第35話:三人の勉強会と煮込みハンバーグ
恭子さんと花音と遊園地。恭子さんと温泉旅行。健郎&明日香とカラオケからの…花音とデート。俺の夏休みは、ほぼ毎日恭子さんと花音のどちらかと過ごしている夏休み。
遊んでばかりではダメだと思い、お盆休み直前の模試に挑戦することにした。
そのための問題集も手に入れた。一人黙々と勉強するつもりだった。勉強に集中するつもりだった。
なのに何故だ!?
今の目の前には、腕組みをした恭子さんと花音が向き合っている。
―――
花音とデートしてしまった翌日のこと。俺が午前中に部屋の掃除を手伝って、恭子さんが洗濯をして一通り家事が終わった頃。
花音が普通に来た。インターホンを押してやってきた。「のび太野球やろうぜ」くらいの普通のトーンで元カノが、今カノの家にやってきた。
昨日うっかりデートしてしまい(?)、浮気男として名を地に落としている俺に会いに来た。
そして、普通にドアを開ける恭子さん。何か分からないけど、腕がかゆい。額の辺りもかゆい。ここが家なのに今すぐ帰りたい。
(ガチャ)「お邪魔するわね」
薄手のロングスカートにふわっとしたカットソー、胸元に小さなネックレスを付け、大きなカバンを持ってきた花音。ロングの髪の毛は今日もツヤツヤだ。
「来たわね!花音ちゃん!今日も最高に可愛いわね!」
「最高に可愛い」が
「恭子もエロカッコいいわね。それは、男子高校生のいる部屋でアリのなの?」
ちなみに、恭子さんは家の中なので、すごくラフな格好だ。少しふわっとした白いタンクトップにゴリゴリに短いショートパンツ。
ブラジャーの肩ひもが時々肩に落ちるのがめちゃくちゃエロい。角度によっては脇の辺りからおっぱいが見えそうでこれがまたエロい。
後で押し倒してやろうと思っていたら、花音が来てしまった。
「お言葉に甘えて勉強しに来たわ」
玄関にちゃんと靴を揃える花音。育ちがよろしい。そして、礼儀が正しい。
「昨日は、カツくんがお世話になったそうね!」
恭子さんが玄関先で、花音に立ちはだかった。
「受験勉強に前向きになったこと?動機付けは恭子が既にやったみたいだったから、私は手段を教えただけよ」
はいはい、とばかりに、勝手知ったる他人の家と言わんばかりに花音が入ってきた。
「ぐぎぎぎぎぃ~、それもお姉さんの役目だったのに~」
「『今カノの座』と
なんかわからないけど、一発触発の危機が目の前にある!
「それよりも、恭子自身の方はいいの?」
「むむむぅ~」
あ、なんか恭子さんが、花音にやり込められったっぽい。高校生の元カノにどんな弱みを握られているんだこのエロ巨乳お姉さん。
「あ、そうだ。来るついでに駅で売っていたからお菓子を買ってきたわ」
紙袋を恭子さんに渡す。
「なにこれ!?バウム堂のキャラメリゼじゃない!1日限定10個のっっ!よく買えたわね!?」
あ、恭子さんの目がハートになってる。
なんか恭子さんが部屋でスキップしてる。好きなお菓子だったっぽい。
「お持たせだけど、後でいただきましょうね。あ、花音ちゃんは紅茶だったわね」
人ってこんなに変わるもの!?
いくらすんのか分からないけど、お菓子を渡しただけで、ここまで状況を変えることってできるもの!?
