異世界焼き鳥騒動記

三枝 優

彼女は焼き鳥が食べたいと言った

 留学先の大学が夏休みのため、里帰りしているエルザが言った。


「焼き鳥が食べたいんっスよねぇ。冷えたビールで」

「なんだと?」


 ハイライトの消えた瞳で、表情が凍り付いた顔で見下ろす料理人のシュン。


”なにいってんだこいつ”

 という内心を隠そうともしない。



 なぜなら、ここは・・・・異世界。


「だから~~、焼き鳥が食べたいんっス。たれの絡んだジューシーな焼き鳥が」


 エルザは、シュンの表情に気づかないのか、ホイコーロー(豚肉が無いので鹿肉で代用)を口に運びなら言う。


 そんなエルザを、冷めきった瞳で見つめるシュン。

 シュンが、エルザの言葉を無視するのは無理もない。


 この世界・・・家畜化された鶏は存在しないのだ。

 しかも、たれ・・・ 醤油も無い。


 とんだ無茶ぶりなのだ。


「そんなことできるわけないでしょう」


 にべもなく、拒否するシュン。




「焼き鳥と言うのは・・・うまい料理なのか?」


 壁際のカウンター席に座っている客から声がかかる。


「え?・・・シルビアさん・・・」


 泣く子も黙る、近衛騎士団小隊長のシルビアだ。


「そりゃあもう、ビールを飲みながら食べる焼き鳥は絶品なんス」

「それは、ぜひ食べてみたいな」


 そんなやり取りを、茫然と聞く。


「あの・・・食材が手に入らないから、さすがに難しいかと・・」

「ほう・・シュンよ。私が頭を下げて頼んでもダメなのか?」

「いや、頭下げていませんよね。

 シルビアさん?なんで、剣に手をかけるんですか?

 え・・・店内で剣を抜かないで・・・お願いですから。

 あ・・・やめて~~~!」




 そう言ったわけで、シュンは焼き鳥の注文を受けざるを得なかったのだ。


 

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