前編 この世界について軽く説明しようか






「フフッ、フハハッ、ハァーーハッハッハッハハハ!!」



「このっ、調子に、乗って!」




 前話の最後で公約しちまってたので改めてこの世界についてオレの独断と偏見混じり捏ねりだが、できるだけ詳しく説明するとしようかね。

 まあ、最初のとこは創世王作者にやらされた作品紹介文のほとんど焼き増しになるが。




「スターライト!!」

Blazerブレイザー


「ふぬっ!?」




 まず、この世界には悪魔と魔物と怪人に超能力や魔法などを使いこなす超人どもが自然発生し、さらにそれらに対抗できる改造人間人造怪人を始めとした生物兵器やらを生み出して裏社会の世界制覇を目論んだりしているいくつかの悪の秘密カルト結社。

 そしてそれらによってもたらされる大規模被害、通称『超常災害』に対応するため創設された対超常災害の政府国防庁直属機関に非政府民間組織も存在している。




「チッ、身の程シらずのザコが……

 その身にキザめ、我がヒッサツ! 暗黒邪龍天征衝ダークネスドラゴニックマグナム!!」



「っ!? プロテクションウォールッ!!」




 だから長くても週1~2回、短けれりゃ二日三日置きに何かしらの事件や戦いが大小の規模問わず、あっちこっちで起きている。


 極普通のモブ of the モブな一般人がほんの火遊び気分で半歩だけ道を逸れたりしようものならあっという間に日常と懸け離れた現実? 憲法法律? 物理法則? 何ソレ美味しいの? 食べて良い? なんて非常識極まる非現実SFバイオレンスアクション映画じみた世界へ簡単に巻き込まれ、一切抗うこともできずにあっさり命を落とし、道を逸れずとも運がなけりゃ命を落とす。そんな非日常モブ厳が当たり前で日常の常識となっている常識の狂った理不尽不条理な世界がこの世界ココなわけだ。




「くぅぅッ」



「 フハハハハッ! そんなマモリなゾ貧弱脆弱虚弱無駄無意味ぃイっ!!

 さあ、オノが無力をカミ締めゼツボウの闇にシズムがいイ! 暗黒邪龍幻朧覇ダークネスドラゴニックファントム!!」




 ちなみに、研究機関は非政府民間組織より政府直属機関の方がマジ ヤベーイ!! な環境だ。

 理由ぶっちゃければ単純明快。情報隠蔽と情報操作のしやすさってぇところかね、国家権力的に考えて。

 後は絶対ぜってぇに表に出来ない研究内容だろうとも『正義』と『政府公認』、ついでに『平和のために必要な貴い犠牲』っていう大義名分看板で関わってる人間の非人道行為や禁忌をあれやこれ犯すことへの忌避感や理性やの諸々への枷が緩んで、その中心に頭のおかしい主任研究員とかクソMADが居たりすりゃぁその影響で理性の薄れたのが常態化して全体へ波及。どれだけ非人道的だろうが世間さまにばれなきゃ良い、もしくは誤魔化しが利けば良い。どれだけ畜生鬼畜の所業の末に生まれたモノだろうと結果的にそれで世間さまの私財資産と一定の人命を守ることが出来ていれば組織的に問題ないと、上から下まで腐敗も汚職もデカ盛り一杯になるわけだ。

 それらを運用する実働班のトップが真面まともな人間だったらストレスがマッハで超! デッドヒート!! てなもんだろう。




「 耐えタ、だト……」



「はぁはぁ……くっ」




 対して非政府、民間組織の研究所は上に立って組織を率いる人間次第ってぇところか。

 人道をおもんぱかる科学者としての理性を持つ人間が所長や主任研究員、あるいはそれを理解した善性の下で清濁併せ呑める政治手腕を持った創設者であれば裏表があろうとまっとうな研究所として成り立つ。


 逆説的に言っちまえば上がダメなら……てぇところだな。世間様の目を誤魔化す力は弱いから政府直属のとこよかは多少マシだが。




「今度、は……こっちの、番ッ!」

Galaxianギャラクシアン

「スタァーダストォおおッ!!」



「ッ!?」




『ん? いやに詳しいなって?