こたつのこたつ布団なしのテーブルに座った花音がどや顔でこちらを見た。
またそのどや顔が大変整っていて、お綺麗でいらっしゃる。俺は一生花音には勝てないだろう。彼女は強く、気高く、純粋で美しい。
「さあ、勉強しましょう。問題集を勧めた手前、責任を取って勉強を見てあげるわ」
もしかして、こいつ、そのために……普通に考えて今カノと同棲している男に会うために今カノの家に乗り込むとか、普通の女子高校生じゃできないことだろうに。
花音の場合、さも当然のように思わせる雰囲気があった。
なんだかんだ言って受け入れてしまう恭子さんの包容力にも狭量の俺には理解できないすごさを感じる。
俺がなぜこの二人のハイスペック女子に言い寄られているのか、もはや訳が分からない。むしろ、この二人がいれば俺は要らないんじゃないだろうかと思ってしまう。
「模試まであと10日よ。この問題集は10日間分だけで3冊あるのだから、1日3教科やれば終わるわ」
確かにその通り。今だから俺にも分かる。今回はプランニングを花音がやってくれたという事だろう。その上、全体のスケジューリングは、今カレンダーを見ながら確認し合った。
1日3教科、その日の分をやる。これをやり切れば模試でC判定が取れる。
「目的と具体的な手段」を明示していた。
「いつ何をやる」は非常に単純だから、前回のように「バーチャート工程表」は書かなくてよかったんだ。進捗が悪い場合は分からない問題があるときだろうから、恭子さんがいて、現役の花音もいる、と。
最強の家庭教師二人がいるのだから、遅れさせないってことだろう。
あとは俺の頑張り次第ってとこか。
ここでやらなきゃ男が廃る!問題を解いて、分からないところは教えてもらう!いち早く理解して忘れない!
俺は気合を入れ、集中して勉強に取り掛かった。
■
花音の指示で「7日目」のところからスタートした。これは、前回の中間の範囲と被る部分が多いところらしい。確かに分かる。全然手が出ない訳じゃない。
俺は集中して進めていった。どれくらい時間が経ったのか、昼も過ぎてちょっとお腹が空いてきた。
「カツくん、お昼スパゲティ・ナポリタンだけど、飲み物は何にする?」
「んー、麦茶で」
「花音ちゃんも食べて行くでしょ?飲み物は?」
「ありがとう、将尚と同じで」
恭子さんなんだかんだ言って、花音の分までご飯つくってあげてるし。どんだけ仲が良いんだよ、この二人。
「はいはいはーい!テーブルの上どけてー!自分の分は運んでー!」
実にテキパキしてる。
恭子さんが作ってくれたナポリタンは、麺が幅広タイプで野菜はナスと玉ねぎが入ってるのかな?肉は斜めにカットされたソーセージが入っている。粉チーズがかかっていて、大葉の千切りの緑がナポリタンの赤・オレンジ色に映える。
「「「いただきます!」」」
うまー!ナニコレ!?ナポリタンってこんなに麵がモチモチしてるもんだったっけ!?しかも味がすごく強く感じらえる。
さすがの花音も驚いた表情をしている。
「美味しい……」
花音も、美味しいものを美味しいって言える子だった。
「なにこれ!?めちゃくちゃうまいんだけど。!」
「そりゃあ、よかったわね」
なにその天使の笑顔!恭子さんが天使になってしまった!
「恭子、これはどうやったらこんなになるの?」
ボキャブラリーが急に死滅した花音の質問。日ごろ優秀なだけに面白かった。
「え?普通に作ったわよ?麺をゆでて、一回氷水で締めて……」
え!?スパゲティってアルデンテが最高じゃないの!?水で締めるとか聞いたことないんだけど。
「ブイヨンを使ってケチャップは2度に分けて……」
え?ナポリタンってケチャップだけじゃないの!?
「あと、豚肉を使うとコクが出るわね」
豚肉も入ってるの!?
「あんまりメジャーじゃないけど、この幅広麺の方がソースがよく絡むし美味しい感じ?後はねぇ……」
めちゃくちゃ色々ノウハウがあった。やっぱ恭子さん料理が好きらしい。そして、すごく上手。さらに、研究熱心。
花音が「むぅ……」と言いながら難しい顔をして食べている。あの花音をもやり込める料理スキル。恭子さんすごい。地団太踏むのがデフォルトの人じゃなかった!
