第54話 勇者の固有スキル(ベネディクト視点)

 空間を切断して別の空間へ繋げることができる『葬送転移』は予備動作が大きいが、一度発動してしまえば、どんな相手だろうと避けることができない。

 空間が収縮し飲み込まれていくフラスコ王子と兵士を眺めながら、終わりを噛み締めていると、


 横からの剣の一振りで『葬送転移』による空間の裂け目が消失する。


「なっ――」

「私はねぇ、自分以外誰も信用していないのだよ」


 フラスコ王子が横の人間から手渡された剣を振ってきたので、慌てて自分も構え直す。

 だが、フラスコ王子の方が事態を把握している分動きが速い。


「しまっ――」


 私が放った斬撃はあらぬ方向へと飛び、フラスコ王子の『葬送転移』は私の身体を真っ二つにした。

 私の腕が宙をくるくると回り、胴体が斬られた私は倒れ込む。


 他の兵達は『葬送転移』で飛ばされたみたいだが、私の固有スキルは腕が無ければ発動できない。

 もう何の抵抗することもできない。


「――カッコウ。君のことも信用していないからこそ、伏兵ぐらいは忍ばせてもらっていたよ」


 伏兵――それは勇者である逢坂陣だった。

 ずっと気配を殺して傍に居たらしい。

 透明化や気配遮断のスキルを使ったのだろう。

 全く気が付かなかった。


 そして、フラスコ王子と逢坂が使った剣は同一のものだった。

 つまり、勇者専用の剣ではない何の変哲もない剣を使ったということ。

 それなのに『葬送転移』が破られるとは想像もしていなかった。


 フラスコ王子が『葬送転移』を使えること自体には驚きはない。

 他人と同じスキルを扱えるスキルの持ち主であることは、あの時から既に知っている。


 だから問題はフラスコ王子よりも、現勇者のスキルだ。


「ど、どうやって!?」

「んー? 君の固有スキルの『葬送転移』は確かに強力無比だ。一度発動させれば絶対不可避のスキル。ただ、それを打ち破れるスキルは存在したのだよ」


 発動する前に防ぐならまだ分かる。

 絶対に盾を貫く矛と、絶対に貫かれない盾。

 そんな矛盾めいたスキル同士が衝突する時だってあるから、その際に防がれてしまう時だってあるだろう。


 だが、『葬送転移』が発動し終わった後に消滅させられたのは衝撃的だった。


「『絶対急所』……。万物の急所を見抜き、破砕させることができる固有スキル。全てを貫く矛はスキルであろうと完全に破壊することができる。かつての勇者同様のスキルを無効化するスキルの類似版だよ。実に愉快だ」


 身に着けている甲冑でレベルを維持できているのか?

 レベル1のスキル効果とは思えない。

 ドーピングでもしたかのような効果だ。


「……スリ、ク……リ……」

「あーあー分かった、分かった!!」


 フラスコ王子は膝をついている逢坂を思い切り殴打する。


「グエァ!!」

「ほら、飲み干せ」

「アッ、アアア……」


 地面に液体をぶちまけたのだが、構わず四つん這いで犬のように舐めていた。

 逢坂は禁断症状が出て、おかしくなっている。

 恐らくヘブンアッパーを過剰に摂取させられて、正常な思考になっていない。


 リーベルタとかいう女性も摂取していたが、彼女はまだ人語を話せていた。

 だが、より濃度の高いヘブンアッパーを短期間の内に大量に摂取させられると、あんな風に壊れてしまう。


「さて、と」


 スキルによって切断された腕だが、『葬送転移』自体に殺傷能力はない。

 勇者を倒したので、世間では誤解されがちだが、敵と対峙した時は武装解除をするのが関の山だ。

 ただ、残虐な発想の使い手によっては、武装解除以外の使い方もある。


「ああああああああああああああっ!!」


 落ちていた腕を剣で刺して、グリグリと傷口を抉ってきた。

 スキルを使わなければ、勿論剣は突き刺さる。


 五体満足ではない俺は一切抵抗ができないまま甚振られる。

 これがフラスコ王子による『葬送転移』の使い方だ。


「何故裏切ったのか最期に聴いておこうか」

「裏切るも何も、最初から仲間になった覚えもないですよ。私の仲間は昔から勇者だけだ」

「その勇者を殺したのは君だろうに。八つ当たりは止め給えよ」


 剣で遊んでいたフラスコ王子だったが、その手が止まる。

 私の落とした日本の刀剣の内の一本に眼を付けたようだ。


「この刀……。そうか。そういうことか。話を聞いていたのか。だが、もう遅いのだよ」


 構えるのは居合の構えだ。

 自らのスキルで私は処せられる。


「『葬送転移』」


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