未来話

凪花侑太郎

未来からの話

第1話 未来からの話

これは遠い遠い未来のはなし。まだまだ、インターネットで世界中とつながっていたり住人の投票によって大統領を決めたりしている時代にいるあなたたちから見ると果てしなく遠い未来に感じるだろう。もちろん、この時代もそれらは存在していた。そう。過去形なのだ。ちょっとした大きな出来事があり、それが成り立たなくなってしまったのだ。ちょっとした大きなとは矛盾しているように感じるかもしれないが、我々の言語の場合ちょっとはだいぶと使われることがあるから気を付けてほうがいい。これから話す内容はきっと駆け出しの作家が自分のアイデアの引き出しのなさに嘆き、苦し紛れに妄想に富んだ陳腐な物語を絞り出したと感じるかもしれないがそれは仕方のない事だ。あなたが生きている間には決して見ることのない話だから、むしろ、物語だと思って受け入れてもらう方がこの話をすんなり理解できるかもしれない。正直に言えば理解して貰いたい訳では無い。理解だけで止まってもらっては困るからだ。もっと言うと理解しなくても行動に移して欲しい。物語だと思って聞いてもらってもいいが、これは寓話というよりかは警告文に近いと思った方がいい。従って、この文章を受け取った方は速やかに周囲の人に伝えて行動にうつしてほしい。では、これからお話させてもらう。未来からのメッセージを。







 




ある時に三五光年先という地球的には果てしない距離、しかし宇宙全体から見ると他人のWi‐Fiが自動的に接続できちゃうくらいの短い距離からの信号をキャッチすることに成功した。何世紀か前の地球では一時期、他の生命体の存在を確認しようとして闇雲に自分たちの存在を発信していた。人類皆胸をときめかせ、時には国力を示すかのように競い合っていた。しかし、仮に他の知的生命体がそれをキャッチしたら、しかもはるかに人類より文明が発達している生命体に見つかってしまって侵略でもされたら・・・と寝た子を起こすなとか触らぬ神に祟りなしとか仏の顔も三度までとか、とにかくそんなような展開で急に怯えたのか賢明になったのか方針転換をした。そして、しばらくは太陽系の外にメッセージを送るのをやめていた。それから何世代も何世代も時代を経て歴史の教科書に登場するくらい人類には遠い出来事になっていた。武田信玄が誰かに塩を送ったとかナポレオンがどこかに兵隊を送ったとか地球人が宇宙にメッセージを送ったとか歴史の一部の出来事になっていた。だから、今回の三五光年先からメッセージを受け取ったと発表されたときに人類は全くリアクションが出来なかった。中には宇宙開発局も冗談を言うんだなと感心した人もいたという。しかし、メッセージの解析がすすみメッセージの発信元が自分たちの惑星のエネルギー資源だけでなく他の惑星に移住してそこからエネルギー資源を採取しているくらい文明が発達しているとわかると人類は途端に騒ぎ出した。それは何十年か前に人類が他の惑星への移住を地球規模で計画していくと愛想笑いが上手なあの大統領が宣言したきり何も進展していなかったからだ。つまりは人類よりもより高度な知的生命体に見つかってしまったんだと恐怖におののいた。昔のまだ科学が駆け出しだった頃の地球人は何をやってくれたんだとやり場のない恐怖と怒りはメッセージを太陽系外に送った古代のロマンチストにぶつけられた。塩を送る程度の武田信玄が本当に可愛く見えた。そして、侵略から抵抗するために地球に住民は歴史上類を見ないくらいの団結で防衛力をあげていった。

 


それから三年後に恐れていたことが起こってしまったのだ。本当に他の生命体が地球にやってきたのだ。彼らは見た目も言語も全く違った。地球側の代表ははるばる銀河のかなたからやってきた知的生命体に対して友好的に接するべきと決断した。あの愛想笑いの得意な大統領が率先して相手の手と思われる場所に向かって手を差し出した。その瞬間

「$▲☆♨🐈🚙※」

と叫んだかと思うと突然頭の中に言葉が響いた。

「これから発するメッセージは君たちの言語に自動的に翻訳している。直接頭の中に話しかけているので耳をふさいでも意味がない。私たちは何百年も宇宙空間に点在するエネルギー資源を探している。地球の存在は数年前から確認していた。そしてどの程度の文明なのか友好関係を築くべき相手なのかそれとも我々よりも下等なのか、そしてなにより獲得すべきエネルギー資源があるのか分析していた。そしてその結果、我々はあなた下等生物とみなし、よってこの惑星の資源を私たちのために使うことにした。われわれは恐怖の大王となるだろう。」

最後のいまいち決まらないセリフはおそらく誤訳だろうが、あの愛想笑いの得意な大統領は例に漏れず愛想笑いを浮かべ

「それってノストラダムスの?」

と上ずった声を上げたという。





そしてこの話の主人公である青年は彼らの侵略から十年後に誕生した。人類が三年かけて作り上げた防衛能力は彼らの前では無力だった。人類の最大の武器は核兵器だった。何百年と続いた核抑止力は地球全体にそれなりに平和をもたらしたが、武器の進化を停滞させるという部分ももたらした。そして侵略者は人類から資源を奪うだけでなく多くの命を奪っていった。









