第30話

「ミリア様、真剣でよろしかったのですか?」

「構いません。剣以外を使えば中止になさい。それに怪我をしても治せば問題ないでしょう。治らない傷の場合はご愁傷様ですね」


 私はマリアの問いに笑みを深めて応えます。

 レイモンド家にをしてくれた報いは受けてもらいましょう。


 先程、ミラと王太子は戦闘を始めさせましたが──


「──ふッ!」

「──ちッ!?」


 ミラはまだ様子見をしていますが、王太子も中々動けますね。剣以外の使用を認めたら勝負がわからないぐらいには。


 それに噂通り口が立つ。ミラと2人きりにすれば丸め込まれたでしょう。


 しかし、アークの言った通りになりましたね……このを貰っていなかったら向こうの思うように話が進んだかもしれません。


 あの時──


 間違いなく精神系の攻撃を受けたのは間違いない。


 それに先程の──


 あれは、偽装されていますが使用禁止に指定されている魔道具『傀儡のネックレス』の可能性が高い。


 本当に舐めた真似をしてくれる。


 あぁ、すり潰したい──


 アークは『王太子が来たら問答無用で斬り伏せて構いません。ミラはあやつにはやりませんッ! それに私ルートの情報では人を操る術を使うと聞いております。仮に話し合いになったとしてもミラと2人きりにしてはダメです! いいですね? とりあえず2人きりにしなければ新作の中距離も出来る武器あげますから! 頼みましたよ!』と私にしつこいぐらいに言っていましたが──


 やはりアークの言っていた通り、最初に護衛が歯向かってきた時点で問答無用で潰せば良かったですね。


 そうすればアークから貰った剣の性能を試せたんですが……残念。


 中距離攻撃が可能な剣──アークは『連接剣』と言っていましたが、かなり便利な仕様です。


 魔力を込めれば、剣の刃が分裂して鞭のように攻撃出来るのは素晴らしいです。


 試しに雑魚の魔物に試した時は口元が吊り上がったものです。


 ミラとそこそこ戦える王太子なら、うってつけの実験台なのですがね……。



 とりあえず、ミラを指定した以上はミラにすり潰して貰いましょう。


 出来なければ──訓練増し増しです。


 ミラはアークより弱いですが、将来は私より強くなる逸材。この程度でやられるわけがありませんからね。


 アークと言えば──呪いにより、孤独を好むようになりました。

 なんとか友達ぐらい作らせようと多くの貴族が集まる王太子の誕生パーティに参加させましたが、結果は散々でしたね……。


 そのせいで、目の前の王太子が裏でアークの陰口を叩いているのも知っています。


 ミラが架け橋となり、アークの境遇が変わればと思いましたが、肝心のミラとアークが嫌がっている以上は婚約は無しでしょう。


 アークはスキルが無いのにも関わらず、類い稀な戦闘センスと努力のみで強くなった子。


 それでも、めげずに隠れて訓練をしている姿は母親である私は感動したものです。


 ソアラちゃんもアークに惚れて婚約者も出来て何よりです。


 そういえば、クレイとの模擬戦も手加減している節があります。


 さえ済ませば間違いなく歴代最強の名前はアークの物になることでしょう。


 あのは地力が強ければ強い程──発揮される。


 今回のダンジョンは今までよりも厄介だと聞いています。魔物の最低討伐ランクがBのダンジョンなど今までなかったはずです。


 最悪、クレイが攻略を無理と判断したら──


 『アークにを行い、攻略は任せる。その時は──すまん……愛してるミリア──』


 ──と言いました。


 この呪われた血の呪縛さえなければ──クレイと一緒に天寿を全う出来たかもしれないのに……。


 元々、私は結婚するつもりがなく──結婚したいなら条件として『決闘して私に勝て』と流布していました。ミラも私に似てそんな事を言い出していますが……。


 クレイはそんな気が強い私が欲しいと言い、決闘しました。


 結果──草原は荒地に変わり、クレイは私を負かして結婚しました。


 婚約の決闘以来、クレイは私に本気を出す事はなくなって、私に負けてばかりですが。


 でも、出陣前のしまいましたね……。


 私はミラの模擬戦を見ながら、出陣前のクレイとの熱い夜を思い浮かべます。



 次はベットで蹂躙しますからね?



