第46話 ストーカーにはお仕置きを

 あれから1時間後、ルーちゃんの別荘のリビングには双子王子とそれを無言で睨んでいるルーちゃんの姿があった。

 あのあとあったことを簡単にまとめると……



 海水に濡れ、なんだか生臭い双子はふたりしてセバスチャンに襲いかかろうとして無表情のセバスチャンの美しい回し蹴りにより再び海水の中へ舞い戻っていった。


 目を回して水面にプカプカ浮かぶ双子王子をどこから出したのかロープで投げ縄をして捕らえると、そのままルーちゃんの別荘まで引きずって運んだのだ。

 驚くルーちゃんに簡単に説明し、セバスチャンとボディーガードさんの手によりお風呂に投げ入れられタオルでぐるぐる巻きにされて今に至る。




「――――で、わたくしのプライベートビーチでなにをなさってましたの?」


 ルーちゃんは優雅に微笑んでいるが、その手にはしっかりと鞭が握られていた。


「ルチアには関係な」


 ビシィッっ!!!


 ドS王子のすぐ横を鞭がかすり、床が少しへこんだ。大理石がひび割れている……。


の、プライベートビーチです。

 例え王子だろうと許可無く立ち入ることはできません。それができるのは、わたくしの夫になった方だけです。あなた方とはまだそんな関係にはなっていないはずですわ」


 ルーちゃんの目がかなり怒っているのかとても怖い。(私的にはそんなルーちゃんも可愛いので役得だが)私のファーストキスが寸前で双子王子に邪魔されたと知り、それはそれは怒っているようだ。


「それは、アイリがルチアと別荘に来ていると聞いて」


「一緒にバカンスしようと思ったらルチアの両親に断られたから」


「こっそり姿を見ようと思ってプライベートビーチの領域の外から泳いでわたって来たら」


「アイリがその執事に襲われてたから」


「「助けただけだ!」」


 双子王子が双子特有のシンクロ率で揃って一気に捲し立てると、同時にセバスチャンを指差した。


 ルーちゃんの所有するプライベートビーチはかなり広い。その領域の外から泳いできたとなるとなかなかな距離だ。双子王子たちの着ていた服は私服でボロボロだったが、一体なにをどう考えてそうしたのかさっぱりわからない。


「アイリちゃんはセバスチャンに襲われてなどいませんわ。むしろ襲ったのならさすがはアイリちゃんの魅力だと思いますけれど」


 ルーちゃんが呆れたようにいうと、ドS王子が唾を飛ばしながら叫んだ。


「あの執事は嫌がるアイリに無理矢理いかがわしい事をしようとしてたんだぞ!アイリの両親に教えてやれば即刻解雇にできるだろう!」


「そうだ!そんな破廉恥な執事なんて僕らの権力を使ってでも潰してやれば、きっとアイリの両親も感謝して僕とアイリの結婚を認めてくれるはずだ!」


「なにを言っている、それは俺だ!」


「僕だ!」


 ……セバスチャンが私にいかがわしい事をしようとしてた。なんて両親に言ったら、きっと喜んで結婚の準備をするだろう。私とセバスチャンの。

 セバスチャンもそれがわかっているのか半目でため息をついていた。


「……アイリちゃん、どういたします?なんなら簀巻きにして海に沈めてきますわ」


 いかん、ルーちゃんの目が本気だ。やめて、ボディーガードさん!黙々と色々準備しないで!さすがにそれはまずいと思うし!

 なんかぶつぶつ「ルチア様に向かってなんて口の聞き方を……」とか呟かないで!

 そして双子王子がなぜか私の取り合いをはじめてしまい、どちらが私にふさわしいかとかどちらが私の事をよく知ってるかなどと言い合いをしだしてしまった。


「俺はアイリのスリーサイズを知ってるぞ!」


「僕だってアイリの下着の色とかシャンプーの好きな香りとか知ってる!」


 ……なぜお前らがそんなことを知っているのか。そしてセバスチャンが無表情のまま拷問道具を準備してるのも気になるし。(どこにあったのだろうかと思うくらいの大きさな物まであった)

 あぁぁ、ボディーガードさんがセバスチャンのお手伝いをはじめてしまった!なぜそんなに息ぴったりでギロチンの準備をしているの?!

 ほんとにどこにあったの?!それ!ツッコミが止められなくて困るではないか。


「俺はアイリの背中に小さなほくろがあるのを知ってるぞ!」


「それなら僕だって……」


 ピュィンッ!


 なにか風を切る音がしたと思ったら、ドS王子の頬が切れて赤い血の筋が流れた。双子王子が揃って真っ青な顔をして私の後ろを見てくる。

 ……そこには狩猟用のライフルを構えたセバスチャンが無表情で銃口を双子王子に向けて立っていた。ライフル?さっきまでそんなもの持ってなかったのに、なぜライフル?


「……なぜそんなことを知っているんです?」


 怖い。セバスチャンから漂うオーラが怖い。私の背中にほくろがあるなんて、私も知らない。そしてドM王子は一体なにを知っているというのか。


「じゅ、じゅぎょ、の、きが、のぞ、」


「それは、運動着に着替えてるときに覗き見したと言うことですか?」


 カチリ。セバスチャンがライフルの引き金に指をかけた。


「き、着替えを覗いたくら……」


 ピュィン!!


 今度はドS王子の股の間に小さな穴があく。


「ひ、ひぃいいいぃぃぃぃっっっ!!!」


 ……ドS王子は腰を抜かしながら、四つん這いになって別荘から逃げ出していった。

 ついでにドM王子は「あ、兄上――――っ」と叫びながら追いかけていったが、少ししてから外にタオルが1枚落ちていて、ふたりともタオルの下は裸だったはずだが……とは思ったが無視することにしておいた。


「あの場所は、ちら見えするようなところではありませんわ。かなりガッツリ見ましたわねあの王子……」


 ルーちゃんは私がオイルマッサージとか受けてるとき一緒にいたのでほくろについて知ってるようだ。


「……覗き見できそうな場所にはトラップを仕掛けておいたはずなのに、まさか掻い潜られていたとは」


 セバスチャンも私の下着姿とかみてるからもちろん知っているようだ。


「ど、どこ?私の背中のどこにほくろがあるの?」


 みんなが知ってるのに私本人だけが知らないほくろの存在が気になったが、どれだけ首を後ろに向けても全然見えなかった。(体が硬いので、首も真横以上回らない)


「アイリ様。今度じっくり教えて差し上げますから、今夜もルチア様とご一緒に就寝なさってください。私は別荘の回りにちょっと色々仕掛けてきますので。

 ルチア様よろしいですか?」


「もちろんいいですわ。さ、アイリちゃん参りましょう?」


「う、うん」


 セバスチャンが外に向かうと、ボディーガードさんもペコリと頭を下げてセバスチャンに続いた。

 ……あの手にもっているのはダイナマ……手榴だ……ううん、見てない。そんなもの見てない。ロケットランチャーなんか見てない!





 夜中に遠くの方で爆発音が聞こえた気がしたが、気にしないことにした。

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