誰にも言えないが故の苦しみ

『秘密』東野圭吾(文春文庫)


 誰にでも秘密の一つや二つはあるのではないでしょうか。墓まで持っていく。もしかしたらそれだって一つくらいはあるかもしれません。


 かくいう私はというと…。それを明かさないのが秘密に他ならないのですが、人気作家である東野圭吾のこの小説の秘密は文字通り人には話せない。話したところで信じてもらえない話であります。


 告別式に参加するため妻の直子と娘の藻奈美は長野の実家にバスで向かっていた。そしてそのバスが転落事故を起こし、直子は死亡。娘の藻奈美は奇跡的に助かるのですが、意識を取り戻した藻奈美は突然不可解な台詞を口にする。これこそが人に言えない秘密の始まりだったわけです。旦那である平介が戸惑うもの当然で、何度自分だったらどうなるだろうと考えたりもしました。


 身体は娘。心は妻ですから。


 小説だからと言ってしまえば身も蓋もありませんが、絶対にないとは言い切れません。現実にあってもおそらく秘密にしているでしょうから。やがて非現実的とも言える生活がスタートする。それが時に笑いを誘ったりもするのですが、成長するに従い読み手の方も心を揺さぶられていきます。


 わかるようなわからないような複雑な気分です。と同時に遺族側と事故を起こした側のやりとりが追い打ちをかけるようにズドンと心を重くします。ふと、TVから流れた現実のニュースを頭に思い浮かべたりもしました。


 つまりは現実と非現実がこの本には詰め込まれているということになります。そして、ある日、娘の身体に本来の藻奈美が現れるようになる。


 ここから先の話は残念ながら秘密ということにしておきましょう。

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