第20話:竹富祐子とランチ②

***


「ごちそうさま竹富。めっちゃ旨かったよ」

「よかった」


 竹富は食後の珈琲を飲んでる。

 俺は珈琲が苦手だから紅茶だ。


「竹富。ところでさっきの話だけど」

「さっきの話? なに?」

「お前がなにを企んでるのかって話だよ」

「何も企んでなんかないって。ホントにお礼の気持ちなんだから」

「でもお礼なんて学食で充分だよ。こんな5倍の金額は多すぎる」

「なるほど。じゃあ後4回は助けてもらうってことで!」


 ──は? やっぱそういう魂胆か。


「お前なぁ……後4回も襲われるつもりか? ちょっとは学習しろよ。危ないことはすんな」

「あ、それって……私を心配してくれてるのかな?」


 おいおい。だからそんな可愛らしい顔すんなよ。

 コイツあれだな。あざと女子ってヤツ。

 よくテレビでテクニックを紹介してるし。


 昔はそんな感じじゃなかったけど、大学生になってこいつもテクニックを身につけたんだな。


 だがしかし!

 そんなテクニックにやられる俺ではない!


「ありがと♡」

「お、おう」


 やられた。

 俺ってチョロい。


 竹富が可愛く見えるなんて世も末だ。

 あざとテクニックには、今後はより一層注意しよう。


「ところでさ佐渡。ひと目落ちってあると思う?」

「なに、ひと目落ちって?」

「初対面で惚れるのがひと目惚れでしょ?」

「うん、そうだな」

「前から知り合いで、それまで何も思ってない異性がいるとするじゃん。そんな相手になにかカッコいいとか、可愛い場面を見て急に惚れるのがひと目落ち。私の造語だけどさ」


 そんなことあるか?

 そもそも俺には恋愛経験がないからよくわからんけど。


「好きになるって、色んなことの積み重ねじゃないのか?」

「そおかなぁ……私はあると思うんだよねぇ」

「そんなこと、恋愛経験皆無の俺に訊くな。同じゼミの男にでも訊けよ」

「そんなの訊きにくいから佐渡に聞いてんじゃん」


 あ、なるほど。わかった。

 きっとその『ひと目落ち』の相手が同じゼミの男なんだ。

 それなら本人はもちろん、ゼミの他の男にも訊きにくい。


 竹富の『ひと目落ち』の相手は誰なんだって噂になるもんな。


「竹富の『ひと目落ち』の相手って、同じゼミの男だろ」

「えっ……いや、えっと……」


 口ごもってるな。さすがに俺なんかに、ホントのことは言いたくないよな。


「言いにくいなら言わなくていいよ。でも竹富って昔からカッコいい男が好きだったからな。そいつ、カッコいいんだろうなぁ」

「あ、うん。……すごくカッコいいよ……」


 あの竹富が、こんなに恥じらう顔を見せるなんて。

 そんな可愛い顔は俺じゃなくて、好きなその男に見せろよ。


 俺はいったい何を見せつけられてるんだ?


 はぁ……やってらんね。


「あ、ところでさ。佐渡って『やるき館』って塾でバイトやってるんだよね。この近くの」

「うん、そうだけど。それがなにか?」

「いや……バイトしなきゃいけないって大変だなぁと思って」


 いやいや。今どきほとんどの学生がバイトしてるだろ。仕送りだけで生活できるのは一部の裕福な家庭だけだ。


 コイツんちは開業医だからなぁ。

 自分は金持ちだってマウント取ってるのか?

 

 高校ん時から、自分の方が成績いいとか家が金持ちだとか。散々マウント取られたからな。


「いや別に。周りの人はみんないい人だし楽しいぞ」

「そうなんだ」


 実際にはイケメンで俺様系の先輩とか、くそ生意気なギャル女子高生とか。色々アレだけど。


 まあ、そういうことにしとこう。今は。


「あ、そろそろ行かなきゃ、次の講義が始まるぞ」

「ホントだ」

「今日はありがとう竹富。ごちそうさま。あと4回分のお返しは、また必ずするから」


 それこそコイツに借りを作ったままじゃ、安心して眠られやしない。


「そんなこといいのに……あ、いや。じゃあ、また何かお返ししてもらうよ佐渡。楽しみだなぁ、うふふ」


 怖い笑いはやめてくれ。

 やっぱりコイツ、更なる見返りを期待してたんじゃないか。


 お返しするなんて言わなきゃよかったかな……

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