おとぎ話パロディーズ

賽子ちい華

パロディ短編集

もし醜いアヒルの子がドラゴンだったら


 かーちゃんはアヒルだった。


 まわりには8匹のヒヨコがいた。


 どうやらオレは、アヒルの9兄弟の末っ子として生まれたらしい……



 ――生まれてから、しばらくが過ぎた。


 8匹の兄弟たちも言葉を話せるくらいに育って、なんだかピーチクパーチクと、俺に言ってくる。



「おまえほんと、みにくいな!」


「おまえほんと、きたないな!」


「アヒルじゃねーんじゃねーのか!」



 あ~あれか、イジメか?


 俺の姿がみにくいと言っているのか?


「醜いアヒルの子」的なやつか?




 ――それから、しばらくが過ぎた。


 俺はだいぶ、背が伸びたようだ。


 兄弟たちをちょっと見下ろす感じになっている。



「おまえほんと、みにくいな!」


「おまえほんとわきたないな!」


「アヒルじゃねーんじゃねーのか!」



 デカくなってもあいかわらず、兄弟たちは俺をいじめてくる。


 どうやら俺は本当に醜いアヒルの子らしく、たぶんアヒルじゃないらしい。


 ――白鳥か?


 白鳥って、こんなに早くデカくなるんだな。


 そんな風に思っていた……




 ――それから、しばらくが過ぎた。


 俺はさらに、デカくなった。



「おまえほんと、みにくいな!」


「おまえほんと、きたないな!」


「アヒルじゃねーんじゃねーのか!」



 相変わらず兄弟たちはいじめてくるが、たしかに俺も、おかしいんじゃないかと思い始めている。


 前は、兄弟たちをちょっと見下ろす感じだったのに、今ではすでにかーちゃんすらも見下ろして、なんかもう……みんなオレの足のツメよりも小さく見える。


 それに、見えてる自分の足もなんかへんだ。


 みずかきじゃなくて、するどいツメのついた足。


 羽毛じゃなくて、ウロコのついた体。


 さすがに俺もおかしいと思って、湖の水面に映る自分の姿を見てみた。




 俺は、「……え?」っと思った。


 なんか、キバがある。


 ツノもある。


 コウモリみたいなツバサもある。


 こ、これって……ドラゴン!?


 ――衝撃しょうげきだった。


 俺はアヒルでも白鳥でもなく、ドラゴンだったのだ!!


 ごめん、かーちゃん。


 俺、あんたの子じゃない……


 兄弟たち、あんたらが正しいよ。


 俺、アヒルじゃなかったよ……




 ――それから、しばらくが過ぎた。


 相変わらずかーちゃんは優しくて、俺にドジョウとかミミズとかを持ってきてくれる。


 いや、気づこうよ!


 絶対、自分の子じゃないってわかるよね!?


 兄弟たちの反応もぜんぜん変わっていない。


「おまえほんと、みにくいな!」


「おまえほんと、きたないな!」


「アヒルじゃねーんじゃねーのか!」



 えー!?


 すげーな! 兄弟たち!


 俺、あんたたちの大きさの1000倍あるよ!


 怖くないの?


 このデカい相手をいじめてくる勇気!


 感心するわ!



 どうやら……俺がドラゴンであったことは、が家族には、なんの問題もないらしい。


 ショックを受けたのは、俺だけだったのだ。




 ――それから、しばらくが過ぎた。


 兄弟たちはまだヒヨコだったが、泳げるようになったらしい。


 ドジョウやミミズ捕まえては、もぐもぐと食べていた。


 俺はアリゲーターガーやピラルク、ダイオウイカやギガントマウンテンフィッシュなど、そういうデカいのを捕まえて食べていた。


 ――平和だった。




 そんなある日、事件は起きた!


 近くの火山が噴火ふんかし、そこから8本の首のあるヘビ、「ヤマタノオロチ」が出現したのだ!


 俺より……デカい!


 メチャメチャ強そう!


 こっち来んな!


 勇者とかヘラクレスとか、スサノオとかに退治たいじされてくれ!


 そう、俺は願った。


 だけど、ヤマタノオロチはこっちを見た。


 俺がデカくて目立ったせいだ。



 ごめん、かーちゃん……


 ごめん、兄弟たち……


 かーちゃんは怖がって、ふるえて固まってしまっている。


 イジメてきた兄弟たちはともかく、かーちゃんには苦労かけてばっかりだ。


 ここは、俺がなんとかせねば!!


 俺は自分たちが住む湖からヤマタノオロチを遠ざけるため、そこから離れることにした。


 俺がツバサを広げ飛び立てば、一瞬で湖を飛び越える!


 俺がこの2本の足で着地をすれば、地面がれて音がする!


 しかも、今まで気づかなかったが、口から火をふくこともできたのだ!


 ――いける!


 これなら勝てる!


 そう思って、俺はヤマタノオロチを倒しにいったのだ!




 結果は……負けた。


 ボコボコにされた。


 ヤマタノオロチは見た目の通り、強かった。


 意識を失いかけた俺の目に映るのは、俺に興味をなくし、かーちゃんたちのいる湖の方へと向かうヤマタノオロチの姿。


 ――待て! そっちに行くな!


 俺は……俺はまだ……




 死ぬ前には、まぼろしを見るという。


 俺は死の間際まぎわ、8匹のヒヨコの幻を見ていた。


「いけー! 」


「末っ子を守れー!」


「ヘビを倒せー!」


「やっつけろー! 」


「ぴっ、ぴかちゅー!」


「やれー!」


「いくぞー!」


「ぁちょーーおお!」


 兄弟たちヒヨコが、ヤマタノオロチに向かって走っている!


 ちょっ、待てよ!


 無理だろ!


 絶対勝てないって!


 おかしいだろ! その勇気!


 そんな、俺の叫びは届かない……


 兄弟たちはペロリと、ヤマタノオロチの8本の首に食べられた。


 ……かに見えた。


「今だー!」


「逃げるぞー!」


「ついて来いー!」


「逃げろー! 」


「ぴっ、ぴかちゅー!」


「やれー!」


「いくぞー!」


「ぁちょーーおお!」


 食べられる寸前に、兄弟たちは方向転換!


 8匹が8方向に走り出す!


 ヤマタノオロチは追いかける!


 だけど、みんな別々の方向に行くから、8本の首が引っ張り合って、動けなくなっていた。




 こ、これは……チャンス?


 俺の体、動いてくれー!


 俺は動けなくなっていた体をなんとか動かし、全力で飛んだ!


 空高く飛び上がり、回転しながら落下した!


 さらに炎をはきまくり、その炎で体をつつみながらヤマタノオロチにキックをしたのだ!



「ローリングファイヤーアターック!」



 キックはヤマタノオロチの首のつけ根に直撃。


 そこがやつの弱点だったらしく、ヤマタノオロチは8本の首にわかれて死んだのだ。




 俺は……俺たちは、勝ったのだ!


「やったぞ!」


「よっしゃ!」


「勝利だー!」


「兄弟の勝利だー!」


「ぴっ、ぴかちゅー!」


「倒した!」


「倒したぞー!」


「お前はもう、死んでいる……」


 それは、俺と兄弟たちによる勝利だった。




 ――それから、しばらくが過ぎた。

 

 相変わらずかーちゃんは優しくて、オレにドジョウとかミミズとかを持ってきてくれる。



「おまえほんと、みにくいな!」


「おまえほんと、きたないな!」


「アヒルじゃねーんじゃねーのか!」



 兄弟たちも相変わらず、そんな風にイジメてくる。


 ――俺は思った。


(はいはい……にーちゃんたちには勝てねーよ。)

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