第4話 ギル

「これ、高かったろう?よく買えたな」俺は彼女のスマホの画面にあるオルナスのアプリを起動する。壁紙は、なにやら男とツーショットの写真であった。少しモヤっとした物が胸を圧迫する。


「お父さんが、ソールドの役員なの。私の誕生日にってプレゼントで送られてきたの」如月は、嬉しそうに俺が操作するスマホを覗き込んでくる。距離が近くて少しドギマギする。


「そうなんだ」アプリの詳細設定の画面に指を触れる。


彼女のオルナスは、OGN2001モデル。高価なハイグレードなものであった。さらにそのフェイスパーツは特注品であろう。かなりの別嬪さんである。どことなく如月の顔に似ている。なんとなく、二人の顔を見比べてしまった。


「どうかした?」肩越しに彼女が、少し首を傾げる。その髪が少し俺の頬に触れ心臓が飛び出しそうになる。


「こ、これで大丈夫だと…思う」彼女にスマホを手渡す。なぜか顔を直視できない。


「ありがとう!」そう言うと同時に、リンは舞うように、部屋の中を駆け抜ける。


「よし、良い感じだ」俺は軽くガッツポーズをする。


「凄いわ。こんなに動けるの初めてよ」如月は、歓喜の声を上げた。


「でも、どうして俺に…」俺はオルナスの話を学校ではあまりしない。


「だって、そのリング」俺の手首を指さした。そこには黒と赤を基調にしたブレスレットがあった。


「あっ!」今日から、夏服になっているのすっかり忘れていた。


「それと、この間見に行ったオルナスの格闘技大会で優勝した人、君によく似てたんだ。黒いフードを被ってたから顔は見えなかったけど、それと同じリングはめてたし…」また、俺の手首を指さす。


「いや、これは…」すでに遅い。


「いつも放課後、黒いオルナスで川橋のしたで練習してるでしょう。今日も持ってるのでしょ?見せてよ」如月は、屈託のない笑顔でおねだりしてくる。


「あ、ああ…」仕方なく鞄の底に隠すように入れていた相棒のギルを彼女の目の前に出した。


「なにこれ!?格好いい!最新モデルなの!えーと、OGNの…2000…?」覚えたての知識を捻り出そうとしているようである。


「いや、こいつは俺のオリジナルなんだ。ギルって名前だ」


「格好いい!ギル、宜しくね!」如月が言うと、ギルの目の前にリンが立ち、握手を求めてきた。ギルも答えるようにそれに応じた。


「ねえ、私もリンで大会に出たいだけど、色々教えてくれないかな?」如月が唐突に俺の手を掴んだ。


「えっ、いや…、でも、あの大会は…」どうやって断ろうかと必死に考える。


「きっと、リンは強くなれるって思うんだ」彼女の瞳が輝いている。


「あっ、そうだね…、でもさ、あの大会は危険だぜ、オルナスも傷つくし」腕や足が千切られるのは日所茶飯事である。


「大丈夫よ!君がちゃんと教えてくれれば!」肩を勢いよく叩かれた。そのまま、なし崩しに了承させられて、彼女の家を後にすることになってしまった。

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