第5話
「アーク様ッ! また学園で会いましょうッ!」
私は馬車の窓から顔を出してアーク様とミラちゃんに別れの挨拶をします。
「そうですね。楽しみにしております。道中お気をつけ下さい」
アーク様はそう言いながらお辞儀をします。
他の方がいるので丁寧な話し方をされていますけど、違和感が凄いです。
「お姉ちゃん、まだ来て欲しいのですッ!」
ミラちゃんは本当良い子です。こんな私でも抱きついたり、笑顔で話してくれます。
帰りたく無い──
もっと2人と一緒にいてお話をしたい──そんな気持ちになります。
私は──
もう仮面はしていません。
だって、ミラちゃんもアーク様も私に酷い事を言わないから。
それにレイモンド家の使用人も特に態度に出したりしませんでした。
私が唯一仮面を外せる場所です。
左目から涙が止まらないけど、見えなくなるまで手を振り続けます。
見えなくなり座るとお父様が話しかけてくれます。
「ソアラ、楽しかったかい?」
「はい、とても。ありがとうございました」
この機会を与えてくれたお父様には感謝しかありません。
「いや、良いんだ。クレイとも再度──話していたんだが、ソアラさえ良ければ婚約──「ダメです」──何故?」
「アーク様に私は相応しくありません。もっと良い人がいると思います」
「……ソアラ……実はな……アーク君は呪いを受けている」
「知っています。スキルを習得出来ない呪いなのでしょう? 本人から聞いています」
「……そうか、聞いているか……だが──全ては聞いていないようだな」
もしかして、それ以外にもある?
「どういう事ですか?」
「アーク君は周りに恐怖心、嫌悪感、不快感を抱かせる呪いを受けている」
「!?!?」
なに……それ……。
「アーク君の噂は知っているだろう? 嫌われ者という噂を」
「はい……」
そういえば初対面の時に震えが止まりませんでした。まさかその噂はそれがあるから?
でも私は何故か今は普通です。
「あれは呪いのせいだ」
「…………」
そ、んな……。
そういえば──アーク様は私が他に相応しい人がいると言った時に『おらんよ。こうやって普通に話してくれる者などおらぬ……』って答えていました。
人から嫌われる呪いなんて……なんて酷い呪い……今までずっとそんな環境だったの? そんな事一言も言わなかったのに……。
「それに──アーク君は人の本質を見抜くらしい。そしてそれはほとんど当たるとの事だ。アーク君から何か言われなかったかい?」
「周りを明るくしてくれる──そんな笑顔と言われました……」
「ふむ、ではやはり当たっているな。ソアラの笑顔はお母さんと同じで周りに元気を分けてくれる。よく笑ってくれた頃は屋敷も明るかっただろ? メイドや執事も元気を分けてもらっていたと言っていた。それが無くて今は寂しいともな……」
お父様は笑顔でそう言ってくれます。
陰口を言われていたわけじゃないんだ……私が勝手に塞ぎ込んでそう思い込んでいただけ?
「……ひっぐ……ひっぐ……」
事実を知った私の頬に涙がとめどなく流れていきます。
「ソアラ──アーク君は容姿には拘らないとクレイから聞いている。だから婚約の話、考えてくれないかい? アーク君の所ならお前を誰も傷付けたりしないはずだ」
「……私、幸せになっていいのかな? アーク様に迷惑かけないのかな?」
「きっと、大丈夫だ。だって──ソアラがあんなに笑ったのを見たのは久しぶりだったからね。それにまだ時間はある考えてみてくれないか?」
「はい……」
アーク様ならきっと、私を受け入れてくれると思う。
私も好きか嫌いで言えば好き。
だけど、この容姿では──学園で迷惑をかけてしまう……。
どうしたらいいのかな?
本当にいいのかな?
そんな事をずっと考えていると──
ふと、アーク様から貰ったプレゼントの箱が目に入ります。
何が入ってるんだろう?
箱を開けると──
エメラルドのような石をはめ込んだブローチと──
花を
手紙もある……何が書いてあるんだろう?
