第3話 今からふわりの部屋まで行きますわよ

「貴女は今どれくらいの資産があるのかしら」

「えっと、だいたい50万くらい」


「そう。ふわりもこの前もらったお年玉から50万円出すわ」

「え、お年玉?」


「そうよ、貴女ももらうでしょう?」

「もらうけど……」


 え、何?

 50万円がお年玉の一部なの?

 私が頑張って貯めて、リスクをとって運用してきたお金が?


 これが格差っていうやつなのか……。


「そういえば貴女、最初のお金はどうしたんですの?」

「えっと、それはお姉ちゃんが私の写真を撮ると1枚1000円くれるから」


「え……、貴女、それ大丈夫なんですの」

「なにかおかしいの?」


「え、おかしいでしょう? ……おかしくないの? 庶民のみなさんはそれが普通なの?」

「普通だと思うよ?」


「絶対普通じゃない気がしますわ……。貴女ちょっとあぶなかしいですわ」

「そう? まあ何かあってもお姉ちゃんが守ってくれるから」


「むぅ……、まあいいですわ。それよりもやり方を教えてくださるかしら」

「あ、そうだよね。まずは口座を作るところからかな?」


「そうなりますわね」

「そっか。あんまり覚えてないけど、確か身分証明書とかいるはず……。持ってる?」


「部屋に置いてきてますわ」

「そうだよね。また明日にする?」


「何言ってますの? 今からふわりの部屋まで行きますわよ」

「え?」


 嘘だよね……。

 これは憧れの、友達の家にご招待されるイベント発生ですか?

 どうしようお姉ちゃん、ひさしぶりすぎて緊張しちゃう。


「何してますの? 早く来なさい」

「は~い」


「……なんでそんなニコニコしてますの?」

「別に何でもないよ」


「ふん、まあいいですわ」


 そうして私はふわりちゃんの部屋がある菊花寮へとむかった。

 しかしこの時の私はすっかり油断していたのだ。

 私は人見知りするのであまり人に会いたくはない。


 でも一緒に歩いているふわりちゃんは、それはもう目立ちまくるのである。

 なので当然一緒にいる私にもみんなの視線が向くわけで。

 それはもう恐ろしい時間なのだった。


「うう……」

「ちょっと、なぜふわりの腕に抱きついてるんですの? 気安く触らないでくださいまし」


「だって~、人がいっぱい……」

「いっぱいって……、まだ3人しかすれ違ってませんわよ」


「無理~」

「いったいどんな人生送ってますの?」


「ひきこもり」

「はぁ……。もういいから、ふわりの腕に抱きついてなさいな」


「ごめんね」


 私は恐る恐るふわりちゃんの腕に抱きつく。

 自然と密着する形になってすこしドキドキする。

 家族以外の人とこんなに近づくのひさしぶりだ。


 ふわりちゃんからなんだかいい香りがする。

 これがお嬢様の香りなのだろうか。

 クンクンクン。


「……ちょっと、においをかがないでくださいます?」

「あ、ごめん。いい香りがしたから」


「あらそう。別に何もつけてませんけど」

「じゃあきっとこれがふわりちゃんの香りなんだね。クンクン」


「やめなさい」


 そんなまわりから見たら変態に見えるかもしれない行動をとっていた時だった。

 なにやら殺気のようなものを感じてまわりを見る。


 誰もいない……。

 気のせいか。

 いや待って。


 このふわりちゃんは、この学園でもトップレベルのお嬢様。

 そう、クイーンオブお嬢様だ。


 そんなふわりちゃんがたったひとりで出歩くなんてこと許されるのだろうか。

 実はいろんなところで監視されてるんじゃ……。


 もし今の私が『要警戒小娘』に認定されていたらどうだろう。

 なにか疑わしき行動をしたら消されるかもしれない。

 あばばばばば。


 私はそのままふわりちゃんにひっついて菊花寮の中に入っていった。

 廊下を歩いていると、反対側から他の生徒が3人並んで歩いてくる。


「あ、風早様だ。ごきげんよう」

「ごきげんようですわ」

「えっと、その子は?」


 逃げ場のなかった私は、なんとか見つからないようにとふわりちゃんの逆側に逃げていた。

 しかしばっちり発見されてしまう。


「この子は私の新しい奴隷になる予定の子ですわ」

「あはは、そうなんだ。頑張ってね」


 その女の子たちはそれだけ言うと手を振って去っていった。

 なんだろう、今の感じ。


 もしかしてふわりちゃん、面白い人認定されてるんじゃ。

 だって友達はいらないとか言ってたのに、さっきの、むこうはお友達だと思ってるよね。


 風早様って呼んでたけど、慕ってるとかじゃなくて、ただのニックネームくらいの感じがする。

 これは、なんとかなるかもしれない。


「さあ、着きましたわよ」


 そして私は何かを期待しながらふわりちゃんの部屋に足を踏み入れた。

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