人生のキャリアを積んだ男の強さと弱音

『老人と海』アーネスト・ヘミングウェイ(新潮文庫)  


 発表されたのは52年というから70年も前と言うことになります。一度はその有名なタイトルからして読んでおくべき一冊とようやく手にしたわけですが、読んだのは文庫になって二度目の改訳となった一冊で、これを見ただけでも洋書と時代を感じることが出来ます。


 映画はすでに見ているのであとはその映像を作り上げた文面がどうなっているのか。興味はまさにその一点。


 お世辞にも厚い本とは言えませんが、ページを開く際のワクワク感は見知らぬ本の比ではなかったように思えます。発表も古ければ当然翻訳も古い。同じ日本語であっても言い回しなどは時代を感じさせます。ただ、それが時に新しく新鮮に感じたりもするから面白い。


 八十四日も魚が釣れなかった老漁夫のサンチャゴは、何事もなかったかのように今日も小舟に一人乗って漁に出る。当初は他の小舟も見える位置で釣り糸を垂れていたが、徐々にサンチャゴの舟は沖から遠ざかっていく。


 そんな時、彼は強い引きを感じる。これが老漁夫と魚との戦いの始まりで、そこからはまさに死闘。なにせ老漁夫の小舟よりも相手は大きかったのですから。この諦めないという精神と老いという身体のなんともしがたい辛さ、さらには大海での孤独のせめぎ合いがとにかくリアルに描かれています。


 時に現代風、時に難解、時に児童文学をも思わせる文面がまた老人と海と魚という三つ巴をも描き出しているようで現代小説を中心に読んでいるものには斬新にすら感じさせます。


 人間の心の在り方と自然の厳しさを教えてくれる。触れておいて損はない一冊ではないでしょうか。

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