第48話 悪役令嬢が現れた?!

「えー、例の隣国の王子に代わって、新しい交換留学生がきたので紹介する」


 新学期そうそう担任がちょっと言いにくそうにひとりの女生徒を連れてきた。


「カルディナ・フォースフィードさんだ。実は彼女は――――」


 担任が紹介し終える前に金髪を縦ドリルにして赤いリボンでごてごてに飾り青い瞳をこれでもかとつり上げた少女が教壇の前に立ち、にこりともせず教室内をぐるりと見渡す。

 そして私と目が合うとまっすぐにこちらに向かって歩いてきた。


「お前がアイリ・ルーベンスね?」


「そうだけど……?」


 その少女カルディナは私の目の前で仁王立ちしてふんぞり返りながら言った。


「今すぐここで土下座してあたくしに謝罪し、お前の執事をあたくしに献上しなさい」


「え?嫌だよ」


 カルディナが驚いた顔をする。反論されるとは思ってなかったって表情だ。逆になんで言うこと聞くって思ってたのかを聞きたい。


「なんで、そんなことしなきゃいけないの?」


 土下座して謝罪もなにも初対面だし、なにを謝ればいいのか?

 そしてなんでセバスチャンをこの子にあげなきゃいけないのか?


「あたくしがそう望んだのだから、そうするのが当たり前でしょう?!逆らうなら国外追放にするわよ?!」


「はぁ、どうぞ?」


 別にセバスチャンと一緒なら国外だろうと異世界だろうとどこでも行くけど、セバスチャンを渡すのだけはお断りだ。


「って言うか、あなたはなんなの?」


「あたくしを知らないって言うの?!反逆罪で島送りにするわよ!」


「はぁ、どうぞ?」


 島送りって無人島とか?海のゴミ捨て場ならもう行きました。


「くっ!聞いていた通りとんでもない女ね!あたくしの敬愛するサディラン様をたぶらかし弄び、あんなお姿にしたあげく嫡廃に追い込み、あの国をあんなにしておいて、少しは罪の意識を感じないの?!」


「さでぃ……?誰?」


「隣国1番の筋肉を誇っておられたサディラン王子よ!お前のせいで嫡廃されて今は平民に落ちぶれてしまったあたくしの元婚約者よ!」


 カルディナは縦ドリルを激しくふりながらものすごい形相で私を睨みながら言った。


 ………………。あ、色黒王子のことか。そんな名前だったんた。そして婚約者いたのね。じゃあなぜ私に言い寄ってきたんだ。


「お前だけではないわ、この学園のほとんどの女が彼に言い寄り誘惑してきたそうじゃないの?!さらにこの国の王子の婚約者候補まで彼をその淫らな肢体で誘惑して堕落させようとしたとか!この学園はとんでもない所だわ!

 彼があたくしに泣いて謝ったのよ?!見知らぬ国のふしだらな女どもの誘惑に心乱されたせいで嫡廃され、あたくしとの婚約も破棄せねばならなくなったって!だからあたくしが彼に代わってこの学園を正しにきたのです!

 まずはお前と大人の関係にあると言うはしたない執事を献上しなさい!あたくしが成敗します!あたくしは北の果ての大国の皇女なのよ!」


 カルディナの長いセリフに教室の生徒たちは言葉を失った。あの色黒王子がこの学園でどんな悪行をしてたかなんてみんな知ってるからだ。

 でもカルディナは誰もなにも言わないのは、自分が正しいからだと思ったようで、ふん!と鼻をならした。


「この学園の男子生徒も彼に毎日貢ぎ物をしていたのでしょう?でも金銭をそのまま献上するなんて品位がないわ。所詮下賎の下々だから頭なんか回らないんでしょうけど。

 彼は困っていたそうよ?教師も教師で彼にごまをすっていたみたいだし、下品な学園ですこと!

 まずは大国の皇女であるあたくしを敬いなさい?お前のはしたない執事もあたくしを一目みればこの美しさにひれ伏し喜んであたくしのものになるのだから、手間をかけずに早く献上なさい!」


「え?だから嫌だけど」


 なんかルーちゃんのことまで悪く言われてるし、言いたい事はたくさんあるけどとりあえずなんでセバスチャンを渡さねばいけないのかさっぱりわからない。もちろん献上する気などないに決まってる。


「セバスチャンは私のだもの」


「呼ばれましたか?アイリ様」


 名前を言った瞬間、横にいた。セバスチャンはいつ瞬間移動の能力を身に付けたのだろうか?さすがにそろそろ慣れてきたけど。


「セバスチャンってエスパー〇美みたいね」


 物が体に当たるとテレポーテーションしちゃう女の子のアニメを昔再放送で見た気がする。あれ憧れるよねー。


「それはどなたですか?」


「エスパー〇美のこと?」


「いえ、そこの縦ドリルの方です」


 カルディナの事だった。


「なっ、縦ドリ……?!なんて失礼なおと、こ…………」


 セバスチャンに拳を振り上げようとしたカルディナは、セバスチャンの顔を見た瞬間動きを止めた。その顔はどんどん赤くなり、つり上がっていた目はとろんととろけていく。


「こ、この男は……」


「私の執事のセバスチャンですけど?」


「……聞いてたのと、違う……」


 一体どんなふうに聞いてたんだろうか?


