第17話 藻は植物

とある日。

日が沈んだばかりの神有町の河川敷。

緑地には死屍累々の荒くれ者が10人以上倒れていた。


蝕妖の仕業?

いや、違う。鮫島さんたちの仕業である。


今日もセンター街でたむろしていた俺らだったが、いつのどおーり難癖をつけられ、あわやここで乱闘騒ぎかと思ったが、メアリージョイのマスターに、ホースで水をかけられ不発に終わった。


『店の前で、喧嘩するんじゃねぇ!営業妨害だ!出禁にすっぞ!』


こう言われたら、不良の溜まり場を失うわけにはいかないので、すごすごと河川敷に移動して、乱闘勃発。

多勢に無勢ではあったが、さすが鮫島さんたち。

着実に、相手を土に沈めている。


鮫島さんはゴリラらしく、一人吹っ飛ばすと周りも巻き込み、2、3人1撃で地面に沈める。

天綺さんは、ゴリラの攻撃が当たりそうで当たらない場所で、ひらりと避けながら相手をいなしては転ばし、戦意を消失させている。

辰さんは、ゴリラを意識しまくり、ガムシャラに殴りかかってる。

リッくんさんとチャラ⭐︎さんは、辰さんの攻撃が浅く入ってうち漏らした相手を、ポコスカとトドメを刺していく。


圧巻。負ける気配が全くしない。

俺はというと、河川敷の斜面で鮫島さんたちの闘いを傍観中である。

あまりに毛色が違うので(赤い髪だが、雰囲気が優等生って意味で。)、仲間認定されないのだ。

多少離れていたら、巻き込まれることはない。


しかし、今日は違った。


俺が下っ端パシリだと知っていて、鮫島さんたちに仲間認識をされてるチームの弱点だとわかったうえで、狙われたのだ。


ぼーっとしていたのも不味かった。後ろから静かに近づく人物に、気づかなかった。

グッと、首に腕を回され拘束され、気づけばバタフライナイフを突きつけられていた。


「悪いな。お前は、今から人質だ。」


ナイフが突きつけられてるので、たいして動けないが目線だけを斜め後ろに向けると、相手チームのボスだった。

最初に鮫島さんとタイマンかまして、早々に地面に沈んでいた奴だ。

鮫島さんたちが雑魚と遊んでるうちに、意識が回復していたらしい。


「おいっ!!鮫島ぁ!

コイツがどうなってもいいのか!?」


なんと、このセリフを実際に聞くことになるとは!?

ナイフを突きつけられているのにも関わらず、”3流の負け犬のフラグセリフ“を、耳元で聞き興奮した!


鮫島さんたちは手を止める。

俺の方を見て、『悠夜っ!!』と、目を見開く。

だが、すぐに表情が変わる。

なぜか、呆れた顔を晒した。


「なっ!?なんだその顔は?

コイツがどうなっても良いのか!」


「いや....。心配..、してたんだが。

悠夜の顔を見たら...な?」


鮫島さんが答えると、みんなもうんうんと頷いて同意を示す。


は?とボスが訝しげながら、俺の顔を覗き込んだ。


「なっ!?お前!?」


ニヤニヤによによしている俺の顔を見て、ボスがギョッとする。


「ナイフ突きつけられてるんだぞ!!ほらっ!」と捲し立てられ、首に刃先が当てられた。


流石に、ピリッとしたので危機感が優った。

ヒッと、思わず引き攣った音を出してしまう。


「やめろ。」


鮫島さんが、ドスのきいた声を発した。

可愛がってる弟分の危機は見過ごせない。


しかし、ナイフは離れない。

ふふんと、ボスが得意げに笑うと、仲間達に言い放つ。


「おいっ。鮫島たちを拘束しろ。


ふふん、鮫島ぁ。大人しくしてたら、コイツを離してやる。」


「鮫島さん....。」


「悠夜。大丈夫だ。」


鮫島さんたちは、黙って縛られていく。

そして、1箇所にあつめられると、仲間たちに殴らせ始めた。


どこっ!ばきっ!っと、鈍い音がこっちまで聞こえて、みんながなぐられていく。


あぁ!!なんてこった!俺のせいで、みんなが殴られていく!


あわあわと、手を伸ばして止めようとするが、ナイフに阻まれ、腰のあたりでウロウロさせるだけになる。

音が、聴こえてくるたびに身体がビクッとなった。


「な、なぁ。やめさせてくれよ。」


必死に背後の男に訴えかけるが、鼻で笑われるだけで取り合ってくれない。

自分でなんとかしないといけないようだ。


ならば、こないだ教わった神気で、どうにかできないか?

だけど、バレずにどうやって....。


悠夜は、頭を働かせる。

蔓蛇は、急に出したら驚かれるし..証拠が残る。


空気のように、見えないものは....。

何かないか?......。

『藍藻』なら...いけるか?