主人公誕生までのはなし







主人公の父親と母親はいわゆる「平凡な夫婦」であった。父親の秀雄は会社勤めでお酒は付き合い程度、たばこやギャンブルとは無縁であった。母の和代は常に秀雄をたてている控えめな性格であった。それに対して秀雄はとくに偉ぶる様子もなく実にお似合いの二人であった。二人はなかなか子供に恵まれなかった。お互い定年間近になり、二人っきりの生活がもはや当たり前の中、二人の趣味などで時間を費やし、とても充実した生活を送っていた。

そのような日々を送っている最中に、今回の侵略騒動だ。秀雄たちは偶然に偶然が重なり運よく生きながらえたが、人類が隔離されている地域に秀雄たちは住まわされていた。多くの人類がいなくなった今、オーストラリア大陸を一回り二回りほど小さくした程度の土地に人口約五百万人が住んでいた。かれらは自給自足で貧しい生活を強いられていたが何とか生きていた。



人類に希望などなかった。今の居住区は侵略者たちによって築かれた大きな塀の中にいる。まるで刑務所みたいだ。ただ、高さが上に一キロも伸びている。それに大きくぐるっと囲まれている。人類は数年前にビルで九百メートルという建築物を築いた。当時は大騒ぎしていずれは一キロも夢ではないと誰もが空を見上げた。しかし、彼らはその見上げた空から大手を振って地球にやって来て、数か月という短期間で人類の最高記録を軽々超えるモノを建て、圧倒的な力の差を見せつけた。


侵略者と人類が直接かかわる機会は全くなかった。秀雄たちが住んでいる場所こそ制限されているものの、彼らの生活は常に恐怖と戦っているというものではなかった。自分たちで作った作物を美味しく食べて、交換したり分け与えたりしていた。老い先短い秀雄たちは農業などの重労働はかなりきつかったが、おかげで生活にハリが出来ているのも事実だった。近所の美喜子ちゃんが、あ、彼女は今住んでいる居住区の近所の十七歳の女の子でとても気の利く女の子なのだが、その彼女が顔を合わせるたびに身体の心配をしてくれる。その度に秀雄は、重労働は自分の性に合ってるってこの歳になってわかったよ、と嬉しそうに応えると美喜子ちゃんはにっこり笑って去っていく。秀雄はその純粋な笑顔にいつも力をもらっていた。自分も娘がいたらあんな風に育つのかなとか、あの事件がなければ今頃は受験だとかバレンタインだとか青春を謳歌していたに違いないとかそんなことを巡らしてしまう。そして重労働と言葉にする度にあのハリウッドスターの顔を思い浮かべてしまうのであった。オーランドブルームじゃなくって、、、とにかく秀雄はその時代の映画が好きであった。

このように日々の暮らしはそれなりに充実していたし楽しかった。しかし、侵略者の存在を忘れかけたころに彼らは姿を現すのであった。それは動物園のハイエナとかライオンとかもちろんハシビロコウでもいいんだけど、それを見物するかのように上空から大きな飛行船で監視のためにグルグル回っていた。飛行船の存在が人類はやはり生かされている存在なんだと確認する指標みたいなものになっていた。



ある日、秀雄がいつものように農業にいそしんでいると和代が怪訝な顔をしながら歩いてきた。そういえば名前の思い出せないハリウッドスターの話をしようと和代と向き合った時に彼女の手の中に何かがあることに気付いた。それは二匹のカツオであった。小ぶりではあるものの身が締まってそうで美味しそうだ。

「それはどうしたんだい?」

「さっき道を歩いていたら川瀬さんと会ったのよ。そしたらこれをくれたの。」

川瀬さんとは美喜子ちゃんの事である。和代はどんなに親しくなっても下の名前で呼ぶことは決してなかった。秀雄と交際しているときでも下の名前で呼ぶことはなく結婚後もしばらくは名字で呼んでいた。さすがに秀雄がその呼び方は君もおなじ名前だから変じゃないかと指摘すると

「変かどうかはわからないけど、違和感は好きよ。」

とにっこり笑った。秀雄は納得したわけではないしかなり的外れな反応に嫌気がしたわけではないのだが、それ以上指摘することはしなかった。おそらく彼女なりになにか信念やルールがあってそれに従っているのだろうと思ったからだ。しかし、何年かすると「あなた」に変わってしまった。

「丸ごとの魚なんて久しぶりに見る。なんで美喜子ちゃんはそんなものをくれたんだろう。」

「さあ、わかりませんよ。川瀬さんがこんなカツオ持ってくるなんて。はじめはもったいなくて断ったんですが、新鮮だからぜひって。川瀬さんからこんなピーッチピチなカツオを。今晩捌きますね。」

そうか。なにはともあれ魚を食べるのはとても久しぶりだった秀雄は内心とても興奮していた。玉ねぎが残っていたからあれをサラダにしてカツオのたたきを作ろうと頭の中で勝手にメニューを決めていた。



 その日の晩、程よい飲酒と豪華な夕食を終え上機嫌で寝床に着いた。ぐっすり秀雄は寝ていると急に体の奥の方から熱を感じた。針で刺されたような熱さを感じると次第に呼吸が苦しくなってきた。地面が大きく揺れていると思ったが、どうやらそれは自分の鼓動らしい。声を出そうにもまったく呼吸ができない。横の和代を見るとひどく汗をかいて呻っていた。このままでは死んでしまうと感じた秀雄はなんとか布団から出ようと試みた。しかし、全く自分の体がいうことを聞かない。

和代!

と叫んだつもりだったが和代は反応せずに秀雄は意識をなくした。

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