役立ちそうで煩わしい能力

『フォルトゥナの瞳』百田尚樹(新潮文庫)   


 与えられた能力は人それぞれによって違う。百メートルを九秒台で走る人もいれば、点滅するような数字を瞬く間に計算する人もいる。それで自分にはどんな能力があるのかと考えた時にこれだと言えるものが浮かんでこないのは寂しいの一言だが、本書にある能力が仮にあったとしたらどうなるだろうか。


 躍起になって動くか、あるいは人との関りを断つだろうか。もちろん、軟な心の持ち主だったら間違いなく押しつぶされてしまうだろう。その能力こそが他人の死の運命が見えてしまうことなのである。


 天涯孤独の主人公、木山慎一郎はある日、人の身体が透けて見えた。仕事の疲れかと初めは思ったが、その奇妙な現象はその後も何度か続き、透ける度合いによってその人の寿命の残り時間の違いに気付くようになる。そこで彼はちょっとした変化を加えることで透けていたはずの身体が元に戻るのだが…。


 こんな能力を持つことで当然、病院などに行くと透けた人がたくさん見えたりもする。これはある意味、辛い。ましてやそれが知り合いだったら、つい何かして状況を変えられないかと行動に出るかもしれない。


 それが大切な人だったら尚更だろう。だからこそ木山の勇気ある行動には共感出来るのだが、第三者的な立ち位置からエールを送ったところで、所詮は他人事で終わってしまうだけだ。従って木山にまずはどれだけ近寄れるかによって問いかけの重さをより感じることが出来ると思う。


 いずれにしろこんな特殊な能力は有難迷惑なだけで、無能であることを今回は感謝するかもしれないと、つくづく思い知らされた。

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