藍藻は、現在では細菌生物に分類されてるが、古くは植物に分類されていた。

親父が残した本にも、その名はあった。

これを、湿度、温度、PHを調整して急速に反応させ鉄腐食バクテリアを作る。


これをナイフの表面に塗布すれば...ただの鉄になるはずだ。


息を吸って、親父式気合をする。

『ぐっとして、ぐわぁぁぁ』

これで、神気循環、準備完了。


そして....これまた親父式『じょわっ』を試す。口から神気がフッと出て、うまく2本指に神気を纏わせることに成功した。


中指と人差し指をナイフに近づけ、イメージしながら小さく唱える。


『..藍藻...』


身体の核から神気が引っ張られる感覚とともに、指からも何かが出ている感覚...。


しばらくすると、ナイフが腐食し、茶色くボロボロと崩れてきた。

成功だ。


刃が腐食したのを、目線を下ろして確認できたので、ガッと首に回された手を両手で掴んだ。

腰を落として、前のめりに屈む。


「うおっ!」とボスが、驚きをもらす。


傾斜を利用して、ボスを背負い投げしたのだ。伊達に、鮫島さんたちと連んでいない。このくらいならできるのだ。


ボスは、ドスっと背中を打ちつけ、ズルズル身体が滑っていく。

俺は、すぐさま走って逃げる。

【三十六計逃げるに如かず】だ。


「よくやった!悠夜!」


鮫島さんたちの声が聞こえる。

辰さんの豪快なギャハハっという笑い声も聞こえる。


鮫島さんは、ゴリラっぷりを発揮して、力任せに拘束を解き応戦。天綺さんはどこから出したのか、刃物で縄を切り攻撃を躱わす。

辰さんは、体当たりで周りの男たちを吹っ飛ばして、天綺さんに縄を切ってもらってる。

チャラ⭐︎さんは、縄抜けをしたようだ。(どうやってんのか、わかんないけど。トリッキーなチャラ⭐︎さんならできるの、か...?)


そして、リッくんさんは.....。


無双だ。

いつのまにか縄が取れていて、大暴れだ。

鮫島さんが傷つくと、プッツンとキレるのだ。


王子様フェイスを思いっきり晒して、笑いまくってる。だが、その笑いは狂気にまみれたものだ。

ふははははと高笑いをしながら、相手の顔を鷲掴み、膝で殴りつけたり、長い足で踏みつけたりと、容赦がない。

相手の顔面の造形が、鼻が折れ曲がったり、歯が折れたりと、血が迸り容赦がない。

沈んだ輩にも、ダメ押しのように腕や足を踏みつけバキッと折って捨てていく。

血でベトつく手で、髪をかきあげ、麗しいご尊顔を晒したさながら魔王だ。

こうなると、万に一つも負ける要素がない。

そんな劣勢を察したボスが、俺を捕まえろと命令を下す。再び、人質にとって起死回生を狙うようだ。


わぁっと、7人くらいが俺に向かって走ってきた。

俺はヤベッと、顔を顰め、さらに遠くに逃げ始める。

後ろを気にしながら、右へ左へとジグザクと逃げた。


動体視力はいいので、手をかけられそうになれば、体を捻って交わし、羽交締めに合いそうになれば、身を低くしてかわす。

挟み撃ちをされたら流石に逃げ切れないが、ここは優等生の頭を持った俺。

瞬時に相手の動きを観察して、そのルートを外す。


そうしていれば、そのうちに援軍が来る。

そして、ほら、やっぱり来てくれた!


鮫島さんだ。


「悠夜一人に、よってかかりやがって!!

恥を知れぇっ!」


ばきぃ!どこぉっ!!と、手と足で殴る蹴る。

目の前に立ち塞がり邪魔になった奴は、千切っては投げと言うように鷲掴んで投げ捨てた。

あっという間に俺の周りは平和になった。


さすがです!頼れる兄貴っ!!


そうなると、残っているにはボス一人になる。


「くっ...、くそぉぉ。覚えてやがれっ!!」


手下がみんなやられたボスは、捨て台詞を吐き逃げていった。


「ギャハハ!三下のようなセリフ残していったのうー。」

「2度と来るな、バーカ⭐︎」

「ふはははは!鮫島さんに楯突くからだ!次に顔見たら、骨3本は貰うぞ!はははは!!」


最後の不穏なセリフは、リッくんさんだ。

まだ、アドレナリンが高揚したまま魔王様モードが解除されていないようだ。


「落ち着け。律。」


鮫島さんがそんなリッくんさんに近づいて、袖で顔についた返り血をゴシゴシと拭ってやる。

エゲツナイ攻撃で、リッくんさんの全身は血塗れだったからだ。


「あっ....、鮫島さん..ありがとう...ご、..ざいます...。」


鮫島さんに声をかえられ、ようやく落ち着きを取り戻したリッくんさん。

いつも通り、ボソボソと喋り出した。


「じゃあ、いつもんところに行こうかのぉー。」

「そうだね⭐︎リッくん着替えなきゃ、流石にねー⭐︎」


いつもは、俺がメアリー・ジョイまで走って着替えをとりに行くが、今日はみんなボロボロ。

みんなでお着替えしにマスターのところへ向かう。


気ままパスタを今日も頼んで、みんなでシェアして食べたのだった。



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