古き時代に吹く新しい言葉と男の熱い風

『蘇える金狼 野望編』大藪春彦(角川文庫)


 台詞が自然と浮かんでくるほど、何度も見た映画の原作とは如何に。突然、そんな思いに駆られてこの本を入手しました。連載がスタートしたのは1962年と言いますから、60年近い年月が流れたことになります。


 物語は東和油脂に勤める朝倉哲也の文字通りの野望を描いたものですが、ハードボイルドだけあってその内容はあまりに非現実的。鍛え上げた肉体と野生の勘を働かせてどのように大金をせしめるのか。現金輸送人を襲う。表立って使えない金をヘロインに替える。


 映画をご存じの方ならある程度のイメージやストーリーは掴めるでしょう。ただ、映像からでは表現できない描写がこの本には多く詰まっていて、車や銃、そして街並みまでが頭の中にぼんやりと映像になって現われてくるから不思議です。


 さすがに先駆者と言われるだけのことはあると唸りつつも、同時に感じたのは時代の違いです。朝倉の月給が二万円台であることもそうですが、漢字やカタカナの使い方も今となっては新鮮に見えます。


 例えばジーン・パンツ。何でも略すのが当たり前の現代において、この響きはどこか心地が良い。


 真面目で控えめな表の顔を持つ朝倉の裏側の仮面、その激しすぎるギャップもさることながら、這い上がっていくハングリーな生き様が最大の見せ場ともいえるのではないでしょうか。


 時折流れるニュースなど目にすると、朝倉に似た人物は現代にも存在しているのだと気付かされますが、未来へ抱いていた希望という歯車は、いったいどこで狂い始めたのか。


 本書の朝倉を追いかけ続けていると、ついそんな思いに駆られ胸が熱くもなる。

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