第4話「殺戮の始まり」
なぜこんな理不尽なことに巻き込まれてしまったのか。
「私が一体何をしたっていうのよ……何も悪いことなんてしてないのに……」
「犯人、絶対に許さない……」
美琴は憎しみを積もらせながら、荒れた道をズカズカと進む。美琴はクラスメイトとあまり良好な関係を築けていない。馴れ合いを好まず、常に孤立していた。だからこそ犯人に対する憎しみは誰よりも強かった。
「どうすれば助かる……どうすれば犯人を見つけられる……」
一刻も早くこのゲームを終わらせ、命の危機から脱したかった。そのためにはクラスメイトに紛れている犯人を見つけ出すしかない。美琴は憎しみを駆り立てながら手段を探った。
「……そうだ、殺せばいいんだ」
美琴は剣崎の言葉を思い出した。彼は犯人を殺してもいいと言っていた。犯人が死ねば、その時点でゲームは終わる。犯人が誰かはまだわからない。しかし、クラスメイトの中に紛れ込んでいるのは確かなのだ。
「だったら片っ端からみんなを殺せばいい。一人ずつ殺して、犯人を探せばいいんだ……」
美琴はクラスメイトを一人ずつ手にかけ、犯人に当たるまで殺していく計画を企てた。もはや彼らには普段から何の義理もない。殺してしまっても心が痛むはずがない。美琴はただ自分が助かりたい一心で、強行手段に出ることにした。
「榊……」
「正木、国雄、来てくれたか」
榊はよくつるむクラスメイトの
しかし、ここは暗い森の中。あまり目立たない場所でなければいけなかった。
というのも……
「榊、こんなことになったのって……」
「あぁ、俺達が原因だろう」
榊達には決定的な心当たりがあった。それもそのはず、江波をいじめていたのは榊達だったのだ。榊、正木、国雄の三人は、過去にグループになって江波の私物を隠したり、暴行を加えたり、陰口を吐いたりしていた。
「まさか剣崎のやつがここまでするなんてな」
「見つかった犯人はどうなるんだ? 殺されるのか?」
「わからない……ただ、その可能性は極めて高いだろうな。とにかく、この件をクラスのアイツらに知られるわけにはいかない。もちろん死ぬのはごめんだ。何がなんでも隠し通さなければいけない」
榊達は責任を感じるものの、自分達が犯人であることが発覚した後の処罰を恐れ、頭を悩ませた。ひとまず江波へのいじめに関与していた件は、このまま伏せておくことにした。
「はぁ……はぁ……寒い……」
日の当たらない暗い森をさ迷い、体の震えを抑えながら進んでいた
「遥、遥!」
「え?」
横から小声で誰かが自分の名前を呼んでいた。遥は声のする方へ振り向くと、木の影から美琴が顔を出していた。
「こっちこっち」
「美琴……」
「こっちにいい隠れ場所があるわよ」
美琴は不敵な笑みを浮かべながら遥を手招きする。しかし、暗い森で顔の表情がしっかりと確認できなかった。彼女の笑みは暗くて見えなかったが、遥はひとまず美琴に付いていく。
「ここよ」
「結構古い建物だね」
美琴が案内した先には、古い物置小屋のような建物が立っていた。美琴は入り口の扉を開ける。
「中に武器も見つけたのよ」
「武器?」
「うん。ほら、きっとみんな自分が助かりたい一心で攻撃してくるかもしれないじゃない? 護身用くらいには持っておきましょうよ」
「そんな心配いらないと思うけど……」
バタン
美琴は遥を中に入れ、扉を閉める。ただでさえ狭い小屋の中は影に包まれ、光一つ差し込まない真っ暗な空間と化した。
「うわっ! 暗っ!」
「ちなみにね、遥……」
グサッ
「……え」
「これが私の武器」
遥は一瞬何が起きたかわからなかった。ただ腹部に何か刺さったような感触がして、自分の腹を撫でた。
「あ……う……ぁ……」
「……」
グシャッ
美琴が更にそれを遥の腹へと刺し込む。遥は生温かい液体に触れたように感じる。その温度の直後、今までに感じたことのない激痛が、腹部に落ちてくるように襲ってきた。しかし、叫び声をあげるような余裕は彼女にはなかった。
「みこ……と……な……んで……」
その激しい痛みもすぐに収まり、意識が
「ハハッ、簡単に騙されすぎ。ほんと馬鹿みたい。まぁ、どうせ元々糞みたいな人生歩むんだし、死んだ方がマシでしょ」
ガラッ
再び扉を開ける美琴。かすかに届く光が遥の死体を照らす。同時に美琴の持っている包丁も、遥の血を
「さて、これでどうかしら?」
《15番 杉山遥 死亡、残り23人》
その様子を美琴のスマフォに取り付けておいた盗聴機で確認した剣崎は、生徒達にメールを送る。
「おぉ、辻村の奴、早速やってくれたなぁ。こうでなくっちゃ」
* * * * * * *
どうすれば犯人を見つけられるんだろう。こんな離れ小島では犯人に繋がる証拠を探すこともできない。先生がちらっと言っていたように、犯人が自己申告してくるのを待つしかないのか。
いや、それも叶いそうにないだろう。犯人はきっとどんな仕打ちを受けるか怖くなり、萎縮してしまっているから。
「……」
そもそも、あんなに優しいクラスメイトのみんなの中に、本当に犯人はいるのだろうか。私達は途方に暮れた。ゲームを脱出する術を探さなければいけないのだけど、いい案が思い浮かばない。
ピロンッ
すると、スカートのポケットにしまってあったスマフォが鳴った。メールが届いたようだった。
「何?」
私はスマフォを手に取り、メールの内容を確認する。
『15番 杉山遥 死亡。残り23名。残念ながら初の死人が出ちまったみたいだな。残りの奴らも気を付けろよ。
「嘘だろ……」
仁君が悲壮な声をあげる。結希も先程の余裕が一瞬にして蒸発し、体の震えが始まっている。私もメールの内容が信じられなかった。遥ちゃんが……死んでしまった。
しかも内容から察するに、クラスメイトの誰かに殺されたのだ。犯人の仕業だろうか。どちらにせよ、私はどうしようもない
「なんで……どうして……」
起きてはいけないことが起きてしまった。遂に起きてしまった仲間の死を前にして、私達はようやく今置かれている状況の深刻さを身を持って理解した。
私は時刻を確認した。午前11時02分、正午に決まるという一日一人の犠牲者とはまた違うようだった。
「うぅぅ……」
私は遥ちゃんを思って涙を流した。話したことは数えるくらいしかなかったけど、クラスの中でもかなりの頑張りやさんという印象だった。
何事にも一生懸命で……誰に対しても優しくて……そんな彼女の輝かしい未来が、何者かによって一瞬に葬り去られてしまった。
しかし、私達はまだ知らなかった。この悲劇が、この後続く絶望的な地獄の始まりの一端に過ぎなかったことに。
* * *
生存者 残り23人
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