カラーの薄い主人公ゆえの裏の存在感

『何者』朝井リョウ(新潮文庫)   


 一番印象に残ったのはやはりこのタイトルかもしれません。あれこれ想像を掻き立てます。


 読むのが疲れてしまう長いタイトルも目につく中、短いのに効果的で好感が持てます。日常的で分かり易い文は畏まってなくてサラサラ読めるんですが、恐らくこれは経験したことのない大学生の就活、さらには時々登場するSNSらしき書き込みが原因なのか今一つページの進みが悪くてけっこう時間を要しました。


 ただ、裏を返せば就活真っ只中、あるいは経験済み&SNSを頻繁に使っている読者なら、あるあるでハマる事間違いなしでしょう。大事件が勃発するわけでもなく、あるのは大学生の日常でそれがほぼ一冊となっているので、ストーリーは一言で淡々です。


 同居人である光太郎のライブに就職活動を控えた拓人は顔を出します。実はそこに光太郎の元カノの瑞月が来るのを知っていたからなんですね。偶然、瑞月の留学仲間である理香が拓人たちと同じアパートに住んでいることがわかり、就活の対策のために集まるようになる。


 表面的には同じ目的を持った仲間同士にも見ますが、その関係がSNSの書き込みにより徐々に歪んでいくわけです。寝クラという主人公でもないし、上っ面はごく普通の青年。


 しかし、その裏では陰湿とも言える書き込みで普段言えない本音を呟いている。


 だからなんでしょうか。この主人公はとにかく影が薄い。脇役の方がきちんとした色を持っています。そんな主役の思いが本を支配してるんでしょう。


 無味無臭のような後味で下手をすると読み終わったのもわからないほど読了後の余韻がない一冊でもありました。

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