「それで、どなたなんですか?」


「あー……、筋肉王子の元婚約者なんだって。なんか、セバスチャンを献上しろとか言ってきたから今断ってたところなんだけど……」


「あの王子の……」


 するとセバスチャンは一歩前に出て、カルディナに執事スマイルを向けた。


「はじめまして、私はアイリ様の執事のセバスチャンと申します」


 するとカルディナは振り上げたまま停止していた拳を自分の胸の前に両手で握り直し、興奮気味に言った。


「あ、あたくしはカルディナ・フォースフィードよ!お前をもらってやるからあたくしの物になりなさい!」


 カルディナの鼻息がちょっと荒い。セバスチャンを見て興奮でもしているのか。その気持ちはわからないでもないが、セバスチャンが減ったら嫌なのであまり見ないで欲しい。


「なんかね、断ったら国外追放か島送りにされるんだって」


「アイリ様はどうなさるおつもりで?」


「セバスチャンとならどっちでもいいけど、変な王子がいる国に行くくらいなら無人島でのんびりしたいなぁ」


「ではそうしましょうか」


 セバスチャンが私の荷物などをまとめだすと、カルディナが焦りだした。


「ちょ、ちょっと!どこにいくのよ?!」


「え?お望み通り島送りされようかと」


「お前がこの執事をあたくしに献上すればそんなことしなくてすむでしょう?!さぁ、こんな女に遠慮などせず素直にあたくしのものに」


 カルディナがセバスチャンに触ろうと手を伸ばしたが、逆にその手首をセバスチャンが掴んだ。


「あ……」


「申し訳ありませんが、私はアイリ様の執事ですのであなたの物にはなれません」


 セバスチャンは牽制してるつもりのようだが、カルディナは顔をさらに真っ赤にして目がハートになってる。これは、セバスチャンのセリフをかなりねじ曲げて(自分に都合よく)理解したって顔だなー。


「そう……この女のせいで、あたくしの物になりたくてもなれないと言うのね?!」


「は?」


「やはり、あたくしの美しさに一瞬で虜になったのね!でもすぐさま今の主人を捨てられないその義理堅さも悪くないわ。

 ならば、やはりアイリ・ルーベンスがあたくしに執事を献上さえすればみんな幸せになれるってことよ!あぁ、もう手を離してもよくてよ?いつまでもあたくしに触れていたい気持ちはわかるけれど、大国の皇女であるあたくしと執事のお前では禁断の愛ですもの。人前ではその気持ちに蓋をなさい。

 必ずお前をこの女から解放してあげるわ」


 セバスチャンは執事スマイルすらやめ無表情で手を離した。そしてカルディナが満足そうにうなずくと、縦ドリルがわさっと揺れた。


「あぁ、やはりあたくしの美しさは海を越えるのね!なんて罪作りなあたくしなのかしら!」


 今度は自己陶酔しはじめて、自分がどれだけ男を虜にしてきたかと武勇伝のようにひとりで語り出す。すっかり自分の世界に入っているカルディナはすでに私とセバスチャンがその場にいないことに気づいていない。

 担任に早退届を手渡し、私とセバスチャンは静かに教室を出ていた。





 ……また知らないキャラクターが出てきた。色黒王子ルートにあんな人いたっけ?

 そしてなんだか発言があれだ、……悪役令嬢っぽい?このゲームの悪役令嬢はヒロインの物を奪いとり学園から追い出そうと、それはそれは悪役に徹するのだ。しかし本来の悪役令嬢であるルーちゃんはもちろんそんなことしない。

 つまり、ゲームの強制力が新たな悪役令嬢を派遣してきたってこと?(悪役令嬢が派遣制度だったことにも驚きだが)しかし色黒王子フラグは完全に潰したはずなのになぜ関連キャラクターが出てくるのか謎ばかりである。

 私は誰の攻略も選んでないが、どこか変なルートに入ってしまったのだろうか。


「とりあえず、セバスチャンの入れた紅茶が飲みたい。なんか疲れちゃった」


「承りました」


 その日は寮の自室でのんびりすることにした。





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