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「雨、降ってるね」


居間で、ソファに腰を落ち着けながら、愛読書に目を通していた私の隣で、彼女が呟いた。


外に目を遣ると、確かに、瑞々しい糸の数々が、しとしとと地面に向かって降り注いでいる。


「ああ、そうだね」


ふと、海と緑雨の混ざった香りが、私の鼻腔を通り過ぎ、あの日の光景が、私の脳裏に蘇る。


「…線香花火、しようか」


「…え?」


彼女が、呆気に取られたような声を漏らす。


私自身も、思わず出てしまった自分の言葉に、少なからず動揺していたが、そんな事はおくびにも出さず、言葉を続ける。


「しばらく、行ってなかっただろう。あの、紫陽花が良く見える、海辺の公園に」


「そうだけど、でも…」


思い詰めた様に、しばらく逡巡していた彼女は、首を振りながら、


「…ううん、そうね。久しぶりに、行きましょうか」


と、あの、彼女には似つかわしくない、凛とした、良く通る声で、私に答えた。

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