第14話なんでもしてくれるんですよね?

『は?いや、それは確かに出来るがしたくないとも言ったぞ。』

『それを呑むのがお詫びでしょうに。ささ、パパっとどうぞ。』


『ホントにそれでいいのか?もっと他の願いでもいいんだぞ?』

『ええ。いいですよ。殺してください。お願いします。』


『恐くないのか?』

『死ぬことですか?1回死んでますからね。今回は痛みもないし、他人に任せるわけですから、どうでもいいかなと。』


『いや、よく考えてくれ。君を拘束して派閥の誰かに売りつけるかもしれないぞ?』

『あ、ああ。考えてましたよ?もちろん。でも、あれじゃないですか?実際ほら、拘束して売りつけてないし、何よりこうして拘束して解いて誠実に話してくれたじゃないですか。』


・・・。不安になってきたりもするが、どうしよう。


『痛みがないといったが、さっきの尋問、いや拷問では何かを感じたんだろう?"ガワ"に感覚がなくとも魂には感覚がある。つまり、苦痛を伴うってことだぞ?』

『・・・。それは、どの程度ですか?そして、時間は?』


『1年程だ。そして、苦痛はさっきとは比べ物にならないと保証する。バラモントを殺すためのものだからな。』

『・・・。』


思ってたのと違う。嫌だ。1年じわじわ?馬鹿じゃん。俺はノーマルなんです。M気質皆無です。


『・・・。』

『・・・。』


『どう、したいんだ?ホントに死ぬ気か?君がいいなら実験体として、』

『待った!いやー、男の心だって秋空のように移ろいやすいんですよ。別に浮気がどうのってわけじゃないんですがね。とにかく待ってください。保留!とにかくやっぱ無しってことで。』


『・・・。ん、ああ。分かった。もともと殺す気は無かったからな。』


胎安宮たいあんきゅうなるところで孤独に生きるのもいいけど、それでは流石にな。ただ生き長らえるだけだし、なんの進歩もしないか。死ぬ方法を探すってのもありかもな。バラさんが知ってるだろうからそれまでツナギでってことか。


でも、バラさんが俺を実験に使わない保証あるのか?売り飛ばさない保証は?

無いな。やはり、生殺与奪は自分が持つに限る。自殺を他人に頼るのは死ぬよりも嫌なことが無い人間のすることだ。俺はそこまでぶっ壊れてない。


『では、帰りたいです。』

『どこに帰るんだ?』


胎安宮たいあんきゅうにとりあえず行こうかと。』

『ふむ、その後は?』


『・・・。さあ?とりあえず仕事しながら、死に方でも研究してみますかね。バラさんと合流するかもしれませんが。未定です。』

『死に方の研究ね。大きなお世話かもしれないが、ここで、』


『大きなお世話です。』

『あ、ああ。そうだな。では、とりあえず仲間と相談しなければならない。君も会ってみないか?』


『?まぁ、はい。いいですけど。』

『では行こうか。外にいるはずだ。』


目の前の女性についていく。


ここで幸せをとでも言いたかったのだろう。俺の記憶全部見てから言ってくれ。あなたは恵まれていることを感じて、自分の境遇に感謝できるから。


女性の前方に3人の魂が見える。アリアさんの仲間だ。

目がないと、暗い場所から暗い場所に移っただけで、感動もなにもないな。視覚ってのは人間にとって結構大切なのか。


『遅かったの。待ちくたびれたわい。それで収穫は?』

『彼はここに来て2日程だ。バラモントも情報を彼にはほとんど落としてない。』

『では、収穫なしというわけですか?やはりバラモント君は一筋縄ではいきませんね。』

『で?なんでコイツの拘束解いてるわけー?ここにいる意味も分かんないんだけどー。』

『なんというか、彼に我々の活動を見てもらおうかと思ってな。その、どうかな?』


『『『はぁ?』』』


『何を、血迷ったか、娘!ワシの倅の妻だったから引き入れただけだ。くだらん情をかけるなど足手まといになるだけだ。』

『ではどうするつもりだ?彼を殺すのか?さっきも言ったがここに来て2日程だ。3日か?目が見えないから、彼はここのことがほとんど分かっていない。それに匂いも肌に当たる風も飯も、何もしていないんだ。それを、バラモントと会ったから殺すか?我々では酷い方法しかできないんだぞ?』

『でもさー、ホントに大丈夫なの?フツーに警戒しちゃうよ。だってバラモントの教育しか受けてないんでしょ?それに、この見た目ヤバそうじゃん?2、3日でここまで穢れてるんだよ?』


『彼の見た目はだな、なんというか、一部しか見ていないが彼の前の世界の記憶が影響しているらしくてだな、私も詳しくは知らんが、少なくとも、ここで穢れたわけではない。』