 見て来たからな、実際に』


 なんせ基本オレの身体は『見える目を持ってる霊感の強い奴』でも姿を視認しづらい『霊体』だ。意識して見えなくすれば隠せばオカルト系こっち寄りの能力者だろうと知覚も感知も完全に出来なくなる。

 なもんで壁は素通りだ。防犯だろうが防諜だろうがその手の設備仕掛けは一切合切無意味。調べようと思えば軍事機密だろうと何だろうと調べ放題なわけさ。


 まあ、代わりに日の昇っている昼間は物理干渉ができない。出来るのは地面に立つくらいのことだけ。だもんだから戸締まり用心ガン無視して他人さまの家に上がり込めるものの、物に触れられず動かせないない上、床の上には立てずに基礎下部構造のとこまで素通りで床から上半身が生えてるみたいになるは、地下室や地下階層のある建物なら基礎のところまで落とし穴に落ちるみたいにスットーンと落ちる有り様。日陰や暗がりならもう少しマシになるんだがね。


 一応は少しばかり気合い入れればなんとかすり抜けずに床に立てるし、摺り足気味にゆっくりとなら歩くくらいはできる。ただ足を床から大きく離す動作がまずいのか階段とか大きな段差を上り下り出来ん。

 だから昼間の屋内ではフヨヨヨ~っと浮遊しての移動が基本で、大体は床に沿って浮いている。




「こ、の、テイドぉおおオッ!」



「はぁぁぁあああっ!!」




 そんなオレが苦労せずに物理干渉が出来るようになるのは日の落ちた夜。特に草木も眠る丑三つ時、午前2時ごろがもっとも強い力で物事へ干渉できる。それこそ前話みたいに物理干渉どころか霊体身体を自由に実体化させたり、一定空間へ異界を作り出せるくらいにな。


 とにかく昼間は物理的なことは気合い入れて気張ってればギリギリ何か出来る程度の力しかない。

 一応、昼間でも霊的なことは出来るには出来る。

 出せる効力が弱くて疲れるから戦うとか出来んけどな。


 まあ、だからこうして今目の前で繰り広げられている傍迷惑な騒動をお気に入りの森林公園だった見る影もない焼け野原場所世界観説明現実逃避しながら傍観してんのよ。


『悲しいけどコレ現実なのよね』


 倒れた木々や草花が燃えて煙る焼け野原で一人佇み、魔法少女と怪人の激闘によって撒き散らされ広がる周囲への被害に遠い目になりながらぼやく。


 近くに繁華街があるのが嘘みたいに閑静で穏やかなこの広い森林公園はオレのお気に入りスポットの一つだったんだが、昼を過ぎた辺りで繁華街の方から空爆じみた轟音と狼煙のごとく火の手が上がり、悲鳴と怒号と共に慌て逃げ惑う人々が警官たちに避難誘導され、押し合いへし合いながら公園になだれ込むように駆け抜けて行った。


 そうして現れたのが現在空飛んで戦っているあの二人。


 片や自然発生した怪人 ―― 強すぎる負の感情に極端な物事への固執や執着によって身も心も怪物へ変質した元人間、あるいは肉体を持っていない低級や中級悪魔が何らかの生物に融合して生まれた人型の怪物クリーチャー ―― とそれにメカニカルサイバーチックな魔法の杖を手に相対する魔法使いの少女。



 怪人の方は見た感じ細マッチョで成人した大人のような背格好だが、恐らく中二病男子あたりがドン底まで深くこじらせて変質、怪人化したのだろう。

 露出度の高い鎧のような黒い甲殻に身を包み、目は黒く瞳は金色。肌はところどころにひび割れのように赤い模様が走った紺色で悪魔っぽい角に翼を生やし、四肢は籠手や具足のように他より分厚く大きい甲殻と堅そうな毛に覆われ、指先に鋭く大きい爪を生やしている。見るからに「ぼくのかんがえたさいきょうのまおう」ってな出で立ちだ。

 だからか攻撃も一々「ぼくのかんがえたさいきょうのひっさつわざ」という感じでやたら仰々しく派手なエフェクトや身振りで、痛々しい技名を叫びながら放っている。

 そんな中二病な見た目と振る舞いに反してあの強さを見るに怪人化後にでも中級悪魔辺りに憑依されたのかね?