■
食後、再び勉強をして、3時過ぎくらいには、花音が持ってきてくれたお菓子を三人で食べた。
これがまたうまい。この間の旅行の時に思ったけれど、おみやげを買うときってセンスが求められる。
花音のこのセンス侮れない。あんなに激おこプンプン丸だった恭子さんに、ナポリタンや紅茶を出させるまでになるとは……
「やっぱり、お前は万能だな」
「私は有能ではあるけど、万能ではないわ」
そのどや顔も、可愛いとか反則なんだよ。本当にすごいチート美少女め。
夕方も6時過ぎたらさすがに集中力が切れた。お腹もすいたし。昼ご飯を食べて一切運動していないのに、夕方になったらお腹が空いてるって、俺が食べたナポリタンの分のエネルギーはどこに行ったんだよ!?「エネルギー保存の法則」嘘だろ!
「花音ちゃん、夕飯食べてく?」
「いいの?」
「いいよ~。こないだリクエストがあった『煮込みハンバーグ』作ったけど」
「食べる!」
ああ、花音が餌付けされていく……まあ、それだけ恭子さんの料理は美味しい。それはすごく分かる。
いつの間にか買い物に行ったのだろうか?材料はあったのか?急に予告なく来た花音の分まで含めて煮込みハンバーグを作ることが可能だったのだろうか!?
「夏なのに『煮込みハンバーグ』だから、カロニとスープは冷たいのにしてみました♪」
黒い鉄の小さいフライパンみたいなやつに煮込みハンバーグが入ってて、ソースに浸っていた。木皿の上に乗っていて、持ち運べるようになっていた。
それぞれ、自分の分のご飯とおかずとスープをテーブルに運ぶ。
「この黒い小さいフライパンみたいなやつってあったっけ?」
「スキレットのこと?百均行ったらあったから買ってきちゃった♪」
やっぱりいつの間にか、買い物に行ってたんだ。大丈夫?彼氏と元カノ置いていって……やっぱり恭子さん大物だぜ。
「スープは分かるけど、ガロニはなに?」
「ガロニはね……付け合わせのこと。今日はブロッコリーと人参グラッセとミニジャガイモ」
付け合わせがガロニ……恭子さんは色々知っている。やっぱり、歳をとると色々知っているんだなぁ。
「よし、カツくん、今日の夜は戦争しよう!」
恭子さんが、ハンバーグ用のナイフとフォークを構えて言った。
はっ!この二人の場合は俺の思考が駄々洩れなんだった。迂闊なことは考えることも許されない!
「恭子さん、今日もエロ・カッコいいですね!とてもセクシーでげす。げへげへげへ」
俺は最高の揉み手で媚びを売った。
「あら、ありがと」
「ぷっ、あなたたち、いつもそうなの?」
花音が口に手を当ててクスクス笑う。
「失礼ね!お姉さんたちはいつもラブラブよ」
恭子さんの顔が真っ赤だ。可愛い人だなぁ。
「じゃあ、いただきましょうか!」
「「「いただきます」」」
ちゃんといただきますが言える環境。俺の好きな空間だ。
さてさて、恭子さんの煮込みハンバーグ……
「あ、うまい!この間のファミレスのより確実にうまい!!」
「うーん、まだ研究を始めたばかりだから、私としては75点ってとこなんだけど……」
「美味しい……」
「よかったわね、花音ちゃん」
花音はよほど美味しかったのか、かなり真剣な顔をしている。美味しいものを食べる時の顔か?それ。
「恭子を嫁にするという選択肢は……(ぽそっ)」
なんか、不穏なことを口走っている花音だった。
「大人特権で、お姉さんはこれー♪」
ワインが出てきた。そう言えば、恭子さんの分のご飯がない。
「ふんふふ~ん、ワインワイン~」
なんだこれ。ワインの歌か?恭子さんが鼻歌交じりでワインのふたを開けた。コルクじゃなくて、スクリューキャップだったので、俺の出る幕はなさそうだ。
コココココ、と音をたてながら恭子さんがワイングラスに注ぐ。
ワインの瓶を開けて、最初に注ぐ時だけ聞こえるこの出る音が俺は好きだ。大人になったら恭子さんとぜひワインを飲んで、この音を楽しみたい。
それにしても、この煮込みハンバーグは美味しい。店が出せるに違いない。
そして、約1時間後、俺たちは解決不可能な問題にぶつかってしまうことになる。
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