第6話 出会い

俺がギルと知り合ったのは2年ほど前であった。


俺の家は、母親と二人暮らし、所謂、母子家庭というヤツである。

一人家計を支える母を少しでも助けようと、俺はいくつものアルバイトをしてきた。その中に、ある企業の研究機関の廃棄物を処分するという仕事をする事になった。


「おいアキト…、これ一日で終わるのかよ」一緒に参加した悪友の東が溜息をついた。


「給料いいんだから、文句言わずにやろうぜ」俺からすれば、もっと酷い仕事も沢山経験してきたので、全く苦ではなかった。


「へーい」東は気だるそうに作業を開始した。


乱雑に放置された機器を台車に乗せ、それは表にあるトラックの荷台に運んでいく。ほとんどの資材はプレスのようなもので潰されたのか粉々のような状態であった。


作業を続けていると、鉄板の間に挟まれた小さな人形の上半身が目に入った。


「なんだ、これは?」俺はゆっくりと手を伸ばす。


「お前は…誰だ?」その人形が俺に質問してくる。よく出来た玩具だと思って、俺はそれを手に取る。


「俺はアキトだ。お前は?」


「私の名は…ギル、ここから連れ出してくれないか?」人形が懇願してくる。


「あ、いや、ここの物を持ち出すのは御法度なんだよ」人形の言葉に真面目に答えている自分が滑稽に思えた。


「頼む、助けてくれたら君の為に…、何でもする!」


「そんな事を言われても…」俺は躊躇した。


「おい!そこのアルバイト!サボるなよ!!」急に声を掛けられて、思わず人形を上着のポケットに突っ込んでしまった。


「はい!」そのまま、ギルを家に持って帰ってしまったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る