 それで魔法少女の方だが、歳は見た目12、3。


 ……童顔低身長の合法ロリでなければ、だが。


 格好は昨今の変身ヒロイン定番のヒラヒラor身体の線丸見えなピッチピチで露出度多めなバトルコスチュームバトコスとは真逆な露出度が少なくヒラヒラもなければピッチピチでもないゆったり目の長袖の短ジャケットと指抜きグローブとロングスカートにハイソックスにサイバーチックなブーツというところどころ装甲らしき装飾のあるバトコスに身を包む防御重視障壁特化の魔法使い鉄壁乙女とでも言う様相、というかぶっちゃけ杖の仕様や見た目も含めて第3期で19歳になってもタイトル上で少女と言い張った某叙情的熱血系魔砲少女アニメめいた格好だ。

 大きな違いがあるとすれば薄ピンクがかった白と黄色をベースに紫の線が所々彩っているバトコスのカラーリングと髪を金色に染め上げ偽装して髪型をポニーテールにしているのと、後はロリな見た目不相応な分厚い胸部装甲巨乳っていう身体的特徴スタイルもあるか?

 そんで戦い方は大火力の砲撃に大量に撃ち出す全弾が必中必殺の高速自動追尾誘導弾。それこそボムによる無敵時間を上手く使わなけりゃ抜けられない安全地帯あんちなしな超鬼畜死に戻り弾幕ゲーじみた面制圧攻撃までぶっ放すと来た。



 ちなみに、撒き散らされている被害は怪人の派手で大雑把な攻撃による流れ弾や余波がほとんど。魔法少女の方は被害を最小限に抑えようと確りと自身の射線を意識している上で本来なら余裕で回避できる攻撃も敢えて大きな魔法障壁シールドバリアを張り防御して受け止めたり受け流しつつ怪人の意識や射線を誘導するなど人的被害を出さないよう上手く立ち回っていた。


『昔っから天才肌だったとは言え、見た目に反して戦い方が老練だこと……あの合法ロリ』


 そう独り言ちて右手を懐へ突っ込み、左脇のホルスターから二丁拳銃として愛用しているマッドブラック塗装でSFじみた造形が施されたM1911 コルト・ガバメント オレMy スペシャルSpカスタムを一丁引き抜き、全弾必中必殺の面制圧弾幕で逃げ場を削られてボドボドのボロ雑巾めいた状態になっても意地かプライドか、防御バリアっぽいので防戦一方になりながら耐え続けてみせている怪人へと銃口を向け、溜め息混じりに「さっさと終われ」と半ば無造作に3点バーストで引き金を引いた。




「ギッッ!!?!?」



「!! これで、決める! 」

Full Chargeフルチャージ

「ギャラクシオンマキシマムブレイカーッ!!」



「ッ!? こ、コ、こンナッ!? コ、コトがぁッッ! ぁ゛ッ?!」




 オレ愛用の銃から撃ち出された弾丸が命中し、怪人が防御も忘れて言葉にならない苦痛の声を上げれば、妨げがなくなった弾幕にあっという間にフルボッコとなり、ダメージで身動きが取れなくなったと見るや、それでも油断慢心も躊躇もなく魔法少女はエネルギー魔力砲口杖の先へ集中しながら怪人へ急接近、エネルギーを高収束した砲撃魔法魔砲至近距離零距離叩きたった込み、汚え花火に変えてしまった。


『高威力弾幕に続けて高火力砲撃魔砲の連続攻撃って、なんか見かけるたびにエネルギー容量が増えてバカ魔力になって行ってねえか、あの合法ロリあいつ


 魔法少女の戦い様に呆れ半分な愚痴をこぼす。実を言うとあの魔法少女とは知人関係なのだが、ホントに見かけるたびに魔力量がバカみてぇに増えていっているのだ。


『あん、そんなことより昼間はギリギリ何か出来る程度の物理干渉しかできないんじゃなかったのかって?

 今のは物理じゃなくて『霊的』な干渉。霊体への直接攻撃って奴。さっきちょいっと言ったろ?

