2章①

 拾われてからもうすぐ1年経ちます。

 僕は大きく成長しました…。ええ、大きく……。

 お母さんを見たときは普通の猫だと思ったけど、兄妹たちはちょっとチーターっぽい色合いだなとは思って少し予感はあったんです…。

 成長するにつれその予感は正しかったんじゃないかと思うようになりました。今はこの世界の人が僕の知ってる人より小さいとかでなければ、僕は普通の猫ではないと断言できるくらいです。

 その証拠が…

①お爺さんが170センチメートルくらいだとしたら僕は70センチメートルくらい(尻尾含めず)。

②発情期に犬のように鳴く。


 前世の世界と比べる基準がわからないので①については正直自信がなかったんです。この世界の猫はこれが普通かもしれませんからね。でもつい数日前におじいさんがポツリと「うーん、親猫も少し大きかったが、この子はそれより頭一つ分も大きいし、猫と思とったが、こんなに大きくなると違うんかのぉ…。」と言いました。

 その時の僕の顔は世にも珍しい猫(?)の『えっ!?』って感じだったと思う。

 次に②です。僕は前の世界で外にいる猫の鳴き声を聞いて猫の発情期は知ってた。普通の猫は雌猫しか発情期ってないんだよ。なのに僕はなんかムズムズしてきて思わず鳴いてしまったんです…犬みたいな声で「ばう!」って……。

お爺さんたちも「はぁっ?」って驚いていたからこの世界の猫の鳴き声とも違うみたいだし、自分でも『えっ!?』って思いました…(涙)。それからは鳴きそうになる前に寝床の毛皮を部分的に丸めて噛んで耐えたよ…。

これが発情期ってやつなのかもしれないと思うようになったのは発情期終り頃。そうなると恥ずかしくて毛皮に顔を突っ込んでお爺さんたちにしばらく顔を見せられませんでした。お爺さんは「人間臭い子だのぉ。」って笑ってたけどね。

ただ発情期はいけない…あれは本能的なものに支配されてしまう。前世では体験したことのない感覚だった。ふとした拍子に思い出してしまうと、思わず顔どころか全身が真っ赤になっているんじゃないかってくらい熱くなる…。


 まぁ、そんなことがあって僕は普通の猫ではないことはわかった。幸いなことにお爺さんたちは変わらずに僕を家族として扱ってくれてるから、問題なし。

お爺さんは僕が外でトイレできるとわかった時に、外に出る扉の下の部分を僕が出れるように改造してくれたよ。普通の猫サイズに…。僕が大きくなり続けたから何度か改造しなおさせてしまったのには、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです…。お爺さんありがとう。


 実は僕にはもう二人(頭)家族がいる。僕のもう一人のお母さんともいえる山羊のサラさんと娘さんのリリちゃんです。サラさんは僕が小さい頃からミルクをくれた人(山羊)。僕がこの家に来た時はちょうどリリちゃんが生まれたばかりだったらしく、運よくミルクをもらえていたようで、成長してお肉と水で十分になっても、時々ミルクがお皿に出てくることがある。その時は感謝しながら飲んでいます。


 この1年間くらしていく中でこの世界には、少なくとも今僕がいるあたりには四季があることがわかった。僕がお爺さんに拾われたのは春ごろだったみたいで、ここ1週間くらいで冬が終わり、ようやく暖かくなってきました。

 僕は大きくなってお肉を食べるようになりました。そしてこの世界だからかはわかりませんが、少なくともお爺さんたちのところには冷蔵庫みたいなものはありません。つまりどういうことかと言うと、冬も狩りに行かないとお肉が食べられません!お爺さんだけでなく、大きくなった僕も雪が積もってる中、一緒に狩りに行くようになりました。めちゃくちゃ寒かったよ…。

 幸いなことに僕にも狩猟本能が残っていたみたい。…最初の頃は生き物を殺すことに忌避感はあったけど、今ではもう慣れたものだ。臭いや音で獲物を見つけ、狩れるなら狩り、狩れないような大きい動物もお爺さんが構える弓や仕掛けた罠の方へ追いたてて狩りました。僕が一緒に狩りに行くことで普段より多く狩れるみたいで、納屋の中に雪を集めて余ったお肉を保存したり、おすそ分けすることで村の人たちから感謝されたくらい。


 僕たちの住む村は50人くらいの小さな村で、お爺さんたちくらいの年の人が多く、若い人たちは少ない。30歳くらいより下で25人くらいかな。そのうち15歳くらいより下の子なんて6人くらいしかいない。ちなみにこの村の人はみんな白人系の人間しかいないよ。獣人さんとか見てみたかったんだけどね…。

 1年くらい住んでても村の名前があるかはわからないんだよね。みんな村としか呼ばないから。この村派の主食は麦(僕は前世で小麦粉になってない麦なんて見たことないから同じものかはわからない)で、後は狩猟や採取、各家庭で飼ってる山羊とかのミルクが食事に並ぶ程度。野菜は何か作ってるみたいだけど、僕は野菜を食べさせられたことないからわかりません。野菜の余ったものはサラさん、リリちゃんのものです。この一年間で何度か行商さんを見かけた。調味料のうち山でとれない塩とかはその行商人さんから買ってるみたい。『見かけた』とか『みたい』とかなのは初めて行商人さんを見たとき以来、行商人さんが来ると家の中に逃げ込んでいるから。

 初めて行商人さんが来たときは興味津々だったけど、おとなしい僕を見た行商人さんがお爺さんに売ってくれと言ってきた。貴族が絶対欲しがるって言ってた。貴族いるんだね…。あとペットか猟犬代わりということだよね?まさかのはく製や毛皮が目当てとかだったら貴族っぽいものや人を見たらすぐに逃げないといけない。そう考えた僕は初めて会った行商人さんと交流せず逃げた。……あの行商人たちが僕のことを貴族に教えないことを祈るばかりです…。


 あと管理人さんが言っていた魔物を僕はこの1年いまだに見てないと思うんだけど、どこにいるの?

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