 だから──クレイ……アークと2人で生きて戻って来て欲しい──



 継承をする事態になれば──


 ──その時には……クレイは……。


 ──あぁ、もうッ!


 ──むしゃくしゃするッ! 暴れたいッ!



 何より、中々決着がつかずにカンカンキンキン、金属音が五月蝿うるさいッ! さっさと終わらせなさいッ!



「ミラッ! さっさと片付けなさいッ! 細切れでも生きてたら問題ないわッ!」

「──はいッ!」

「ふふっ、これぐらいではやられませんよッ!」


 私の声にミラはペースを上げ、王太子もペースを上げます。


 使用人から「細切れになったら死んでますよ……」と聞こえてきますが、別に殺しても構いません。


 後処理ぐらい問題ないですからね。王には『反逆した王太子は処刑しました』とでも伝えればいいでしょう。





 2人の戦いはヒートアップしますが──


 ミラの方がやはり一枚上手。次第に追い詰めていきます。



 そろそろ細切れにしてくれませんかね?


 やはり、私がやりたいですね。



「剣だけとはいえ、強いですね。──やはり欲しい」

「私はお兄様のお嫁さんになるのですッ!」

「アークといると不幸になるだけだ。あんな無能などより──私と共に来いッ! ──ちッ」


 王太子の言葉を聞くと同時にミラの動きは変わる──


「お兄様を馬鹿にするな──ですッ!」

「──ぐッ、ぐあぁぁぁぁぁっ──」


 アークを馬鹿にされたせいか、ミラのが膨れ上がり、動きが更に速くなった後は王太子の右腕を斬り飛ばすと、その場に絶叫が木霊しました。


 王太子はまだ負けていないと言わんばかり剣を左手に持ち替え、構えを解かずにいたので、そのままミラにより全身を斬り刻んで吹き飛ばされて地面を惨めに転がります。


「そこまでッ!」


 マリアの制止の声にミラは止まります。



 中々良い声を出してくれましたね? そう思いながら笑みを深めます。


 私がすっきりしました。


 レイモンド家を敵に回すとこうなるという事を知らしめるに丁度良い噛ませ犬でした。


 王太子の護衛は執事達によりナイフを突き立てられて顔面蒼白です。きっと報告を王にしてくれるでしょう。


 しかし、ミラはまだまだ甘いですね。


 私ならば、殺さずとも──追い討ちで剣を突き刺すか、反対の腕も斬り飛ばすのですが……吹き飛ばしたせいでマリアが止めたじゃないですか……。


 まぁ、ミラが才能を開花させたのでいいでしょう。『闘気』は生命力を力に変えるスキルです。これでミラは更なる高みに行けるでしょう。


 訓練増し増しは無くなりましたが、後で説教しなければ──



 さて、王太子のをどうしましょうかね……何か理由をつけて更に痛めつけてやりたいのですね。


 ──!?


 ……そんなはなさそうですね。


 石ころを見るように王太子に視線を移すと──


「(聞いていた話と違う……忌々しいアークめが……ことごとく邪魔しよって……必ず殺してやる……)──とりあえずは──」


 王太子が地面に伏した状態でぶつぶつと何か呟いています。


「ミリア様ッ!」

「マリア、わかっています──」


 ──王太子は後回しですね。


「──模擬戦はここまでですッ! 全員戦闘準備──敵ですよッ!」

「「「はッ!」」」


 そのまま王太子を無視して命令を出すと全員が頷き武器を取り出します。


 さて、何が来るやら……アークはこの事も予想してたか気になる所ですね。アーク棒を大量に置いていきましたからね……。


 まぁ、何がこようと私のストレス発散にはなるでしょう。


 さぁ──


 を開始しましょうか──

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