 すごい疲れるけど昼間でも一応霊的なことはやろうとすればやれるって。まぁ、霊とかの相手じゃなけりゃ昼間だとほんの一瞬激痛走らせんのがやっとで討ち倒すだなんだのは出来ねえけど』



「ぅ~~ん………! 居た!」



 あぁ~疲れたと溜め息付きながら呟けば、怪人ブっ倒したんだから面倒ごと回避にさっさっと退散す帰れれば良いものを知人の魔法少女は手を日差しに目を眇めて地上を睨むように見回し出していたと思えば、どうやらオレを探していたらしい。こっちへ飛んできた。



 彼の魔法少女と初めて始めて出会ったのは今から、本当に偶然も偶然。たまたま低級悪魔が野良猫あたりに憑依して怪人が生まれたところにオレと『彼女あいつ』が居合わせ、生まれた怪人によって引き起こされた災害の渦中で彼女が祖父母の形見だという停止状態の変身アイテムお守りを起動、適合して魔法少女となり流されるまま彼女は生き死にのかかった戦いを強いられたらしい。

 オレはといえば運悪く昼間だったからなにもできず、せいぜい危ないところへさっきやったみたいに横槍気味に銃弾たま叩きたたっ込んで怪人に無防備な隙を作ったくらいだ。それも疲れるから致命的にヤバイ瞬間だけの2回のみ。


 本来なら手を出す必要はなかったが、当時の彼女の様子から無所属フリーランスどころかズブのド素人ビギナーな未所属だと察し、相手が低級悪魔憑依の上に生まれたてで弱く、彼女自身の才能もあってギリなんとか戦えてはいたが、あのままじゃぁ最悪死ぬまずいなとつい手を出したのだ。


 なんで初見で彼女が未所属なのか分ったかって?

 簡単な話だ。政府機関所属の魔法使いを始めとした能力者は最低で前衛フロント後衛バックス二人一組ツーマンセルか、遊撃の中衛ミドルを加えた三人一組スリーマンセルでことに当たる。一部の例外や元々所属人数が少ない民間組織の奴だとしても避難誘導を始めとした戦闘補助を受け持つサポートチームや特殊装備で支援を行う機動チームが専用特殊車両現場指揮車に乗って必ず付いている。政府機関であれ民間組織であれ、どちらかに所属していれば完全にたった一人で戦うなんてことはまずありえない。

 だから怪人相手に一対一サシでやり合うのは無所属で腕に自信のあるソロかボッチの奴くらいか、渦中に巻き込まれた力に目覚めて間もない未所属の奴くらいなわけだ。


『まあ、魔法少女になったと同時に『霊能見鬼』にまで目覚めるって、天才つってもさすがに都合良すぎだが。

 ……どうせ創世王作者の御都合主義、か』





…………………



…………



……




 今日は朝から少しばかりついていない。


 久しぶりに遊びに行こうと友人と出かける予定があったのに目覚まし時計が壊れてて寝坊するし、慌てて身支度を終えれば休日の予定を合わせていた友人から急用が入ってしまって一緒に出かけられなくなったと謝罪の連絡が入って予定はキャンセル。仕方なく一人寂しく出かければ、毎度のお約束のように補導員に捕まって免許証を見せて既に成人していることを示すやりとりで下火の気分がさらに下がる。


 そして止めに通りかかった繁華街で怪人出現。

 しかもその強さはランクB自然災害相当の上に繁華街のある場所は区画的に政府民間共に組織所属の能力者らガーディアンズの緊急出動でも現地到着に一時間弱かかる場所。狙って襲撃してきたのなら相当にたちの悪い輩だろう。


 出現時に私が居合わせたのは不幸中に幸いだけれども、私個人からすれば運が良いのか悪いのか分らない。


 それでも被害を抑えるために立ち回るのに苦労しながら戦うけれど、当然怪人はこちらにお構いなし。加えて中二病な上に考えなしに暴れるから被害を抑え切れずに繁華街や近隣の森林公園は滅茶苦茶で、なんとか逃げ惑う人々にだけは被害が届かないようにするのがやっとだった。

 それでも建物の倒壊や火災が起こっている以上は死者行方不明者が少なからず居るだろうと思うと気が重くなるけれど、戦闘中はそういったことは振り払うように意識を切り替えて考えないようにしてる。