「おや、また良い物をもらったね? このブローチは魔石かな? さぁ、つけてごらん。きっと似合うと思う」
お父様に催促されたので手紙は後で読む事にします。
「はい」
私はブローチ胸に、ヘアピンを頭の左側につけてみます。
「おぉ、凄く似合ってるじゃないか! お母さん譲りの銀の髪とそのヘアピンは良く似合っているね。ブローチも──!?」
お父様が話している途中にブローチを中心に私の体が光出します──
とても暖かい光──
気持ち良い──
私は目を瞑り、しばらくその気持ち良さに身を委ねます。
しばらくして、目を開くとお父様が涙を流していました。
「お父様──どうしたのですか?」
あれ?
何かよく見え、る?
いつもより視界が広い?
「ソアラ──両手で顔を触ってご覧?」
両手? 私の腕は左腕しか──
私の目の前には2本の腕が見えます。
これは……私の腕?
恐る恐る、顔を触ります。
すると、あの窪んだ傷跡がありませんでした。それだけじゃなく──
鼻もある? それにやはり右目も見えている。
口の中も舌で頬を押してみると空洞が無くなっています。
私の両目からぼろぼろと涙が出てきます。
私は霞んだ視界で手紙を開けます。
『ソアラへ──
今頃、きっとプレゼントを開けてくれている事であろう。中身はブローチと髪飾りである。
きっと自分の容姿を気にしてつけたがらないかもしれない。だが、我を信じてつけてほしい。
そのブローチには部位欠損を治す効果がある。上手くいけばソアラは元の姿に戻れるやもしれん。だが、上手くいかぬ可能性もある。
出来れば一歩を踏み出す勇気を持ってくれると我は嬉しい。
それにどんなソアラであってもソアラに変わらぬ。周りの戯言に振り回されぬように。
もし、上手くいった時は我にまた笑顔を見せてほしい。
未来の婚約者、アークより
追伸:髪飾りも魔道具である。危機的な状況の時には必ずやソアラを守ってくれるであろう。
後、手紙など書くのは初めてなので作法とか気になったらすまぬ』
あぁ、ダメ……涙が止まらない……嬉しくて涙が出るなんて初めて……。
「ひっく……ひっぐ……アーク…様……貴方はどうして……私にここまで……──お父様」
「なんだい?」
「私は──アーク様の妻になります」
味方に引き入れたい、少しぐらい話せる友達が欲しい──そんな事を思ってレイモンド領に来ました。
ですが、今はアーク様の側にいたい。
「あぁ、やはりアーク君なら必ず幸せにしてくれる。それが今──証明された」
お父様は強く頷いてくれます。
「はい──」
しばらく、疎遠だった時間を埋めるようにお互いに涙を流し、時を忘れて抱き合いました。
それから2人で楽しく話しながら帰路に着きます。
屋敷に到着すると私は役目を終えて割れたブローチを握りしめ──
広くなった視野でレイモンド領──いえ、アーク様のいる場所を見つめます。
ミラちゃんがアーク様はたまに外出して凄い魔法をたくさん使っていたり、魔道具を作ったりすると2人きりの時に教えてくれました。
アーク様はとても変わった人だけど、凄い人……それにとても優しい……ミラちゃんが大好きと言っていた意味がよくわかります。
『我は元魔王であるからな』
ふと、彼が言った言葉が頭を過ぎります──
私の未来はこれから──
アーク様と共に歩んでいきます。どんな未来が訪れようと、どんな苦難が待っていようと──
私は彼と一生を共にします。いえ、アーク様を支えます。その為に努力は惜しみません。
もう、神様なんて信じません。アーク様が元魔王であっても構いません。私は彼のみを信じます。
そして、自分の力で前に進み──
幸せになります──
お母様──
天国から見守っていて下さい──
────────────
近況にて自作ソアラをUPしてます。
良ければご覧下さい!
こちらです!
https://kakuyomu.jp/users/tonarinotororo/news/16817139554882731666
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます