第3話 オープニングムービーはフラグだらけ

 ゲームを始めると、まず最初にオープニングムービーが流れる。それは各攻略対象者との最初の出会いの場面がそれぞれ流れるのだ。

 ロマンチックなメロディーと共に花びらが風にふわり浮かびハートの模様が浮かび上がると、タイトルが現れる。

 そのタイトルの文字と花びらが流れるように消えると、ムービーが始まった。

 右上に≪スキップしますか? yes:no≫と小さく書いてあり、2週目以降のプレイだとムービーは見ずにスキップしてゲームを始めたものだった。


 セリフなどは無く、映像だけが流れる。最初は双子の王子のドSの方からだ。ヒロインは当時6歳。吸血鬼の呪いの事を誰にも(両親にも)打ち明けられず、他の人には見えない吸血鬼が残した傷跡を隠すようにいつもタートルネックの服を着ていつもひとりぼっちでいた。

 その表情は暗く、陰りのある美少女として噂はされていたがヒロインは呪いの存在を知られるのを怖がりあまり人と関わらずに過ごしていたのだ。(さらにはなぜか身の回りで時折変な音がしたり急に風が吹いたりするのが、ヒロインには全て呪いのせいのように思えていた)


 その日もヒロインは一人で森の花園にいて、暗い顔で花を摘んでいる。そこにお忍びで町に来ていた王子(6歳、双子の兄、金髪碧眼)が現れた。

 どうやら迷子になり(なんでお忍びで町にきて森で迷子になるのか意味わからん)そこでヒロインを発見する。

 ヒロインに話しかけようと駆け寄るが草に滑って転けた拍子になんとヒロインの頬に手が当たってしまうのだ。ヒロインと王子の目が合い、ヒロインは何も言わず顔を真っ青にして泣き出しその場から逃げ出した。

 ヒロイン的には見知らぬ子供にいきなり殴られて睨まれたように感じた。まるで吸血鬼の呪いの事を蔑まれていると被害妄想だったのだが、とどのつまりただ怖かったのだ。(相手が王子だとは気づいてないけどそりゃ怖いよ。いじめだよ)


 しかし王子は違った。

 花園にいた完璧な美少女が王子である自分に頬を触られ驚いて泣き出し逃げた。(ここでは王子視点に映像が変わり、ヒロインからはキラキラが出てる)そして王子はその泣き顔を見て目覚めてしまったのだ。

 ヒロインの涙にゾクゾクとした初めての感覚を知る。ここで王子のセリフが画面下中央に字幕のように出てくる。(ここではまだ音声は無し)


「もっとあの子の涙が見たいな……」


 うっとりとした顔でヒロインが去った方向を見つめる。ここに変態ドS王子が誕生してしまった。



 画面が変わり、今度は町の路地裏。そこにはもう一人の王子(6歳、双子の弟、金髪碧眼)が道に迷っていた。(なんで双子の片方は森で迷子でもう片方は路地裏で迷子になっているのか)

 そこで森から逃げてきたヒロインと出会う。

 しかし双子の王子は一卵性で見た目そっくり(よく見ると見分け方はあるのだが)。ヒロインはさっき自分を殴ってきた男の子が先回りしてたと感じそのしつこさに怒りを感じ話しかけてきたその王子を思わず殴ってしまう。

 ヒロインははっと我に返り、再び真っ青になってその場を逃げ出した。

 もう一人の王子は話しかけただけで見知らぬ女の子(美少女)に殴られ完全にとばっちりなのだが、その殴られた頬を触りながら美少女の姿を思いだしうっとりとした。

 そしてまた画面下中央に字幕が現れる。


「もっとあの子に殴られたい……」


 変態ドM王子も誕生してしまった。もはやヒロインは変態製造機なのか。この双子と恋愛モードにどうやってなるのかがこの時点では皆無である。



 さらに画面が変わり町の中央にある噴水へ。小さな噴水の側でヒロインは呼吸を整えていた。

 するとそこへまたもやお忍びで来ていた(この日に合わせてお忍びしすぎだろうが、王子どもよ)隣国の王子(7歳、まだムキムキじゃない、銀髪茶色の眼、色黒)がなぜかヒロインに声をかけようとする。

 しかしそこへ突風で飛ばされた木材(一体どこから飛んできたのか)がヒロインに襲いかかり、色黒王子がとっさにヒロインを庇った。

 たいした怪我は無かったものの、先程から見知らぬ男の子ばかりが接触してきて恐怖やらなにやらで混乱気味のヒロインはペコリと頭を下げてまた逃げ出した。(おい、待てヒロイン!逃げすぎだろと思わず突っ込む)

 目を潤ませ涙ぐんで逃げたヒロイン(さっき変態王子に泣かされなのでまだ涙が残っていた)の姿をみて色黒王子は一目惚れ。

 画面下中央に現れた字幕には、


「あの子を守るためにムキムキマッチョにならなくては……!」


 と、訳のわからないセリフが出ていた。でも変態王子どもよりは比較的まともな恋の始まりである。(ムキムキ宣言には、色黒王子の国では筋肉とは正義である!という裏設定が隠されているのだが、ヒロインがムキムキマッチョが好きがどうかなんて誰も知らない)



 さらに画面が変わり町の上空へ。そこには一人の美青年が空に浮かびながら、走るヒロインの姿を見つめている。妖精王(年齢不詳、長髪黄緑髪に黄緑の眼)だ。

 なんと妖精王はいつも花園で一人でいる美少女なヒロインを密かに愛でていた。いつもは離れた所から見守っている(普通の人間には姿は見えない)のだが、攻略対象者の中で唯一ヒロインが吸血鬼に呪われている事に気づいていて、心配がだんだん恋心となりヒロインが大人になったら自分の嫁にしようと勝手に決めていた。(さっきの突風もヒロインに近づく色黒王子を牽制するために妖精王がやった)

 自分がヒロインを密かに守っていると豪語しているのだが、そのためにヒロインの回りで変な音がしたり急に風が吹いたりしていてそれをヒロインが怖がっていることなんて妖精王は欠片も気づいていない。(むしろ自分の存在をアピールしているつもり)

 またもや字幕が現れる。


「我が花嫁、あと10年たったら迎えに行く」


 妖精王は年齢不詳(見た目は25歳くらい)でヒロインはその時まだ6歳。10年経っても16歳。もはや妖精王がロリコンであることは決定的であった。



 オープニングムービーが終わりを告げ、再びタイトルが現れる。

 その下には文字が並び、ヒロインが吸血鬼の呪いにかかっていることやムービーに出てきた攻略対象者たちと恋をして吸血鬼を倒してハッピーエンドを目指そう。みたいな説明文が書かれていた。

 吸血鬼の事がはしょられ過ぎだが、私の最愛の推しが吸血鬼に確定するのはもう少しゲームを進めてからである。


 説明文が消え、ゲームスタートの文字がチカチカと光った。



 もう、不穏なフラグの予感しかしないオープニングムービーである。

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