『……死にてぇならいざしらず、戦場いくさば最中さなかで何があろうが立ち尽くすな』



『半人前の未熟者が、他人様の身や命を気遣ったって守れも助けも出来やしねぇよ。

 自分てめぇの身も満足に守れやしねぇんだ。余所ごとに気ぃ割いて戦うなんざ、自分てめぇの命も、巻き込まれた他人様の命も、一緒くたに落っことすだけだ』




 駆け出しだった頃、危ないところを助けられるも冷たくに叩き付けられた言葉が脳裏に流れて消える。




『守るだ助けるだ出来もしないことをほざくくらいなら、くだらん正義感なんざほっぽり捨てて、巻き込まれた他人様連れてさっさと尻尾巻いて逃げてろ』



『それでも戦場に身を置くっつぅなら、守れなかった助けられなかったと悔いるのも泣き喚くのも戦いが終わった後にしろ。

 後悔でも絶望でもなんでも、それこそ悲劇のヒロインぶって浸って酔ったって構やしねぇよ。自己責任で好きなだけ好きにやってろ。

 ……それがわからねぇ、できねぇってんなら、さっさとこの戦場から失せろ。そんで、金輪際出てくん戦うな』




 戦っている中で怪人を前にして巻き込まれた人を守れなかった目の前の出来事に呆然とし、泣き出した幼い私に、優しさの欠片もなくただただ惨い命のやり取りの理不尽で不条理な現実を皮肉まじりに説く言葉。

 幼かった当時の私は煽りのような言葉を額面通りに受け取って、反骨精神負けず嫌いと悔しさから強くなって見返してやると息巻いてやんちゃしたりしたけれど、強くなって色々なことを経験して行く内、大人になって言葉の真意に気付いてからは経験してきたことと合わせて戒めの言葉として心に留めている。



 強くなければ自分一人生き残るコトも出来ず、誰も助けられも守れもしないということ。


 心も強くなければ惨たらしい現実運命は変えられないということ。


 救えなかった後悔も、怖い痛い苦しいと泣きわめくのも、戦い全てが終わった後でやればいいということ。



 だから、このふざけた俺様ナルシスト中二病患者な怪人の攻撃を耐えることなんて――


「 耐えタ、だト……」


「はぁはぁ……くっ」


 ――屁でも、ない。


「今度、は……こっちの、番ッ!」

Galaxianギャラクシアン

「スタァーダストォおおッ!!」


「ッ!?」


 ダメージによるふらつきと思わせるようにわざと弱々しくわずかに怪人より高度を下げると、周囲に四つの魔力塊マギスフィアを形成すると同時にカノンフォルム砲戦形態へ形を変えた『ソウルビート・エクセリオン魔法の杖』の先端砲口から複数の魔力弾ビームを放つと共に魔力塊からも同様に複数の魔力弾を撃ち出す。


 自動追尾機能を備えた半誘導高速弾で弾幕を張り、ABCと振り分けて群あるいは部隊に見立てた自動追尾の魔力弾を班ごとに誘導して怪人の逃げ場を削り、わざと作った逃げ道で上空うえ上空うえへと止めの大技を撃つ時に周囲へ被害の出ない射線へ誘い込み、充分な位置へ来たところで逃げ道を完全に塞ぐ。

 前後左右上下隙間なく、受ける怪人側からは光の壁が作られたかのように魔力弾を敷き詰めて圧殺する。


「こ、の、テイドぉおおオッ!」


 大きなダメージを与えるも怪人はすぐに障壁シールドバリアで自身を包むように守りを固め、気合いで耐える。


「はぁぁぁあああっ!!」


 ならば障壁が砕けるまで削り取るまでとばかりに魔力塊二つを追加し、魔力弾の圧を上げていく。


 しかししぶとい。ランクB相当と推定はしたけれどこの中二病怪人しぶとすぎる。

 今朝からのついてなさと周辺被害のこともあってちょっとらしくなくイラっときてしまい、ソウルビートに貯蔵してある魔力も全部乗せで撃ち込んでやろうかと後先考えない浅慮な思いが浮かんだ時だった。


「ギッッ!!?!?」


 突然中二病怪人が短い悲鳴と共に障壁も消し飛ばして無防備な姿をさらし、今まで防がれていた囲い込むよう誘導した自動追尾の魔力弾があまさず殺到し、怪人を袋叩きにしていく。


「!! これで、決める! 」


 ある種の懐かしさすら感じたとてもを目にし、非常に気になった。気になったけれど、それは終わらせた後で良い。

 そう自身に言い聞かせ抜群のしぶとさを見せてくれていた中二病怪人を確実に仕留めるべく、一気に間合いを詰める。


Full Chargeフルチャージ


 私の意図を察したソウルビートが速やかに魔力チャージを完了させる。

 さすがソウルビート。『相棒』と呼べるまでに付き合いの長くなった超AI搭載魔導杖Magia Device。無口な性格だけれど頼りになる。


「ギャラクシオン、マキシマムブレイカーッ!!」


 間合いを詰める勢いのままに怪人へ接近し、ハートビートの砲口をその懐へと突きつけて最大火力の砲撃魔法を撃ち放つ!


