第18話:小豆が質問に来た!

 歓迎会の翌日。

 自習室のデスクで事務仕事をしながら、生徒の質問を受けてる。


 なんか最近、質問にくる生徒が増えてるんだよなぁ。しかもなぜか女子が多い。

 そろそろ生徒達も、俺の存在に慣れてきたってことかな?


「ありがとうございます佐渡さど先生」

「うん、またいつでも質問してよ」

「はい……えっと……あの……」

「ん? どうしたの? まだ何か質問ある?」

「いえ、そうじゃなくて……」


 なんだろ?


「この前階段で女の子を受け止めたの見ました。か、カッコよかったです」


 あ……逃げるように行っちゃったよ。

 あれを見てたのか。ちょっと照れるな。


 でももしかしたら。

 生徒想いの人だって思われて、質問者が増えてるとか?


 いや、それはいいふうに捉えすぎだな。

 勉強の質問することとは直接関係ないからな。


 とは言え。

 今近くで質問に答えてる八丈先輩の方が、圧倒的に質問者が多い。一人が終わったらすぐに次の質問者が来るって感じ。


 俺の方はポツリポツリだ。


 八丈先輩の解説が時々漏れ聞こえるけど、やっぱり知識量が半端ない。

 聞こえる解説が、俺にはわからないことも多いんだよなぁ。とほほ。


 それをふんふんと聞いてる生徒もすごい。

 質問に来る生徒も超難関狙いの子が多いからな。



 ──あ。珍しいヤツが来た。


 派手な金髪だからすぐに目につく。小豆あずきだ。

 今日は友香ちゃんと一緒じゃないのに、なんで自習室に来たんだ?


 あ、こっちに向かってくる。

 なにか文句を言いに来たのか?

 来るなら来い。返り討ちにしてやる!


「あのさ、ちょっとしつも……」


 ──え?


 そう言えばコイツ、手に問題集持ってる。


「佐渡先生! ちょっと質問いいですか?」


 タッチの差で、先に他の女子生徒が質問に来た。


「あ、うん。いいよ」

「うぐっ……」


 うわ。小豆、睨むな。俺が悪いんじゃない。

 お前のタイミングが悪いんだ。

 こっちの子の方が、先に俺の前まで来ただろ?


 でもコイツが珍しく質問しに来るなんて。

 天変地異の前触れか?


 いや、そんな悪いふうに取ってはいけない。

 友香ちゃんみたいに、物事をいいふうに捉えよう。


 小豆はきっと、急に勉学の楽しさに目覚めたのだ。

 そうだ。そうに決まってる。


 ──あ、八丈先輩に質問してた子が終わった。


 幸い次の質問者も来ない。

 これはチャンスだ。


 小豆だって俺なんかより、憧れの八丈先生に質問する方が嬉しいだろう。


 ──八丈先生が空いたぞ。


 小豆に向かってチラチラと目配せする。


 ほら、行け。なに固まってんだよ。

 早く行かないと、また次の質問者が来るぞ。


 俺の意図が伝わらないのか?

 いや違う。小豆はチラッと八丈先輩を見たし。


 あ、そっか。憧れの先生だから、恥ずかしくて声をかけられないんだな。


 ギャルのくせに案外純情かよ。

 よしわかった。俺がひと肌脱いでやろうじゃないか。

 俺ってなんて心優しい、いいヤツなんだ。

 感謝しろよ小豆。


「あの……八丈先輩。この子が質問したいって……」

「あっ、用事を思い出した!」


 ──へっ?


 小豆は早足で自習室から出て行ってしまった。


 なんだよ、せっかくのチャンスをお膳立てしたのに。急に用事を思い出すなんて、タイミングの悪いヤツだなぁ。


 まあ俺には関係ない。

 目の前の生徒の質問に答えることに全力を注ごう。




 しばらくして──


 また入り口から金髪ギャルが入ってきた。

 小豆が来たら目立つからすぐにわかるな。


 用事は済んだのかな。

 えっと八丈先輩は……


 うわ、別の生徒の質問に答えてる最中か。

 ホントにアイツ、タイミングが悪いよなぁ。


 小豆が近寄って来たから、残念さを煽ってやろう。むふふ。


「なあ小豆。お前ホント、タイミング悪いなぁ。八丈先輩、空いてないぞ。残念だなぁ。ああ、残念だなぁ」


 ほらほら、悔しがれ。


「そっかぁ。じゃー仕方ない。ぎんに教えてもらおー」


 ──え? もっと悔しがれよ。つまらん。

 しかもまた一文字呼び捨て?


「仕方なく俺に訊くくらいなら、しばらく待てよ。そしたら八丈先輩が空くから」

「あ……いやいや。今日は用事があって、早く帰らなきゃいけないんだった。ああ、八丈先生に質問したかったけど仕方ないなぁ。仕方なく銀に質問するかな」

「は?」

「……ってわけで教えてよ」


 なんだよ。そのリザーブ感満載なお願いの仕方は。

 俺なんてどうせ八丈先輩の控え選手だよ。

 ムカつく。教えてやんねぇよ。


 でも──


 せっかくあの・・勉強やる気のない小豆あずきがやる気を見せてるんだ。


 ああもうっ!

 そんなヤツを放っておけるかよ。


「わかった。教えてやる。わからないところはどこだ?」


 おいこら、そんなに嬉しそうな顔をすんな。

 ますます一生懸命教えたくなるだろ。


 結局俺は、めっちゃ懇切丁寧に教えてしまった。


 くそっ……ムカつく。

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