋戦艦が2隻のみであり、サウスダコタ級戦艦3隻の他にも、旧式戦艦とは言え、テネシー級戦艦2隻、ニューメキシコ級戦艦3隻が配属されている大西洋艦隊とその戦力差は比べるべくもなかった。


 強いて言えば、というのが僅かな気がかりであったが・・・


「・・・まあ、TF2としては、欧州戦線の如何に関わらず、今回の急襲作戦に万全を期すだけだな」


 サイドは頭の中の意識を切り替えた。


「それでは、今回の作戦の最終会議を今から行おうと思う。TF2の全幕僚・全艦長をこの『ユナイテッド・ステーツ』の艦橋に集めてくれ」


 サイドはウィリアムスに対して作戦前の最後の打ち合わせの開催を宣言した。



「戦艦が4隻か・・・。司令部の予想通りだな・・・」


 伊号第17潜水艦長山本裕太少佐は、海上に突き出している潜望鏡を操りながら呟いた。


 ここは、フィリピン東150海里、南30海里の海域であり、伊17は万が一の米海軍の出現に備えて索敵活動に従事していたのだ。


 更に山本が潜望鏡で海上を入念に観察すると、最初に視界に入った戦艦4隻の後ろに2隻の戦艦が後続している事が確認でき、戦艦の他にも巡洋艦9隻、駆逐艦20隻以上がその部隊に随伴しているということも分かった。


「敵艦隊確認。戦力把握完了。現水域を離脱し次第、司令部に『米艦隊発見』の通信を発する事とする」


 潜望鏡を下げ、現海域から離脱を開始した伊17から「米艦隊発見」の通信が発せられたのは2時間後の事であった・・・


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「異史・太平洋戦争」、「日米太平洋戦記・太平洋争覇戦」に続く私、霊凰の3作品目の架空戦記を今日(2022年4月1日)から連載開始したいと思います。


毎日午前7時更新です。


この作品が面白いと感じたり、この作品のこれからに期待したいと思った読者様は応援・フォロー・★をお願いします。


連載最初の1週間は積極的に★を投げてくれると作品が伸びやすいので助かります。


2022年4月1日 霊凰より










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る