「ッ!? こ、コ、こンナッ!? コ、コトがぁッッ! ぁ゛ッ?!」


 砲撃による極光に飲み込まれ、断末魔の声を上げながら中二病怪人が跡形もなく消し飛んでいった。


「はぁ~……ソウルビート」


23 minutesトゥニスリーミニッツ 58 secondsフィフティエイトセコンズ


 名を呼べばそれだけで私がなにを言うか先回りして主語を抜いて要点である時間タイムのみを告げるソウルビート。

 中二病怪人との戦闘開始からの終わりまでの所要時間23分58秒。想定よりも早く終わらせられたようだ。被害は大きいようだけれどこの短時間の戦闘なら規模の方は小さく済んだ、といったところだろうか。


 怪人出現の知らせから緊急出動しただろう政府と民間のガーディアンズ到着に一時間弱かかる場所であることを踏まえて早々に立ち去るべきだろう。

 後ろ暗いことはないけれど、政府と民間双方の事情聴取を受けるのは非常に面倒。下世話だけれど指名手配され多額の賞金の掛けられていた怪人を倒したとでもない限りは、代価なしなら御免被りたいくらいに面倒極まりないのだ。

 なにより政府民間どちらへもあくまでも任意で警察のそれよりも強制力のない物なので、ガーディアンズ相手への心証を気にしないなら隠れても逃げても特に問題もなく、罪に問われるわけでもない。

 これは有志の民間協力者、未所属あるいは無所属の能力者に能動的超常災害対応や救助活動をわずかでも促すための一助らしい。


 賞金が掛けられた一部の例外を除けば報償もなにもない命懸けの無報酬タダ働きで自己責任による有志の活動ボランティアだ。

 法やら権力やら義務やらを振りかざして締め上げられたら折角の有志も消え失せる。同様に国家権力で組織への所属などを強制すれば、超常災害に対処可能な能力者たちがそれに反感を持ち、いずれ反感を抱いた能力者たちが一つに集まり、最悪その力を駆使して反政府目的のテロ行為クーデター。超常災害を起こす側になりかねず、良くても力を隠匿してのボイコット。

 だから在野の能力者たちの能動的超常災害対応と救助活動を促すと共に、その力を使ってみたいという情動を犯罪行為で満たさせないため、能力者による超常災害対応や救助活動へ使うように、また組織への所属を促す意味でも敢えて締め上げを緩め、マスゴミを抑えてマスメディアを上手く使い、活躍を讃えることで意識誘導を行っている。

 長期的視点を有したこれらの執政を主導した政治家は真面な部類且つ相当に有能なやり手だろう。こういう政治家が対超常災害機関にもっと踏み込んで関わってくれればあそこまでひどい裏はできなかっただろうに。


 と言うのがくの言(の要約。本当はもっと皮肉まみれで込み入った内容だったと思う)。



 ともあれ閑話休題



 あの戦闘中に目にしたから私は魔法とは『別の力』を意識して瞳に込め、あの瞬間の怪人の仰け反り方から見て地上から放たれた物のはずと視線を下へ向けて目を眇めて辺りを見回す。


「ぅ~~ん………! 居た!」


 戦いの被害で倒木が目立ち、あちこちで生木が燃えて煙り、元の姿を失った森林公園に、居た。

 辛うじて人型とわかるぼんやりした黒い靄の塊、静かに佇んでいるが。

 直接面と向かって会うのは大体3年ぶりになるだろう友人へ懐かしさに勇んで近づけば――


『……なんのようだ合法ロリ巨乳。さっさとずらからんと官民合わせの相手でクッソ面倒くせぇことになるぞ』


 ――第一声のセクハラ発言で久々の再会に上がりだしてた気分が急降下した。


 いや、皮肉屋な彼流の気遣いの言葉なのは分るだけれど。け、れ、ど、もっ!


