第9話 初めてとけじめ



 俺はいろはと待ち合わせした公園に来ていた。


 前にいろはと会ったという公園のベンチに座っていろはを待っていた。


 待っている間、俺はなんだかそわそわして落ちつかなかった。


 (何だこれ。緊張してるのか?)


 ガラにもなく心臓がドキドキしている。


 早くいろはに会いたい反面、急に呼び出したりして変に思われていないか、迷惑じゃなかったかなんていろいろなことを考えている自分に気付いた。


 こんなことを思う日がくるなんて信じられなかった。


 俺は今まで本当に本当のクズだったんだ。


 人の気持ちを何ひとつ考えていなかった。


 今まで俺なんかのことを好きだと言ってくれた人たちに謝りたかった。


「翔真さんっ」


 パタパタと足音を響かせていろはが走って来た。


「いろは」


 俺は立ち上がって駆けつけたいろはと向き合った。


 よかった。


 俺を見上げているいろはは嬉しそうにしっぽを振っている。


「すみません、お待たせしてしまって」


 息を切らしながらいろはが言った。


「翔真さんが誘ってくれたの初めてだったので嬉しくて、急いで来たんですけ……」


 俺はたまらなくなってまだ話しているいろはを抱きしめた。


「わっ」


 いろはの華奢な体、いろはの匂い、いろはの柔らかな髪、いろはのすべてが可愛いと思っていた。


 俺はいろはの耳もとでささやいた。


「いろは、俺、お前のことが好きだ」


「……えっ……えっ?」


 俺は体を離していろはの顔を見た。


 いろはは赤くなりながら驚いて変な顔になっていた。


「あはは、なんだよお前、その顔は」


 あまりの可愛いさに思わず笑ってしまった。


「だ、だ、だっていきなり翔真さんが好きとか言うからビックリして」


「俺もさっき気付いたんだ。この気持ちはいろはのことが好きなんだなって」


「ど、どういう気持ちなんですか?」


「んー。いろはに会いたかった。顔が見たかった。そのすぐに赤くなる顔と、俺に会って嬉しそうにしている姿を見たかった。ずっとお前のことを考えてたよ」


「ほ、本当ですか?」


「ああ。それと、お前が他のヤツに触られてるのが嫌だった。肩を抱かれてお前が楽しそうに話しているのを見かけてイライラした。もう俺以外のヤツに触らせんな」


 そう言ってから、俺は急に自分の言った言葉が恥ずかしくなって顔をそらしてしまった。


「翔真さん……もしかして照れてるんですか?」


 いろはが嬉しそうに俺の顔を覗き込む。


「うっせえ」


「あは、わかりました。誰にも触られないように気をつけます。そのかわり、翔真さんがいっぱい触って下さいね」


 今度はいろはが俺に抱きついてきた。


 俺はギュッといろはを抱きしめて言った。


「いろは、俺と付き合ってほしい」


 俺の胸の中でいろはは顔を上げて俺を見た。


「オレ、男ですよ?」


「わかってるよ。ってか今さら? 俺も男だし」


「えへっ。確認です」


 いろはがニコっと笑う。


「いろは、返事は?」


「はい! もちろんです」


 俺たちは照れながら笑い合った。






 家に帰ると幸治が俺の帰りを待っていてくれた。


「すぐ帰るつもりだったんだけどさ、翔真が告白するなんて初めてだろ? なんか心配になってきちまってさ」


「はは、ありがとな幸治」


 本当にこいつはいつも俺のことを考えてくれている。


「どうだった? ちゃんと伝えられたか?」


「うん。ちゃんと言えた。んで付き合うことになった」


「そっかあ。よかったな翔真。おめでとう」


 幸治はホッとしているようだった。


「半分はお前のおかげだよ」


「半分か? もっとじゃねえか? なあ」


「じゃあもっとだ」


「じゃあってなんだよ、じゃあって」


「ははは……」


「はは……。いやいや、とにかく安心した。本当によかった」


「なあ幸治。お願いがあるんだけど」


「おう、なんだ?」


「明日の放課後、泉美先輩を屋上に連れてきてくれないか?」


「ああ、別にいいけど」


「もっとちゃんと話したいんだ、先輩とは」


「わかった。お安いご用だよ」


「ありがとう」




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