『・・・。仮に一緒に行動するとしましょう。どこまでですか?彼に教えないほうが良いこともある。彼を想うならむしろその方が巻き込まずに済みますから。』

『なんじゃ?全員が賛成か?ワシだけが反対か。』

『うーん。どっちでもいいかなー。バラモントさえ殺せるなら、使える道具は多いほうがいいじゃん。』

『私は彼を使う気はないぞ。』

『じゃあ、何がしたいの?まさか、ホレたとか?うっそーマジで?なんで?』

『ばばば、違うわ!それはない。だが、その、とにかく、ここで世界を見せてやりたいんだ。頼む。』


と、勝手に話が進むわけだが、なにこれ。ジジイが殺しそうだし、キューピッドはサイコレディだし、巨人は、良いやつ。ポンコツ騎士はなんか、誠実なだけで説明下手。任せていいのかなぁ。


『ワシは反対だ。僅かな可能性だが排除しておいて損は無かろう。』

『アタシもー。道具として使わないならいらないでしょ。惚れた腫れたなら、アリアちゃんが勝手に匿えばいいよ。ここには持ち込んじゃだめだよー。』

『・・・。どちらに転ぶのか。彼が将来、我々の味方なら良し。敵なら悪し。だが、現状どちらに傾くか分からない。バラモントを殺す、それだけの為に集まった我々が彼を引き入れることにメリットはありますか?』

『えーっと、まずだな、彼はバラモントの方へ行こうとするきらいがあるな。』

『は?それでは、答えは明白でしょう。排除一択。アバンダルさんの言う通り可能性の排除です。』


あれ?俺死んだ?ポンコツ!マジでポンコツなの?ウソだろ。そこは誤魔化せよ!誠実さが仇になってる!

『ままままま、待ってくれ彼に意見を聞こう。どうだ?それからでも良くはないか?』

『・・・。まあ、ワシは構わんが、本気で懸想しとるわけではあるまいな?それ自体咎める気はない。だが、マリストルの言う通りここに持ち込む事ではないぞ。それはそれ、これはこれというやつだ。』

『けけけけけけ、懸想なんてしてない。とにかく話を聞こう。コータどうだ言いたいことはないか?』


こいつテンプレみたいなポンコツぶりなんだが、キャラおかしくないか?俺がヤッた時気持ちよかった?って聞いたら物凄く冷静だったじゃないか。何だこの豹変っぷり。コイツ、魂の形がフツーだからキャラ作りに焦ってるとかか?あり得る。


『ん~。まず、殺されたくないです。アリアさんに聞いた話では殺すのに1年かかると聞きました。せめて、1日で殺してください。それと、苦痛は最低限に抑えて。それなら殺してください。むしろ、あなた達にお願いしたい。』

『・・・。まず、殺されるのは問題無いということですか?』

『条件付きですがはい。』

『もしかしたら、殺さずに拷問するかもよー?』

『それをするメリットが無いでしょう。それにアリアさんあたりが止めてくれそうですし、その心配はしていません。』

『今すぐ1年掛けて殺すとしたら?ワシはお前を拘束して殺す準備さえすれば、放置しておける。心配の種も無いわけだ。』

『それは勘弁して欲しいです。どうしてもやるのなら全力で逃げます。多分無理かもしれませんが、調整人バランサーの力も使って頑張るつもりです。』


『此奴、権能が使えるのか?』

『一度も使った事は無い。記憶を確認した。だが、バラモントが使うのを見ている。』

『4人もいればよゆーっしょ。やっちゃう?』



『やあやあ!やってきましたよ吾輩が!参上だ参上だ!』

不意に後ろから大声が聞こえた。

振り返ると160センチぐらいの男。刀を提げている。刀!これ日本刀じゃない?魂しか見えない俺に刀が見える!全身は赤黒い血液の固まりかけのような色。鞘は真っ赤で光沢があり柄は黒い。ハッキリ言ってカッコいい。


『ふむふむ。お主はなかなか良い目をしているのだな。この刀の魅力に気づくとは!いやー実に惜しい。』

ん?惜しい?ていうか、コイツ何者?


『アリア。』

『ああ、分かっている。』

『これは逃げるしかありません。彼を囮に使いましょう』

『"介添人グルームスマンマリストル・エルポトが執行する。隠蔽者コンシルメンタ援護を!"』


不穏な会話に振り返ろうとするが、目の前の男から目が話せない。コイツヤバそう。アリアさん達が全力で逃げようとする相手だ。しかも、俺を狙ってそうな発言。逃げられるのか?ヤバいヤバいヤバい!ヤバいのか?コイツが俺を殺すだけなら・・・。考えない方がいいな。どうせ読まれる。


『ふむふむ。奴らは逃走。介添人グルームスマンはどんな権能だったか。隠蔽者コンシルメンタ。はて?忘れたな。取るに足らんやつだろうな。で、コータ君!刀について語らいたいが、そうもいかんのでな。死んでもらう事になった。』


なんで名前知ってるの?


『ちなみに、どれくらいで死ねますか?それと痛みは?』

『逃げぬか!やはり見どころがある。むむむ。惜しいな。なーに、一瞬だ。斬って絶命。至極単純な道理よ。痛みも無いだろうな!なにせ一瞬で絶命だから!はぁっはっはっはっは。』


おもしろポイントは無かった。が、一応心のなかで笑っておく。"ガワ"で愛想笑いは不可能だから。筋肉が動くからそれで愛想笑いって分かるかな?いや、キモいだけだやめよう。


さて、ホントに死んだかな。これ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る