「女性に出会い頭開口一番セクハラ発言はさすがにデリカシーなさすぎだよ!! 『テッド』!」


 怒ってますと意思表示で早口に捲し立てれば目の前の黒い靄の塊は肩を竦めて見せるゆらりと蠢いた


 今彼を『テッド』と呼んだが、それは彼の名前ではない。私が考えた愛称だ。

 その存在故か彼は自分を差す明確な名前を持たない。彼が意図的に接触した個人や組織が付けたという彼曰く安直な通称コードネームはあれども、彼はそのどれも自分の名前や通り名にもしようとは思っていないようで、私と初めて出会った時も種族名だという『アンデッドUnDead』を名乗り、好きに呼べと突き放すように言う始末だった。

 だから私はアンデッドの「デッド」を元にした愛称で彼をテッドと呼んでいる。


『昼間の上に日が差すこんな場所でもオレの言葉がはっきり聞こえるとか、んのか。

 お気に入りスポットがダメになるは最悪だな、今日は』


「最悪なのはこっちだよ!

 休日なのに今朝からさっきとついてないことばっかりだし!」


『愚痴を聞いもらいてぇならちゃんとした生きた人間相手にやれ。

 それともそんなのもいねぇ痛いボッチか?』


「ボッチじゃないもん! ちゃんと友達いるもん!!」


『聞きまして皆さん。いい歳こいて「もん」、とかw

 U☆KE☆RUwww』


 いつものふざけた態度でテッドはお腹を抱えて笑う仕草と声色で私を煙に巻こうとする。


「んもー、時間に余裕ないのにからかわないで!」


『……時間がないなら、オレなんぞに関わってねぇでさっさとずらかんな』


 ダルそうな物言いで愚痴を言ったかと思えば高めの声でふざけた言動を取り、かと思えば急に低い声で真面目に話し出す彼。

 いつものことながらテンションの緩急が激しい。


「 ふざけるのか真面目にするのかどちらかに」


Masterマスター


「・・・・・・今日の夜8時ごろに私の家に来て」


 ソウルビートが無駄に時間を取られて私のしたい本題に入れずにいると察して遮るように声をかけてくれたおかげで冷静になれた私は深呼吸一つ吐いて簡潔に本題を告げる。


『おい、オレはこんなんでも立派な銀タマ付いた男だぞ。

 魔法少女で巨乳な合法ロリが夜更けに自宅へ男を誘うなぞ、エロゲヒロインにでもなる気か』


真面目な声真顔でそう言うセクハラジョーク下ネタはやめてほしいかな?」


『Charge up』


 変わらずふざけるテッドに魔力をガンガンに貯めるソウルビートの砲口をその額があるだろうところへ突き付ける。


『Oh』


 そんなふざけた声と共に黒い靄の塊テッドゆらりと蠢き両手を挙げ、ダルそうに『こうさんこうさんへるぷみー』と危機感のない投げやりな声を上げる。ノリでやっていることが丸わかりだ。


 確かに彼には物理攻撃が一切効かないし、魔法による攻撃も彼曰く『予防接種の注射を打たれたくらいには痛い効く』とのことだれど、本気でなかったとは言え私の持つ最大火力のギャラクシオンマキシマムブレイカーを至近距離で受けてこの言いようなのだから呆れるしかない。


「……今日の夜8時に私の家に来て、約束よ」


『あ~……へいへいりょーかい』


「今日の夜、8時に、如月きさらぎ 菜々華ななかの、今、住んでいる、家のリビングに、来て、

 はい、復唱!」


 投げやりなテッドの返答に約束の抜け穴を使ってを拡大解釈したりして守らない気だと察して私は改めて約束の内容を明確にして一言一句力強く言葉にし、さらに抜け穴を潰すため復唱するように迫る。


『……………』


「……………」


『……はぁ~、わぁたっよ。今夜8時にお前の、如月 菜々華の現在住んでる家のリビングに行く。…………だ』


 しばしの睨み合いの後、根負けしたというように溜め息を吐いてテッドは渋々ながら確りと約束の内容を復唱した。


 口約束だろうと一度『約束』すればテッドはその在り方故か必ずそれを守る。


「約束だよ。またね」


 再会と約束を取り付けられた嬉しさに笑顔で一旦の別れを告げてその場を飛び去った。

 背後で聞こえよがしに盛大な溜め息を吐くテッドの声が聞こえたが、いじわるな彼が悪いと苦笑を浮かべて今夜は何を話そう何を聞きだそうと思案に浮かれる私だった。





 -多分つづかない?-





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