第1話  ゲームは突然に!

「なぁ、この像って…何か変わっていないか?」

 間延びしたジュンペイの声が響く。

普段は海面に沈んでいる、洞窟の中だ。

干潮の時にしか、見ることが出来ない場所だ。

地図にはハッキリとは、記載されていない…秘密の場所だ。

オジサンは、潮が満ちるのを気にして、何だかイライラしている。

「さぁ、そのくらいにして…そろそろ帰ろう」

子供たちをうながすけれど、そんなに簡単に引き下がるジュンペイ

ではない。

「だって、コイツ…目が光っていないか?」

言い出したら、テコでも動かない、そんな性格だ。

 すこし広い空間に並ぶ像を、見上げている。

ズラリと並ぶ像の1つ。

その1つの目が、光っているというのだ…

「えぇ~、そうかなぁ」

裕太も気になり、ジュンペイの指し示す方を眺める。

「それにしても、すごいなぁ」


 仏像が何体もあるのは、テレビとかで見たことはあるけれど…

実際に目にすると、何だか迫力がある。

一体、何体あるのかは わからないけれど…

暗闇に浮かびあがると、後ろ暗いことはないとはいえ、

何だか不気味で、怖いのだ。

するとジュンペイが再び

「あれ?何か…動いた?」

つぶやくように言うと、そっとその像に近付いた。

(やめてくれよぉ~ホラーは勘弁してくれよぉ)

裕太は顔を、引きつらせた。


「おい、何をやってるんだ?」

 その時、オジサンの鋭い声が響く。

ジュンペイは振り向きざま、身体がグラリ…と揺れて、

ついその像につかまった。

「おい!何しているんだ!」

あわてたように、オジサンが叫ぶ。

「えっ?」

そのあまりの剣幕に、裕太とジュンペイもたじろぐ。


 するとどこからか、ドドドド…

音が迫ってきた。

「なに?」

ジュンペイが後ろから飛びのいたけれども、さすがに遅かった

ようだ。

同じく音を耳にしたオジサンも、側で静かに見守っていた老人も、

「これは、マズイ」とつぶやくと

「流されるぞ!気をつけろ!」と叫んだ。

 流される?

 なにが?

キョトンとしている子供たちだ。

洞窟の天井部分から、水がしみ出してきた。

「ここにいたら、危ない!逃げるんだ!」

オジサンが裕太に叫ぶ。


 今まで静かだった洞窟内に、先ほどとは全く違う大きな音が

すぐ側で響いていた。

「まずいな、来るぞ!」

「柱にしがみつけ!」

誰かの声がした。

その声までも、呑み込まれ…

濁流が、すぐ側にまで来ていた。


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